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▶ 今月のお題
・ Cloud クラウド
・ 悪魔と夜ふかし
・ ふれる。
・ ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
Cloud クラウド
2024年/日本/123分 9月27日公開
監督:黒沢清
出演:菅田将暉、古川琴音、窪田正孝
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世間から嫌われている転売屋として日銭を稼ぐ吉井。働いていた工場をやめて恋人と共に新しい生活をはじめるが、周囲で不審な出来事が相次ぐ。次第に得体のしれない集団から狙われるようになり、日常が音を立てて崩壊していく。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
唐突に展開する物語、抑え気味の表情でとつとつと語られる感情が乗らない登場人物たちの会話、なんだか変な温度感のまま進んでいく物語――。黒沢清映画らしさは今作も健在だけど、見せ場であろう激しい銃撃戦(現代日本で、なぜ?)や、なんか変な人たちがたくさん出てきたところでイマイチ跳ねきらない。それでも、ラストシーンの「ハァ⁉」感も含めて、黒沢清作品の不穏なのにフラットで低温な感じを味わえたので小満足。
kaoLi ★☆☆☆☆
◆真面目な菅田に狂気の良々。何が普通で何が異常か。黒沢清が満を持して送る、普通の人が発する狂気のエンターテイメント超大作◆って言われたとて。散りばめられた黒沢アイコンにおおっ!と心踊ったのも束の間、設定の薄さと後半の展開に笑うしかない。転売ヤーもオタクもみんななんかあくまでも記号。なんだよ、この血の通わないキャラクターは。今を生きていない登場人物が動いている……、一体ウチはなに見せられたんだ(涙)。
Taul ★★★☆☆
突然だが、ビートルズの曲に「ピッギーズ」(豚ども)という、品位に欠ける者たちを揶揄したものがある。その類いの輩を本作では、より薄っぺらくて空虚な時代の家畜として描いてる。それらが黒沢清特有の、これまた空虚な箱庭廃墟でドタバタ殺し合うので、滑稽ではあるのだが、空しく苦い味わいが残る。この嫌な感触、ネット上から逆に浸食してきて、人々の心に住みつき始めてる空っぽな悪意に似てる。空虚な豚にはなりたくない。
マリオン ★★★★☆
ささいな不義理や蔑視が積み重なる不穏な日常から、鬱憤が爆発する銃撃戦へ雪崩れ込む展開に、どんどん引き込まれていく。うっすらと漂う生活のどん詰まり感や目の前にいる人間たちの底知れなさ、暴力に飲み込まれる集団心理。リアルな物語とは違うが、肌に感じるものは現実と地続きだと思う。文字通り「地獄へのドライブ」となるラストも希望も絶望もない暮らしに埋もれていくような感覚の延長線のようで納得感しかなかった。
村山章 ★★★☆☆
連想したのは『突破口!』とか『ガルシアの首』とか、平凡人が危険な世界に足を踏み入れる70年代の犯罪映画。実際に監督もその辺を参照したと発言していた。ただ現代の日本が舞台になると恨みを買う側もを抱く側も社会に疲弊した下層の人間で、互いを傷つけ合う方向でしか発散できない悪循環がマジで息苦しい。ジャンル映画もただジャンル映画のままではいられない。映画のイノセンスなんて見せかけることすらできない時代になった。
リン・ホブデイ ★☆☆☆☆
