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▶ 今月のお題
・ アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方
・ 雪の花 ―ともに在りて―
・ リアル・ペイン~心の旅~
・ 野生の島のロズ
アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方
2024年/アメリカ/123分/R15+ 1月17日公開
監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング
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アメリカ合衆国大統領であるドナルド・トランプの若き日を描いたドラマ。若き実業家だったトランプは敏腕弁護士であるロイ・コーンと出会い、勝つための3つのルールを伝授される。やがて彼は数々の大事業を成功させるようになるが……。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
「ここで終わり⁉ 自分、まだまだいけます!このお話、もっと観れます!」とあまりのおもしろさに前のめりになったところで映画は終わった。現在、世界でもっとも注目されている人物、ドナルド・トランプの物語は、ひとりの主人公として過去の一部を語られ、決められた尺の中で終わる。けれど、映画作品としてなら楽しめた特異な人物である彼と、同じ時代を生きるわたしたちの現実は、まだまだ続いていくのだなあ。
Taul ★★★★☆
何が恐ろしいって、時にトランプみたいな独裁的な人物のパワーを魅力と感じてしまうこと。世界中に似たような権力者が多く、現代の闇の話だと思うし、自分の価値観への問いだと受け止めた。自他ともに過信は禁物だ。本作で感じた人の成り上がり時のチェックポイントは、目的に「人のため」があるか、だんだん「浅薄」になっていないかという真っ当なこと。ビートルズが人気絶頂でも驕らず、愛と平和を重んじながら曲作りに没頭したのは尊い。
にしの ★★★☆☆
アメリカの無意識が精神的虚無であって、それが男性性優位のペンキによって塗り固められている。その土台によって成功したトランプはあらゆるものを手にするが、一番気持ちよかった瞬間は師と呼べるロイ・コーンを乗り越え、侮辱し、虫ケラのように踏み潰す瞬間だったのだろう。さながらレーニンの遺体を納めた廟の上に直立して赤の広場を見下ろすスターリンのように。
マリオン ★★★★☆
成功者である師匠と野望を秘めた弟子の栄光と決別……と書くと重厚な物語に見えるが、トランプの人生に置き換えた途端にどこまでも空虚で陳腐なものになるという皮肉。そして、彼が忠実に守ってきた「強者のルール」が世界に君臨しているという現実が重くのしかかる。持ち合わせるべき常識や倫理観は脂肪吸引と共に捨て去り、欲望が支配する弱肉強食の世界観を強化してしまった。その事実はすべての人々に突きつけられている。
村山章 ★★★★☆
ドナルド・トランプの若き日に悪徳弁護士ロイ・コーンを絡め、「負けても負けは認めない」ゴリ押し師弟の愛憎劇を描く。70年代のシーンは70年代調のフィルム風、80年代では再生ノイズまでチラつくビデオ映像風に加工されており、編集テンポもアップしていくのが、どんどん人柄が安っぽくなっていく主人公の軌跡とシンクロして面白い。似せすぎず、しかし特徴を上手くつかんで説得力をもたらしたセバスチャン・スタン、上手いよ。
リン・ホブデイ ★★★☆☆
American Hero? 世界で最も有名な人とも言えるドナルド・トランプ氏。演じるのに苦労したはずだが、セバスチャン・スタンはカリカチュアに陥ることなく真摯に人間味を吹き込んだ。そりゃ高く評価されるね。冒頭から自ら家賃の回収に回る姿に同情をしながらも、ニューヨークの権力者の腐敗した世界に足を踏み入れたらどんどん染まってゆくドナルド。映像や演者達は素晴らしいが、いまいち台本にパンチがなく少し惜しい。
雪の花 ―ともに在りて―
2024年/日本/117分 1月24日公開
監督:小泉堯史
出演:松坂桃李、芳根京子、役所広司
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江戸時代末期。天然痘の流行によって多くの人々が命を落としていた。福井藩で町医者を営む笠原良策は京都の蘭方医である日野鼎哉から種痘と呼ばれる予防法があることを教えられ、妻とともに生涯をかけて種痘の普及に尽力する。吉村昭の同名小説を映画化。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
画面と音響に身を浸すためにも、絶対に劇場で観るべき1本。天然痘の根絶に奔走する町医者の物語はなにも目新しくはない。が、今どき珍しいテンポで丁寧にくり返し描かれる雄大な自然とそこを行く人の姿は、言語ではなく視覚的に時間経過や道程の厳しさを伝える。その情報の質やボリュームに、なるほど、これは品行方正な話だなと思っていると、突然大立ち回りや謎台詞がぶっ込まれて大爆笑。なんだこの芳根京子!なんだこの映画!
