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▶ 今月のお題
・ スピーク・ノー・イーブル 異常な家族
・ ライオン・キング:ムファサ
・ I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
・ ビーキーパー
スピーク・ノー・イーブル 異常な家族
2024年/アメリカ/110分/PG12 12月13日公開
監督:ジェームズ・ワトキンス
出演:ジェームズ・マカヴォイ、マッケンジー・デイヴィス
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旅先で知り合ったパトリック家の農園に招待されたダルトン一家。次第にそのおもてなしの異様さに気づき、想像を絶する恐怖に引きずり込まれていく。『胸騒ぎ』をジェームズ・マカヴォイ主演でリメイクしたブラムハウス製作のスリラー。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
大傑作胸糞ムービー『胸騒ぎ』は、ハリウッドに渡り、ただのサイコスリラーになり果ててしまった。ポスタービジュアルからその邪悪さが丸出しのマカヴォイが大暴れするマカヴォイ劇場は、リメイクでなければひとつの映画としてアリだったかもしれないけど、『胸騒ぎ』の綿密な設定の下で丁寧かつ陰険に描かれた、どんより重たい空気や、人間の嫌なところや弱さといった最悪のすばらしさが何ひとつなくなった。凡庸、かつ退屈。
奥浜レイラ ★★★★☆
自分はリメイク版にオリジナルと同じものを求めていない。ある要素を抽出し強調することで元の作品への回答になり得ること、その役割や意義は映画ごとに異なってもいいと思っている。オリジナル以上に“父親という役割に対する幻想”について繰り返し描写される本作のスタンスを支持できたことや、ディテールにこだわった故に話運びの違和感が減った点で物語に乗れたが、どうしてもマカヴォイ味が強くなるのにはぼんやりした。
Taul ★★★☆☆
ビートルズはシュレルズの「Boys」という男の子の良さを歌う曲をロックバンドらしく力強くカバーしたが、本作も自分たちの得意な表現で上手くリメイク。『胸騒ぎ』の男の悪しき面に特化して、ハリウッドらしくエンタメで突きつけてくる。マカヴォイがその権化であり、もう一方の夫は男らしさに囚われた故の弱さで、最後は男の暴力の連鎖だ。男の嫌なとこだらけで死にたくなる面白さだった。(←こう面白がれるのも男の図々しさ)
マリオン ★★★★☆
リメイク元の『胸騒ぎ』は抽象的な胸糞展開のためだけにキャラクターを動かしている感じが苦手だったのだが、今作はしっかり地に足のついた怖い映画になっていて安心感がある。特に、引け目を抱えた夫の悶々とした劣等感はかなりリアル。そして、2つの家族が生死をかけてしつこいぐらいに抵抗し続ける姿に、頭の中だけで考えた胸糞展開に収まってたまるか!という強い意志が感じられて最高だった。人間、往生際が悪くてナンボよ。
まるゆ ★★★☆☆
オリジナルがある種完璧とも言える作品だっただけに、リメイクと聞いて、お題作品でなければ観なかったであろう今作。それが、見逃さなくて良かった!と思えるほど、鑑賞中のテンションにドライブがかかってゆく感じがたまらなかった。キャストから想像できた「あのシーンはないだろうな」、「では、ストーリー展開をどうするのか」が予想を超えたものになっていて、オリジナルの不慣れな言語が醸し出す不穏さに並び勝っていた。
村山章 ★★☆☆☆
『胸騒ぎ』の凄みは終盤ギリギリまで“日常に潜む気まずい失敗”で埋め尽くしたわれわれ凡人との親和性だと思っているのだが、これは「ちょっと変わった導入部」欲しさにリメイク権を買っただけでは? それもまたビジネスでしょうが、オリジナルの核を尊重し、その先まで探求する気概がないなら借り物ではなくイチから別の話を作ればよい。「完全なオリジナルなどない」みたいなクリシェはともかく創作全般に対するリスペクトの問題。