Cloudbusting 転売ヤーの世界にはまってゆく吉井のストーリーは途中まで夢中になって観ていたのに、終盤から登場人物のロジックのなさにげんなり。森の小屋で関係のない猟師が呆気なく殺されるあたりから段々と崩れてゆく展開。誰も小屋を見張らないの?廃工場の銃撃戦は……怠かった。悪質な転売ヤーに復讐を図ろうと知らない者同士が集まるのは面白い設定ではあるが、もう少し現実味が欲しかった。
悪魔と夜ふかし
2023年/オーストラリア/93分 10月4日公開
監督:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
出演:デヴィッド・ダストマルチャン、ローラ・ゴードン
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1977年、ハロウィン。深夜の生放送トーク番組「ナイト・オウルズ」ではオカルト・ショーが繰り広げられていた。悪魔憑きの少女も登場し、番組は過去最高の視聴率を記録するが、クライマックスに惨劇が巻き起こる。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
子ども時代、ムーが愛読書だったオカルト大好物人間には垂涎の一本。あった~、なんかこういうわざとらしくて湿度が高くて、でもちょっと怖い番組、あった~! 悪魔憑きやら心霊やら、人の心を惹きつけるものならなんでも流して視聴率につなげてやろう、という番組側のギラギラ感と、そんな人間の欲すら全部飲み込んで、次々と起こる大惨事にワクワクが止まらない! スクリーンもいいけど、テレビで深夜に観たい1本。
kaoLi ★★★☆☆
◆悪魔召喚⁉︎スタジオ騒然!どこまでリアル?どこまでフェイク?シャーマン爺さん毒霧噴射。空前絶後の映像体験!◆自らの野次馬根性に火がついてしまい、下世話に楽しく最後までノリノリ鑑賞。それも監督のサービス精神満載が故。もう一捻り欲しいという点に引っ掛かりはするものの……ちっちゃい事は気にするなワカチコワカチコ!TV業界の様々な悪魔的な側面を、深夜のオカルト特番で浮き彫りにするという手法はまじ天才。
Taul ★★★☆☆
ファウンドフッテージ部分以外の、番組の内情を描く試みが成功。見世物を楽しむだけでなく、司会者側の気持ちにもなれて、番組がリアルでドラマチックな場になった。恐怖プラス感情移入という面白さ。さらに、現実にあって観てたらトラウマものだったと想像する怖さも残る。ビートルズに「デヴィル・イン・ハー・ハート」という、あの娘の心に悪魔がいるぜ、と歌う曲があるが、冗談のつもりが本当になると、ヤバいことになるのだ。
マリオン ★★★★☆
70年代アメリカの空気感と深夜トークショー番組のライブ感を追体験できるというだけでもこの映画を見る価値がある。デヴィッド・ダストマルチャン演じる司会者も魅力的で、実際にこの番組が放送されてたら毎日欠かさず見てたかも。そして、恐怖描写は終始テンションが高くて楽しい。ファウンド・フッテージらしからぬ視点の変化も効果的で「衝撃映像まだかな〜」と軽い気分で見ていたら、しっかり悪魔に見返されてゾッとした。
村山章 ★★★★☆
とりたてて面白い話ではないと思いつつ、観ている間はすべての瞬間、全シチュエーション、すべての芝居が面白い。面白いシーンしかないのならそれはもう超絶面白い映画でいいのかもしれない。ついにダストマルチャンの時代がキタ!と騒ぎたくなる好感度と小物感が入り混じった妙演。胡散臭さの見本市のようなトークショーのゲストたち。最高のヤバキャラ、リリー! 見世物という興行の原点に立ち返るかのようないかがわしき快作。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Satanic Panic 70年代アメリカ。サタニック・パニック。エリート層が悪魔の力により社会をかき混ぜたとされる時代。ドキュメンタリー風のオープニング映像が当時の混沌とした社会的情勢を見事に再現し、引き込まれた。デヴィッド・ダストマルチャンの演技だけでも4つ星。成功するために悪魔に魂を売る主役でも、不思議と同情できる。誰しもその罠に陥る可能性があるというところが一番怖いかもしれない。