Taul ★★☆☆☆
種痘のための種、師匠の夢、お上への訴えを引き継いでいく「継承」の映画。映画自体も継承されてほしいと思える美しい時代劇だった。しかし、伝統に胡坐をかいてはいないだろうか。昔ながらの様式美に沿って淡々と作られた印象で、妙な味わいはあるものの、枯れ過ぎだと思った。小泉監督の師の黒澤明も、ビートルズも、伝統を咀嚼した上で変革があったので、人々を魅了し引き継がれた。継承には、新しい趣向を取り入れる試みが欲しい。
にしの ★☆☆☆☆
大きな見せ場がなく、ご都合主義で進んでいくストーリーにはこの描き方でよかったのか?という不満が残った。疱瘡は日本人の民俗信仰になっていたものだから、西洋式の種痘が広がるための壁はずっと厚かったように思う。疫病の不条理と言える部分を勧善懲悪の構図で見たくなかった。題材に魅力を感じていたが、作り手の表現と見たかったものが違っていて、思い入れの残る映画にならなかった。
マリオン ★★★☆☆
真面目すぎて逆にヘンテコという不思議なバランス。猛吹雪なのに峠越えを強行する笠原良策のヤバさや「えっへんえっへん」という笑っちゃうような妻のセリフなどツッコミだしたらキリがない。しかし、作り手たちは真剣に感動的な人情話をやろうとしていて、日本の美しい風景と共にふたりの粋な生き様を立派なものとして描こうとしている。その真摯さは嫌いじゃない。変な映画だけど、ここまで大真面目だとチャーミングでかわいい。
村山章 ★★★★★
物語にも人物にも一切裏表がなく、古色蒼然とした語り口に最初は唖然としたが、そもそもが絵空事である映画という表現において、キレイごとを全力で信じ、描き、演じることもまた正義ではないかと芳根京子の「エッヘン✕2」の瞬間に思い直しました。しかも原作ではわずかな出番の妻=芳根京子が超活躍。自分の中の「映画とは」という思い込みを吹き飛ばされた後はジワって笑えて最高の場面しかなかった。ヨ!おとこのすけ!
リン・ホブデイ ★★★☆☆
Your friendly neighborhood doctor 毎晩Xを☠️ドゥームスクロールしていると世界各国のビッグ・ファーマや医療への不信感を頂く人々の怒りに遭遇することは少なくない。しかし、さほど遠くもない昔、町医者は名声や高収入を追いかけるのではなく「庶民と共に在りて」の美学もあったことを思い出させる作品。2025年の映画と思えない作りに戸惑いながらも、朗らかな気持ちになった。2回のワイプトランジションに唖然としたけど!