ライオン・キング:ムファサ
2024年/アメリカ/118分 12月20日公開
監督:バリー・ジェンキンス
出演:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr
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幼い頃、両親と離れ離れになったムファサは、流れついた先でライオンの王の息子タカと出会い兄弟のように育つ。やがて成長した彼らは、新天地を目指し旅に出る。ディズニーの“超実写映画”『ライオン・キング』の前日譚を、バリー・ジェンキンスが監督。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
あまりにナショナル・ジオグラフィックがすぎる動物たちが本来その姿で見せるはずの食べて食べられてといった本能そっちのけで、歌いながら人間ドラマを演じる様に理解が追いつかず、混乱するのは前作同様。改めて超実写化する意味を考えてしまう。わがまま甘えた坊ちゃんの冒険譚だった前作から比べると、様々な動物によって多様性を説こうとしてるみたいだけど、どっちみち王の子が王になる時点でそこもなあなあになっちゃってんのよ。
奥浜レイラ ★★☆☆☆
父からは勝って権力を示すことしか教えられず、そこにしか自分の存在価値を見出せないタカ(スカー)が不憫。観察力と知恵で自ら道を切り開いていくムファサに、バリー・ジェンキンス監督が見せたかった「現代の理想のボス像」を感じたが、タカ闇堕ちの発露が恋愛かと少し萎えた。94年版と比較するのも意地悪だけど、ソングライターがリン=マニュエル・ミランダのわりに音楽が弱い気もする。水の表現が素晴らしくて釘付けだった。
Taul ★★☆☆☆
表情がもはや人間だし、B・ジェンキンスの演出もあって、途中まるで恋愛リアリティショー。女性馴れした余裕のムファサに対し、男子校出身みたいで不器用なタカが不憫でならない。「ちゃんとしないと、あの娘を失っちゃうよ」と忠告するビートルズの曲「恋のアドバイス」の出番だった。でも恋の行方は分かってるし、1作目に戻る人生袋小路。せめて最後、兄弟同然の絆が壊れる切なさに浸りたかった。あの王政の急な成り立ちは危うい。
マリオン ★★★☆☆
ムファサが王になる過程よりもタカがスカーになる過程こそ今作の肝だろうと思っていたら、結局ベタな三角関係のもつれだったので拍子抜け。血統主義の父親からのプレッシャーや王の息子だけど勇猛になれないという劣等感などもっと掘るべきところがたくさんあったのに。強い絆で結ばれた2匹が袂を分かつことになる切なさやスカーのアウトサイダー性をもっと描き込んだ濃密なドラマが見たかった。映像面は言うまでもなく見事。
まるゆ ★★☆☆☆
鑑賞前後で、感想がまったく変わらないという稀有な体験。「なぜ、今作を作ったのか」「なぜ、監督がバリー・ジェンキンスなのか」と。映像表現のスキルの高さはさておき、『ライオン・キング』の前日譚であれば、あのストーリーに繋げる=辻褄を合わせる側面が必要になる。さらに話の核は、なぜスカーと呼ばれるに至ったか。ムファサではなくタカ(スカー)の物語ではないか。アニメ版のスカーの風貌を思い出すだに切なくなる。
村山章 ★★★☆☆
『ライオン・キング』はそもそもバカげた君主制のおとぎ話だが、唯一興味深いキャラだったスカーのエピソード0を描く本企画。なにが凄いってスカーは子供の頃から臆病で猜疑心が強くて実力不足で、大人になるまで変われなかったよという容赦のない視線。しかも成長できなかったのは男性特権を植え付けられた育てられ方に起因し、本人すら自覚してるという哀しみ。でも最終的にはやっぱバカげた君主制のおとぎ話なんだよな……。