ふれる。
2024年/日本/107分 10月4日公開
監督:長井龍雪
出演:永瀬廉、坂東龍汰、前田拳太郎
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「あの花」「ここさけ」などからなる青春三部作で知られる制作陣が再結集した長編アニメーション。幼なじみの秋と諒と優太は「ふれる」という謎の生き物のおかげで言葉がなくてもお互いの心が通じ合っていた。しかし、彼らの関係性は徐々に変化していく。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
最初から最後まで「そんなわけないわァ」が頭の中に浮かぶ。いくらなんでもマインドが成長してなさすぎな成人男性、都合よく現われるなんかすごい肩書きの人、適当にスパイスとして消費されるこれまた幼稚な女性、そしてすべてをつなぐはずのふれる様(ふわふわ神様)のご乱心。そんなわけないわァ……。しかし『アリテレ』同様、今回も抱腹絶倒ひとり4DXムービーとしては最高of最高、岡田麿里天才。
kaoLi ★☆☆☆☆
◆窃盗!レイプ!ストーカー!高田馬場は犯罪天国。中2島人(しまんちゅ)3人衆、テラスハウスで乱痴気騒ぎ!男女5人が絡み合う!◆他者と『ふれる。』ことを、雑な設定と歪んだ価値観で描いたこの作品。伝えたいことは何なのかよくわからなかったし、身勝手な感情を汲み取る義理もない。怒りに任せて殴るバーテンのいる店には行きたくないので、BARとこしえの椅子に座る権利などないのだろう。ま、座りたくもないのだけれど。
Taul ★☆☆☆☆
いいスタッフやアイデアなのに、まとまりのなさが凄い。大人の事情か、恋愛要素やスペクタクルが雑に入ってくるし、「ふれる」の役目が話を超えていき、何がしたいのか分からない程とっちらかった。友だちとの交流の物語を丁寧に紡ぐべきだったし、友好なら、その秘訣を歌声の掛け合いでまとめた、ビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」が似合う作品になってほしかった。勝手な思いだけど。
マリオン ★★★★☆
浅はかな言動、身勝手な振る舞い、隠せない幼さ。気持ちはすれ違い、孤独を思い知らされる。傷つけられたくないし、傷つけたくない。それでも誰かと繋がれると信じたい。断絶した世界で絆を求める登場人物たちの未熟で泥臭い人間模様は、コミュニケーションへの引け目と不安を抱え、傷つくのを恐れてしまう自分の深いところに刺さってしまう。これからも僕の肩に乗った小さな「ふれる」が疼くのを感じながら生きていくのだろうな。
村山章 ★★☆☆☆
あらゆるセリフがツッコミセンサーにふれる(人によってはその部分こそ心にふれるのかも)岡田脚本はひとつの芸だと思うが、岡田麿里汁が全細胞にふれてくる『アリテレ』に比べると、テーマがぶれて核にふれられてない印象。20歳男3人なのは珍しい構図だが、3人の精神性があまりにも幼く、ふってふられてな色恋沙汰も幼稚すぎる。あ、でもふれるくちびる大祝賀会しそうな友人って学生時代にいたな。リアルか、これはリアルなのか?