リアル・ペイン~心の旅~
2024年/アメリカ/90分/PG12 1月31日公開
監督:ジェシー・アイゼンバーグ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン
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亡くなった最愛の祖母を偲ぶため、家族のルーツであるポーランドを巡るツアーに参加することになったデヴィッドは従兄弟のベンジーと数年ぶりに再会。正反対な性格のふたりは時に騒動を起こしながらも、それぞれが抱える人生の生きづらさと向き合っていく。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★★
家族や友人や偶然出会った誰かと、穏やかに時を過ごすために共感し合おうとするわたしたちは、言葉を交わし、経験を共にし、同じテーブルを囲んだりする。そして、お互いに(あるいは一方的に)何かを掴んだ気になって、笑ったりハグしたり、涙だって流すこともある。けれど、どんなに手を伸ばしても、本当に本気の、根っこの部分は何もわかり合えないという人間の絶望と孤独が、とてもわかりやすい形で描かれている恐ろしい作品。
Taul ★★★★★
故郷の亡き祖父を思い出した。祖父が郷土史の本に空襲の体験を寄稿していたのを亡くなった後に知り、読んで、どんな知識よりも戦争が身近になり空襲が恐ろしくなった。痛みを共有や継承するのは難しいことだと思うが、人でも歴史でも実際に触れ、知り、傍にあろうとするのは大切なのだろう。石を持ち帰っただけでも救いだ。そういえばビートルズのうち3人はアイルランド系の血筋で、意識的に訪ねたり、曲を捧げたりしていた。
にしの ★★★★☆
旅とは、ケアも救いもない、疲れるための営みに思える。観光のためのナラティブに激する反面、抱えきれない民族の大きな痛みに打ち震える。屋上で二人マリファナをやってる時だけがお互いに分かり合えているようで世界が優しい。しかし、それも薬がみせる幻燈にすぎない。デヴィッドとベンジーはおそらくもう会わないだろうし、ベンジーのケアは空港に座して変人探しをすることにしかない。結局のところ、個人的な痛みに世界は小石みたいに無関心だ。
マリオン ★★★★☆
僕の痛みと君の痛みは似ているようでまるで違う……そんなことを思い知らされるたびに、小さな笑みがこぼれる。悼むために置いた石、必死の独白をかき消すピアノの旋律、突然のビンタ。屋上でマリファナ吸って語り合う時間よりも「なんか思ってたのと違う」みたいな瞬間にこそ心の距離がギュッと近づく。違っているから分かち合えることもある。ふたりが着ている服の色が行きと帰りで入れ替わっているのを見てそんなことを思った。
村山章 ★★★★☆
冒頭とラストを空港に佇むベンジーの寄る辺ない表情でサンドイッチして、2度タイトルが被さる。演出としてはベタだけど、この作品を端的に伝えていて虚を突かれる。劇中の旅に意味はあったと思いたいが、ベンジーは旅の終わりでもなにも救われたりはしてない。あれがベンジーが生きていた最後の姿だと思うのは悲観的すぎるかも知れないけれど、人の痛みは他人には推し量れないものだということを逃げずに描き切ったと解釈しました。
リン・ホブデイ ★★★☆☆
Wall-to-wall Chopin ユダヤ系アメリカ人の従兄弟の最愛の祖母が亡くなり、自分たちのルーツを探るために二人が祖母の故郷であるポーランドの旅に出る。大きな事件は起こらないが、観終わったら不思議と余韻が残る。現代社会の中で機能するために痛みを麻痺させなければサバイバルできないかしら?と。もっとツアーの愉快な参加者達と一緒に時間を過ごしたかった。そして、ショパンのサントラはあまりにも気持ち良く何度か睡魔に襲われた。
野生の島のロズ
2024年/アメリカ/102分 2月5日公開
監督:クリス・サンダース
出演:ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル
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無人島に漂着した最新型ロボットのロズ。ある日、生まれたばかりのひな鳥と出会い、子育てをすることに。孤軍奮闘するロズの姿に絆された他の野生動物たちも協力する中、プログラムにないはずの心がロズに芽生えはじめる。ドリームワークス・アニメーション30周年記念作品。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