I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
2022年/カナダ/99分 12月27日公開
監督:チャンドラー・レヴァック
出演:アイザイア・レティネン、ロミーナ・ドゥーゴ
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映画が生きがいで、ニューヨーク大学で映画を学ぶことを夢見る高校生ローレンス。学費を稼ぐためビデオ店でアルバイトを始めるが、自分勝手なふるまいでトラブルが絶えず……。レンタルDVD全盛の頃のカナダを舞台にした青春コメディ。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
いたな、こういう子。なんなら、身に覚えもあるぞ……と、好きなことを早口でまくしたてるオタクしぐさがめっちゃ自然なローレンス君への共感羞恥で赤面まっしぐら、となるのも一瞬だけ。大人なので、どうしても大人目線で観てしまう。繊細で傲慢な面倒くさい息子と本気でぶつかり合う母親のほか、バイト先の店長アラナもこの厄介な子を見守っていくんだな、と思っていたので、途中からの展開にイマイチついていけず-★1。
奥浜レイラ ★★★★☆
映画ファンとしては主人公ローレンスに肩入れするかも、と観始めたものの実際は「カルチャーを盾に女性を人間扱いしないタイプの男性」に対峙する羽目になる同級生ローレン・Pや、バイト先の上司アラナが#MeTooムーブメント以前の自分と重なって痛い。女性のレヴァック監督がボーイズクラブ的ノリを理解するため主人公を男性にしたことで、10代の自身を投影した半自伝的な物語が批評性を含んだ成長譚になっていて好ましかった。
Taul ★★★★☆
主人公の痛さが刺さるが、新鮮で魅力的だったのは、監督が現在の自分を投影したであろう店長のキャラ。少年のメンター的な年上女性は、優しく包み込むタイプが多いが、本作では大人の威厳があり時に罵倒もする。挫折も経験して生活に追われる生身の人間であり、だからこその生きた言葉があった。ビートルズにポップソング初の、女性を恋愛対象ではなく街に生きる孤独な人として描いた「Eleanor Rigby」があるが、それと似た目新しさを感じた。
マリオン ★★★★★
ええ、ありましたよ。僕にもローレンス君のようなイタい時期が。「映画が好きなオレ」を振りかざして周りの人たちを傷つけまくる彼を見ていると「映画ばかり観てないで現実に目を向けろよ!」と言いたくなる。でも、その言葉はブーメランのように戻ってくる。そういう自分はどうなんだよ?と。自らを省みて他者と向き合うようになったローレンス君の成長ぶりがまぶしく見えているようではダメなんだよ。しっかりしろよ、自分。
まるゆ ★★★☆☆
監督の自伝的ストーリー。ならば、この監督も数多の映画を観てきた人のはず。監督これ絶対観てるでしょう!と言いたくなる、主人公の格好や歩くシーンの風景は『SR サイタマノラッパー』、元同僚との再会シーンは『時々、私は考える』を思い出すなど、予想もしない楽しみ方があったり、劇中に出てきた作品のほとんどが未見という「今さら観てないとは恥ずかしくて言えない」とお尻がムズムズしたり。こんな私も映画が大好き!
村山章 ★★★★★
共感性羞恥の嵐。全毛穴から鮮血が吹き出す激痛コメディ。映画を至上の芸術と信じ、自分は誰よりもわかっていると思い込み、誰かの趣味が悪いと勝手に認定して見下す浅はかな若造が、いろいろとへし折られていく姿が他人事でありましょうや? 女性陣の背景に到底追いつけない主人公になけなしの愛嬌と伸びしろを与えたのは、作り手の優しさでしょうか。でもアイツはまだまだ同じような失態を繰り返すと信じてる。まあがんばれ!
