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▶ 今月のお題
・ ウィキッド ふたりの魔女
・ ドライブ・イン・マンハッタン
・ ANORA アノーラ
・ プレゼンス 存在
ウィキッド ふたりの魔女
2024年/アメリカ/161分 3月7日公開
監督:ジョン・M・チュウ
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ
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「オズの魔法使い」に登場する2人の魔女の若き日を描いた大ヒットミュージカルを映画化。緑の身体に生まれついたエルファバは、魔法の才能を認められ名門大学の入学を許される。裕福な家に育った娘グリンダと同室になり、最初は反目し合うも、やがて親友の絆が生まれるのだが……。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
鮮やかで美しい色彩と、迫力ある歌声や音楽の洪水に圧倒される161分。アリアナ・グランデはもちろん、ほかのキャストも全員の魅力が大爆発していてずっと楽しいのだけど、肝心のエルファバとグリンダが心を通わせあう場面が、すこし唐突に見えて消化不良気味。しかし、そんなモヤモヤもどうでもよくなるくらい、終盤に登場するジェフ・ゴールドブラムが最高。あんなに胡散臭くて様子がおかしい紳士、なかなかいないよ!
奥浜レイラ ★★★★☆
舞台版を観たのがずいぶん前なので細かく比較するのは難しいが、社会的メッセージがより具現化されていて、娯楽性の高い作品の中で有機的に交わっていることに映画を観るたび感心する。繰り返される迫害や、歴史修正、反知性主義の台頭に対する問題提起が映画だからできる表現で強化され、それでいて華やかで目にも楽しい。主人公2人の関係の変化はやや唐突さを感じたが、精神的な追いつかなさを凌駕する歌のパワーにもっていかれた。
Taul ★★★☆☆
ビートルズ解散時のジョンとポールの決別は、蜜月終焉の哀愁と独自性への挑戦があり悲しくも面白い。本作も同じで、エルファバとグリンダが自分らしさを選択して別れる終盤は実にドラマチックだった。でも、そこまでが長い。歌と芝居でダブって語るので冗長だし、ミュージカル映画としては平凡な演出が多く、『オズの魔法使』好きとして見せ方は物足りなかった。ただ、グリンダが魅力だし多くの伏線は気になる。後編が早く観たい。
マリオン ★★★★★
外からのイメージと本当に望む自分の姿との大きなギャップ。正反対なふたりが抱える息苦しさは、強い絆へと変化していく。エルファバとグリンダが言葉を超えた舞いで繋がる瞬間はとても尊くて感動的だった。しかし、我々は運命が残酷な結末を用意していることを知っている。覚醒の高揚感と重力に引き裂かれる友情の切なさが重なる「Deflying Gravity」の複雑さは忘れがたい。お願いだから早く続きを見せてくれ。
村山章 ★★★★☆
美貌とグッドハートはあるけれど自分の価値観を育てないまま生きてきた空っぽ娘を誇張ギリギリで演じたアリアナが素晴らしい。2時間40分かけてまだ半分?という気持ちはあるが、前知識ゼロのまま王道学園青春ものとして楽しんだので、差別問題の扱いや最終的な作品評価は後編まで保留としつつ暫定で★4つ。しかしオズでもワカンダでもアスガルドでもいいんですが、架空世界の都市に生活感をもたらした成功例をそろそろ見たい。
Wassy ★★★★★
四季ファン歴18年の私。1週間に2回観て大号泣するほど大満足。JK時代もアラサーの今も「私、弱い者代表として自分の人生ひとっ飛びしてくる!クソ怖いけど見てて!」と西の空に飛び立つエルフィーの勇姿に鼓舞される。同時にそれを見送り、自分の人生に向き合うグリンダの葛藤にも心を揺さぶられる。自分らしく生きる選択は何歳になっても激ムズだ。私自身、毒親育ちの幼少期からアダルトチルドレンへと成長し、気付けば他人の顔色を(続く)
ドライブ・イン・マンハッタン
2023年/アメリカ/100分 2月14日公開
監督:クリスティ・ホール