展開に合わせて都合よく、ロボになったり人間ぽくなったりするロズに困惑しきり。ひとりの親として、子育てに悩むロズの姿こそ共感ポイントだったのかもしれないけれど、表層をなぞるだけで「子育てって、難し!」みたいなこと言われてもな……と興ざめだし、動物たちもキャラが典型的すぎて薄っぺらく、そんな奴らに「種を超えて手を取り合おう!」みたいなこと言われてもな……。究極の「そんなこと言われてもな」ムービー。
Taul ★★★☆☆
いいことを寄せ集めたみたいで矛盾を感じた。精緻な動物表現と言動の擬人化、生態系の厳しさと共同生活という解決、ロボットの無機質さと目覚めが母性的な点など。その矛盾が味とも言えるが、会議室で考えてる人の都合が見えて、絵空事を信じられなかった。ビートルズでも、ヒット曲を寄せ集めたベスト盤より、曲の出来や並びに味わいがあるオリジナルアルバムの方が愛着が湧く。アニメの表現はネクストレベル。そこは圧倒された。
にしの ★★★☆☆
まるで作中のロボットみたいな現代人に囲まれながら、メシアたるロズに導かれる理想社会をみた。ふと、ロズは「こんなことなら心なんて持たなきゃよかった」ってことは思わないのか? こんな風に考えるのは、僕がプログラムみたいな環境に安寧を覚える人間だからか。やっぱり、心の動きは温かさより痛さの方がデカいよ。……擦れた大人が子どものための映画に寄りついちゃダメだな。
マリオン ★★★★☆
親の自覚が芽生えていくロズと種族を越えた共存の道に気づく野生動物たち。プログラムや本能を越えて誰かと手を取り合うというストーリーは、弱肉強食の世界観である『アプレンティス』を観た後だと余計に沁みるものがある。また、ツルツルとしたCGで描かれたロズが手描きテイストの世界に文字通り溶け込んでいく細やかな演出やアクションのつるべ打ち、躍動感あふれる飛翔シーンなどアニメーション表現も圧巻だった。
村山章 ★★☆☆☆
メカもアニマルも擬人化し、強くて優しい母の愛の物語に押し込んだ。クライマックスの復活シーンでSFではなくファンタジーなのだと納得はしましたが、前半で野生の弱肉強食について描いたのはなぜ? そこに手を突っ込んだ以上、ロズの勇気で動物たちが仲良くなりましたと言われても、今後はなにを食べて生きていくの? あと続編は、わずかな富裕層だけが生き残った人類をロズとロボット軍団が絶滅させる革命物語でいいですよね?
リン・ホブデイ ★★★☆☆
Survival of the kindest ロボットのロズが島の動物達と共に孤児となった雁のキラリを育てるストーリーにはコミュニティ愛や種族を超えた助け合いの大切さが可愛く楽しく展開される。だが、しかし…... 一回正しく自然界の弱肉強食のあり方を描いているのに、ストーリーの都合上、動物達が力を合わせて一冬だけ争いを止める。うん……その後はどうなる?動物達が全員ビーガンになったのかしら? アレゴリーにせよ、歯痒く感じた。

オーストラリア人の友人が来日して遊びました。村山さん書のわたしの「胸糞」待ち受けを見て「Cool!なんていう意味なの?」と聞かれ、とっさに答えられなかった……Disgusting!

最近、同窓会的な集まりや、旧友からの連絡で会ったりすることが多い。人には懐かしくなる波が確かにあるんだよな。※ビートルズに絡めたレビューをしています。

隙間時間では主にドナルド・トランプのポストをXの運営に通報するという意味のないことをしている。無意味を楽しもう。
「映画の話したすぎるラジオ」のエピソードが200回を突破しました。これからも新しいことにチャレンジしつつ、地道にコツコツと続けていけたらいいなぁ。
TBSラジオ「アトロク2」で、世界一好きな映画監督、岡本喜八について熱弁させてもらいました。PodcastやYouTubeでも聴けるのでよろしければゼヒ!
『リアル・ペイン』を観て、最近は自分の感情の幅が狭まったことに気がついた。今月の作品は面白かったが、全作が★★★に落ち着いてしまった。
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『ドライブ・イン・マンハッタン』『ANORA アノーラ』『ウィキッド ふたりの魔女』『プレゼンス 存在』を予定!