ビーキーパー
2024年/アメリカ・イギリス/105分/PG12 1月3日公開
監督:デヴィッド・エアー
出演:ジェイソン・ステイサム、ジェレミー・アイアンズ
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隠遁生活を送る養蜂家アダムの恩人が詐欺被害で亡くなった。アダムは復讐に燃え立ち上がり、怒とうの勢いで黒幕に迫っていく。ジェイソン・ステイサムとデヴィッド・エアー監督のタッグによる痛快リベンジアクション。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
鑑賞前は「ステイサムが養蜂家」という前情報だけでずっと笑っていたけれど、強引すぎるとはいえそこにも一応意味があってスッと真顔に戻る。とにかく次々と現れる敵をガンガンなぎ倒していくステイサムを観るだけで、日々の疲れが癒される究極のヒーリング映画。また、ステイサムの養蜂家スーツといい、ネット詐欺をするコールセンターの若者のチャラついたシャツといい、衣装デザインがわかりやすくカッコよくてそこもおススメ。
奥浜レイラ ★★★☆☆
ステイサムの魅力を存分に活かしたアクションの爽快感が抜群で「詐欺被害で全財産を失ったとはいえ、これだけ人望がありそうなエロイーズなら助けを求められたのでは?」と序盤で引っかかったポイントがどうでもよくなった。笑ってしまったパリピ感全開の集団のアジトも、なんで養蜂家?に対するピンとこない回答も、詐欺は絶対許さん!という熱量に当てられて脳がバグを起こしたのか何も考えずただ快感。正月気分にちょうど良かった。
Taul ★★★☆☆
ステイサム無双映画を観て、理想の晩年を想い、不正への怒りを学ぶ。孤独ながら好きなことをして大地に根差す暮らしぶり。収穫物を手に隣人を訪ねる姿に憧れる。そして弱者が不当に虐げられたら立ち向かう行動力。どんな相手でも躊躇しないのが、本作のお馬鹿な楽しさでありメッセージ。ビートルズもパンクロックの祖と言われる曲「Taxman」で首相を実名で非難した。権力側が正しい行いをしてないならキレて当然だろう。
マリオン ★★★☆☆
悪の本丸どころか周囲すべてを巻き込んで更地にしてしまう怪獣のようなステイサムが痛快で気持ちいい。特殊詐欺許すまじ!という熱いメッセージには首を縦に振るばかりで、特殊プログラム「ビーキーパー」の元工作員が律儀に養蜂家になっているというツッコミポイントはもはやチャーミングである。ただ、最後は詐欺組織を率いるボンボン息子の母親(大統領)も一緒に始末するべき。ヌルいぞ、ステイサム! 最後まで仕事してくれ。
まるゆ ★★★☆☆
ジェイソン・ステイサムには、「クレイ」や「ショウ」のようなシンプルな名前が似合う。特に今作のような、寡黙で必要があること以外、他者と関わりを持たない人物像に。正義と法律の壁、そんなことはクソ喰らえとばかりに、黒幕(バカ息子)へと確実に近づき仕留める。ただそれだけ。それだけでいい。堂々たる★3つの作品。なんとも夜の鑑賞が似合う。そして、久しぶりのミニー・ドライバーというおまけ付き。
村山章 ★★☆☆☆
結局のところ養蜂家オジサンが潰したのは一業者であって、デカいこと言ったのに禍根は絶ってないよな。ステイサム、あんたは有言実行の男じゃなかったのか? オマエはホワイトハウスくらい燃やしてくれる輩だと思ってたぞ!

軽い気持ちで観た「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」がとんでもなかった。不勉強なわたしに日々いろいろ教えてくれて、友よほんとにありがとう。で、本放送はいつから?
2024年最後に劇場で観たのが『スピーク・ノー・イーブル』で、大晦日23時に終わって駆けつけたシネマート新宿の「24時間モーターヘッド」イベントで強烈な年越し体験をしました。

さるハゲロックフェスに初参加。音楽をいっぱい浴び、バンドっていいなあと改めて思いました。私にとってそのオリジン、ビートルズに絡めたレビューを続けています。
はじめて文学フリマに行き、ついつい散財してしまいました。だって、面白い本がたくさんあるんだもん。そこにいるだけで世界が広がるあの場所にまた行きたい!

マクドナルドの福袋を買える権利の抽選があると知り、なんだか運試しっぽくて挑戦したら当たってしまった。それで、ミニドライバーを買う羽目になるとは笑
正月恒例のさるハゲロックフェスに今年も参加。バンドで007特集やったり深田晃司監督とトークしたり。2月中はアーカイブ配信してるんでよかったら観て。
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