出演:ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペン
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ニューヨークの空港に到着した女性が自宅に帰るためにタクシーに乗ると、中年の運転手が話しかけてくる。お喋り好きの男との赤裸々な会話は、彼女が秘めていた事情を暴き出していく。脚本家として活躍するクリスティ・ホールが舞台劇を想定して書いた脚本を映画化した監督デビュー作。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
登場人物全員、気持ち悪い。女性の悩みの種である交際相手も、それを選んだ女性も、そいつとやりとりするメッセージも、延々話しかけてくる運転手も。二人芝居の会話劇なのだけど、会話自体が居酒屋でおっさんがくだを巻きながらしゃべっているみたいなセクハラ満載の下ネタや、セックス談義的な内容で、しかもそれに付き合うのも「わかってるわたし」ムーブだったりして辟易する。会話のつまらない会話劇、ひたすら退屈。
奥浜レイラ ★★☆☆☆
監督が『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』の脚本家と知り「なるほど。我々を襲うトキシック・マスキュリニティを、生々しくフィクションに落とし込める人なのね」と合点。それを詳らかにしていく脚本はなかなか良かったが、最後に女性が入力したチップの金額に小ゲロがこみあげた。散々セクハラしてくる相手に「でもあの人にも良いところはあるから……」と、その有害性にぼんやり加担する人みたい。もしかして額を間違えた?
Taul ★★★☆☆
ショーン・ペンはほんとズルい。ビートルズの曲が満載の『アイ・アム・サム』では、イメージとのギャップを活かした父親役で、歌の世界の住人になり泣かされた。本作ではゲスな運転手役でスリルを与えつつ、最後はいい話だと思わせる。この意外性が肝の会話劇だと思うが、彼のやんちゃなイケオジ俳優という免罪符で成り立ってる感じはある。セクハラはもちろんNGだが、自分も時には、苦いが良薬みたいな味のある話をしたいものだ。
マリオン ★★☆☆☆
下ネタを言ってきたり、ズケズケとパーソナルな部分に踏み込んできたりと正直関わりたくないタクシードライバーである。でも、父親の面影を追い求めて不倫に興じる主人公にとって、彼とのお喋りは決して悪いものではなかった気がする。きっとあんな風に父親から人生のアドバイスをもらいたかったのではないか。何も解決してないが、彼女にとっては大切な時間だったのだろう。見知らぬオヤジに父を重ね、彼女は今日も生きていく。
村山章 ★★☆☆☆
「日本じゃ自販機で使用済みパンティ売ってんだぜ」と嬉しそうに話すオジサンが「バカなん?マジで使用済みって信じてんの?」とツッコまれ「それはどう認識するか次第」と禅問答で返すのがくだらないけど真理に触れてて良かった。それ以外はキモいセクハラおやじが別のキモいセクハラおやじをディスり延々若い娘に説教する話でしかなく、謎のいい話風ラストに大いに戸惑う。最後のチップが0だったらピリリとした映画だったかも。
Wassy ★★☆☆☆
窺うプロになっていた。そんな32歳の秋、激務で心身を壊して初めて「このまま我慢し続けるくらいなら、リスクを負ってでも自分らしい人生を選びたい」と思った。退職して大学院に行くことを決めて、離婚もした。退職届も願書も離婚届も「Defying Gravity」と「For Good」を聴きながら書いた。エルフィーは「私の価値を証明させて」と言ってグリムリーを開く。でも、価値を証明する相手は他人じゃなくて自分で良かったんだ。(続く)
ANORA アノーラ
2024年/アメリカ/139分/R18+ 2月28日公開
監督:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン
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ストリップダンサーのアニーは店の客だった大富豪の息子イヴァンと結婚。しかしイヴァンの両親は婚姻を無効化するべく部下たちを差し向ける。ドタバタな喜劇調で進行するヒューマンドラマ。第97回アカデミー賞で作品賞など5部門を受賞。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
元気いっぱいの女の子が理不尽に立ち向かう暴れまくり痛快ムービーなんかでは全然なくて、最後までずっと、若く美しい女性が、自分ひとりではどうやってもどうにもできないことばかりが描かれる。自分の肉体込みで使えるものは使って、搾取してくる側から全部奪い取ってやる!と意気込んだところで、その価値すら見てくれない世界では何者にもなれない虚しさばかりが募っていく。夢と嘘と無力と搾取と果たされない復讐の物語。
奥浜レイラ ★★★★☆
仕事をして見合った対価をもらうこと、関係を一緒に決めたイヴァンと話をさせてほしい。アノーラは当たり前のことを主張しているのに「身の程を知れ」とばかり、こちらに非があるように扱われるこの構図は現実社会でも見覚えがある。尊厳についての映画だと受け取っていたので、彼女が自分1人で尊厳を取り戻すラストが観たかった気もする。マイキー・マディソン=アノーラの命の煌めきに魔法にかけられたみたいに夢中になった。
Taul ★★★★★
ビートルズの「For No One」では、誰のためでもない涙を流した女性が、翌日には化粧して出かけていく様子が歌われる。本作のラストもそれに似た複雑な味わい。さまざまな解釈を許容するが、自分の誇りのために戦った女性の揺れる思いが情景と溶け合って生まれた「映画ならではの動く感情」として受け止めたい。ウエディングの花びらより儚い雪が舞う中、涙を拭うようにワイパーが動き続ける。こんなシーンに出会うために映画館に通ってる。
マリオン ★★★★★
誰もが逃れられない現実を生きている。傷つきたくなければ、自分を押し殺して支払われた対価に見合う振る舞いをするしかない。そうやって生きてきたアニーが、アノーラとしてここ数日間の理不尽について誰かと一緒に泣く時間を過ごせたことに、安堵と悲痛が入り混じる複雑な感情がこみ上げてくる。見返りのない優しさなんて幻想かもしれない。でも、少しぐらい信じたっていいだろう? 降り積もる雪よ、どうか温もりを隠さないで。
村山章 ★★★★★
イゴールはいいヤツかもしれないが、手慣れたバット使いなど明らかに暴力の世界に身を置いてて、最後まで当人は気づいてないけれどアノーラが身の危険を訴え続けたのもぜんぜん的外れじゃないし、コメディ調でありつつも、女性が置かれている社会的現実や平素から晒されている脅威が水面下に横たわっているので、最終的にエンタメとして摂取していた自分が冷や水を浴びせられるような怖さがある。まったくもって油断がならない。
Wassy ★★★☆☆
散々傷付いて色々失ったけど、彼女も私も自分の価値は自分で決めたい人間だったんだ。それにやっと気付いたからこそ、独りで自由になると決心できた。最近、元夫の再婚を知り、後悔しないと決めたはずなのに落胆している自分に落胆した。でも、翌月の公開初日に本作を観て「誰が悪いとかじゃない。今までお疲れ様」と言われた気持ちになった。インナーチャイルドをハグしたくなったのは人生で初めて。そもそも対立する当事者同士の(続く)
プレゼンス 存在
2024年/アメリカ/84分/PG12 3月7日公開
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ルーシー・リュー、カリーナ・リャン
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ある家族が引っ越してきた屋敷には、目に見えない何ものかが存在していた。何ものかは屋敷の中をさまよい、家族それぞれの秘密を目撃していく。長女のクロエを見守っている様子の“それ”の正体とは? 異才監督ソダーバーグが全編幽霊側の視点で描くヒューマンホラー。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