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Travel Tokyo 今月は殺伐としたタイトルが多く、「ふれる。」を観て少しホッとした。微妙な設定やセリフがありつつも、東京や日本人の細かい生活環境の描き方が美しく外国人に受けそうだな〜と。そんな東京に行きたいと私も思った。(在住30年だけど(笑))4月にペットが亡くなり、可愛い生き物に弱くなっている今日この頃。ふれる。はやはり可愛かった。また「お願いだから2時間越さないで!」という作品の中、ちょうど良い長さ。
ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
2024年/アメリカ/138分 10月11日公開
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ
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テレビの生放送で殺人を犯し、理不尽な世の中に反旗を翻す存在「ジョーカー」として祭り上げられたアーサー。服役中の彼の前にリーという謎めいた女性が現れたことで新たな事件が起こる。2019年の大ヒット作『ジョーカー』の続編。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
ヒース・レジャーが演じた完全なる悪=ジョーカー的なものが大爆発するようなことはなく、社会生活をうまくやれない、問題を抱えたひとりのオッサンが、おだてられて調子に乗ったり、ちょっと反省したり、うかつなことを言ったり、恋をしたり、ふられたりするだけの普通の話。アーサーが刑務所で出会う若者のひとりがホアキンの実兄である故リバー・フェニックス似だった気がして、ただその一点においてのみ心が騒ぎました。
kaoLi ★★☆☆☆
◆夢か現か、嘘か誠か。狂気の姿も愛次第。現実が想像を喰い殺す!暴かれる狂人の魂を凝視せよ!◆きちんとした法廷劇の真っ当な展開に呆然。ヒャッハー気分で見に行ったのに、しっかりと怒られて心からショボン。大人になってからこんな目にあうなんて。しょぼくれたおじさんを見せられ、ただひたすら監督の釈明に付き合わされた138分。これがエンターテインメントなの?それなら私が思うそれとは全く違うわぁ。ショボン。
Taul ★☆☆☆☆
偶像の解体が目的のようだが、自分には、自意識過剰で言い訳が多い退屈な復習どまりだった。ジョン・レノンがソロになった時、「ビートルズを信じない、夢は終わった」とファンに冷や水を浴びせた「ゴッド」という曲があるが、あれは出来が良く次に進めた。たとえジョーカーの脱神格化を図る冷や水だとしても、アーサーの悲哀をもっと面白く語れたと思うし、新たな地平を見せることもできたはず。面白くないのが良いだなんて悲しい。
マリオン ★★★★☆
世間はジョーカーが好きなのであってアーサーのことは誰も好きじゃないという残酷な事実を言い切るための138分。現実と妄想の境目ははっきり線引きされ、虚勢を張り続けるちっぽけな男の姿がひび割れた仮面から漏れ出している。前作の熱狂を求める観客をシラけさせる作りは清々しくて痛快だが、正論をかましたところで誰が救われるのかという気持ちも。寄り添ってあげたらいいわけじゃないが、あまりにも悲しすぎるじゃないか。
村山章 ★★☆☆☆
アーサーという男に同情すべき点はあるかもしれないが突き詰めればしみったれた犯罪者にすぎない、というのは前作でも描いていたと思うが、「現実か妄想か?」という逃げ道にもなる曖昧さを取り払い、徹底的にショボい中年として描き直した姿勢は誠実だとは思う。ただ、はからずも自分で起こしたボヤを5年がかりで消火するみたいな賽の河原的虚無感に付き合うのは少々億劫。あとラストの凡庸さはベタなフリも含めて気恥ずかしい。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Killing Joke 観る前から出回る酷評をたくさん目にしたので、恐る恐る映画館に向かった。案外そこまで酷くなかったので、それがやや好印象に繋がった。ミュージカルより、裁判もの要素が多かった……。現実社会でも精神面の問題で被告の判決が軽くなるというケースが多い。その線引きは一体どこだろうと考えさせられた。何と言ってもホアキン・フェニックスの体当たりの演技に改めて感動した。

さとう・村山両氏と娘(12)と『ふれる。』鑑賞会を開催。終演後、子どもに「大人たち、上映中なのにうるさいよ!」と叱られるなどしました。

小2の娘が、英語教室のハロウィンの仮装を拒否!いま、親としての資質が問われている気がしています。何が正解⁈だれか教えて!

先月に続きビートルズの曲に絡めて書くという無茶をやっています。しかし、82歳でツアーをしてるポール・マッカートニーは凄いな。
映画紹介屋さんイベント、おかげさまで大盛況でした! やっぱり人と映画の話をするのは楽しいですね。また開催できたらいいなぁ。
11/3にOUTCAST FILM FESTIVAL@ユーロスペースの『画家と泥棒』上映後トークに出ます。画家ことバルボラさんが来日して登壇!
『Cloud』と『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を同じ日に観るんじゃなかった。精神衛生上よろしくなかった。
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