幽霊視点で家の中をぐるぐる回ったり、生きている人間に近づいたり離れたりしながら、そこに住むひとつの家族の様子を観察し続ける。浮遊しながら家の中を移動していくカメラワークなので、しょっぱなから画面酔いし、グロッキーになりながら全編を薄目で鑑賞。どうやら幽霊になったところで、できることとできないことがあるっぽいし、この人(幽霊だけど)もたいへんなんだな……と雑な共感をしてそっと目を閉じました。
奥浜レイラ ★★★★☆
同時期に観たアカデミー作品賞候補の『ニッケル・ボーイズ』は主人公の主観視点で歴史の暗部を問責する内容だったが、本作は幽霊の目線で家族やその周辺の病理を暴く。霊の一人称視点がご丁寧に手元に寄ったりと、少し説明的なカメラワークもミステリーに浸るほど気にならなくなった。制作のきっかけになった監督と脚本家の恐怖体験が、こんなエモみのあるホラーになるなんて! 自分でも意外だけどラストはちゃんとゾクっとした。
Taul ★★★☆☆
引っ越してきた家族の危うさを幽霊目線で見せる変わった趣向。幽霊が危険な気配を嗅ぎつけた時に素早く移動するカメラワークが見事で、まるで「家政婦は見た」状態に。何かあるとクローゼットに隠れるのはもはやキュートで、カメラ操作をしてるソダーバーグ監督が一番の存在感だった。ビートルズのサウンドコラージュの奇妙な曲「Revolution 9」で、テープ操作をしてるジョンとヨーコの満足気な顔が浮かぶのに似てる。
マリオン ★★★☆☆
観ている間ずっと「超えられない壁」を意識してしまう。断絶を埋められない機能不全の家族。そんな家族を見つめる幽霊は何か言いたげだが、できることはポルターガイストだけ。そして、観客は幽霊の目を通して、家族の姿を見届けることしかできない。理解したい、触れたいと思っても、映画は容赦なくブラックアウトしながら進んでいく。感傷的な映画ではないけど、相容れないという事実にセンチメンタルな気持ちになってしまった。
村山章 ★★★☆☆
監督であるソダバがいつものように(ピーター・アンドリュース名義で)撮影監督を兼ね、幽霊目線というテイでカメラを抱え、幽霊として屋敷の中を歩き回り、たまに心霊現象を起こしては定位置であるクローゼットに戻っていく。現場の裏を想像しすぎるのはあまりいい見方ではないが、ほとんど主演俳優状態のソダバの八面六臂があまりにも微笑ましい。怖くはないしさすがにコンセプト過剰だとも思うけど、まず映画としてかわいい。
Wassy ★★★☆☆
主観を介した問題の善悪を定義するのは不可能だ。両者に事情があり、譲れない正義がある。自身の中にいるグリンダとエルファバを内観した途端、ストーリーが自分事化されるのが《Wicked》の面白さ。シンシアとアリアナのお陰でその説得力は映画でも健在。2人の力を借りて、後編『For Good』を観る頃にはもっと自分の人生にYesと言えていますように。過去の私にもありがとうと言えていますように。

1月中旬の劇場公開からずっと新ガンダム祭りを全力で踊っていたら、いつの間にか春がやってくるみたいで、あっという間に2025年の1/4が……終わるって……コト……⁉
小ゲロなんて、汚くてすみません。でも劇中でダコタ・ジョンソンが使っていたネオンオレンジのスマホケースが可愛かったので、すぐにネットで探して注文しました。

ビートルズに絡めたレビューをしていますが、『ANORA アノーラ』では『アビイ・ロード』のジャケットっぽい4人並んでの歩行(役割と服の色も似てる)があった。
『ウィキッド』を観た後、いてもたってもいられず劇団四季のチケットを取ろうとしたら全公演売り切れ。考えが甘かった。
もうひと月近く書いちゃ消し書いちゃ消ししてる原稿があって、待ってくれている編集部に頭があがらない。使えるかもわからないが挿絵だけは10点描いた。

後編のサントラが公開される今年の11/21午前0時が今から待ち遠しいです。一発目に聴くタイミングで宙をクルクル舞いたいので、ポールダンスを練習することにしました!笑
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『Flow』『ミッキー17』『BETTER MAN/ベター・マン』『片思い世界』を予定!