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▶ 今月のお題
・ ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン
・ オッペンハイマー
・ パスト ライブス/再会
・ プリシラ
ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン
2023年/アメリカ 配信中(各種配信サービス)
監督:カーク・デミッコ
出演:ラナ・コンドル、トニ・コレット
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人間世界に暮らすクラーケン族の少女の青春を描いたアニメ。内気な少女ルビーはある日、自分がクラーケン族の王位継承者であることを知らされる。強大なパワーに困惑する彼女だったが、それでも平和な学校生活を送ろうと奮闘する。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
とにかくテンポが良くてあっという間の90分。物語は『私ときどきレッサーパンダ』を彷彿させる上、展開は予想通りだし、内容はもっと軽くてあっさり風味。いかにもティーンエイジャーが好きそうな選曲もさわやかだし、終盤に流れるリタ・オラ版「プレイズ・ユー」ののどかさには思わずニッコリ。鑑賞後に残るものがあるかどうかは別として、余計なストレスを感じることなく観られるし、自宅でだらだら鑑賞するのに最適な一本。
Taul ★★☆☆☆
『私ときどきレッサーパンダ』が先にあるので分が悪い。母娘の葛藤など心が動く場面もあるが、もろもろ似すぎで、二番煎じと感じてしまった。実際、面白さも深みも劣る。段取りをこなしていくような話運びで先が読めるし、まとめ方はさすがに短絡的すぎでは。アニメは躍動感には欠けるも、着色料を使った鮮やかさや、キャラのカラフルさは印象的だった。『リトル・マーメイド』のアリエルのイケイケ版みたいなチェルシーがグッド。
成島由紀子 ★★☆☆☆
ドリームワークスのアメリカンな絵柄が苦手で、長年食わず嫌いしていたけど、観進めていくうちに、豊かな動きや表情のおかげで、だんだんキャラたちがかわいく思えて来た。絵だけで好き嫌いはいけないなと反省。普段は人気者のマーメイドと怖いイメージのクラーケンの立場が逆なのは面白かったけど、あとはどこでも見るような展開なのは残念。でも、よくある定番の展開だからこそ、家で子どもと観るには悪くないかな。
マリオン ★★☆☆☆
設定やビジュアルにディズニーへの反抗心が垣間見え、ドリームワークスらしい尖りが感じられて嬉しくなる。ただ、ティーンエイジャー女子が自分ではどうにもできない血筋の力に振り回される『私ときどきレッサーパンダ』という傑作を経た後だとあまり個性が感じられず。そもそも明らかに見た目が異なる種族がほとんど変装せずに社会に溶け込んでいる割に、人間が彼らのことを全然認知していないという状況が飲み込みにくかった。
村山章 ★★☆☆☆
ピクサーとドリームワークスがライバルだった時代はもう昔話だが、本作の製作中にピクサーの『私ときどきレッサーパンダ』が公開されてしまったスタッフの気持ちはいかばかりか。「アレ?ほとんど被ってない?しかもクオリティ高すぎじゃね?」と思ったかは知らないが、どんな手で対抗するつもりだったのか、それともただ敗北を受け入れたのか。にしても悪役がただの悪役でしかないのは争いをテーマに扱う上ではもはや怠慢でしょう。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
The Kraken Awakes 高校生の女の子はクラーケンだった。最初の20分ほどのビバヒル高校白書的な日常の様子は楽しめたが、その後の『アクアマン』的な海底の王国を守る展開には無理を感じた。やはり選ばれし者だったのね。ふ〜ん。『私ときどきレッサーパンダ』的、『リトル・マーメイド』的な要素も強い。その《何か》的なところが問題かも。そもそもターゲットオーディエンスではないので、どう評価すれば良いか戸惑った。
オッペンハイマー
2023年/アメリカ 3月29日公開
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント
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公式サイト
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原爆の父と呼ばれたロバート・オッペンハイマーの栄光と苦悩をクリストファー・ノーランが映画化。第二次世界大戦下、優れた頭脳を持つ物理学者のオッペンハイマーは原子爆弾開発の責任者に任命される。第96回アカデミー賞では作品賞を含む最多7部門を受賞した。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
目に見えない原子が存在するイメージや轟音や光を使って、天才たちの持っている感覚や見えているものを、凡人にもわかる形で体感させてくれた演出が一番刺さった。どんなに天才でも、世界を変える発明をしても、歴史の中ではひとつの点=ポイントに過ぎず、うすぼんやりと変わり続ける世の中の空気が決める評価からは誰も逃れられないという、至極当たり前のことを描いた終盤に、しんみり諸行無常を思いました。
Taul ★★★★★
堂々たる異端の傑作。歴史の闇に苦悩する男というハリウッド伝統の話と、語りの仕掛けと映像と音による圧で魅せるノーラン節が高い次元で融合。監督が自身や映画作りを投影したように感じていると、プロメテウスを生んだのも、担ぎ上げて落とすのも、人間の悍ましさであり、もはや後戻りできない世界だと突きつけてくる。史実の悲劇性を損なわず、ここまで作家性溢れる面白いエンタメ大作になっているとは。考察や感想が尽きない。
成島由紀子 ★★☆☆☆
私が子どもの頃、夏になると小学校の廊下の壁一面に原爆投下後の広島・長崎の写真が飾られていた。泣き出す子どももいたけれど、私の目にも心にも、その現実は深く焼き付いている。だからこそ“原爆の父”と呼ばれるオッペンハイマーを描くのであれば、原爆投下後の広島・長崎の景色や、彼の心情部分をもっと深く描いてほしかった。ただ映画の構成として聴聞会をベースに様々なエピソードを描いていく流れは素晴らしい。
マリオン ★★★★☆
原爆の開発者であるオッペンハイマーの人生を世界を変えてしまった創造主の神話としてロマンチックに受け止めている自分がいる。そして、唯一無二の映画作家として世界を驚かせてきたノーランのことも重ねて見ていた。でも、原爆を落とされた側にいる以上、やはり複雑な気持ちになってしまう。この題材でロマンを感じちゃっていいのか?と思いつつも、圧倒的な音と映像のマジックを前にしたら抵抗なんてとてもできなかった。
村山章 ★★★★★
この映画では2回原爆が爆発する。一度は火柱と暴風のトリニティ実験。二度目はオッペンハイマーの脳内で、広島投下の成功を祝うスピーチの最中に。画面に映るのは抽象的なイメージだが、仲間たちが足を踏み鳴らす祝いの音は爆発の轟音にほかならず、歓喜の涙は絶望の表情となり、聡明な頭脳に取り返しのつかない惨状が焼きつく。劇中のオッペンハイマーはあの音を二度と平穏の中で聞くことはない。ノーランはそんな映画を作った。
リン・ホブデイ ★★★★★
K-6 ノーラン氏は『戦場のメリークリスマス』を好きだと言う。納得。この作品も戦争の裏側の恐ろしさを見事に描く。オッピーが率いる科学者達の懸命な研究は躍動感を持って映し出されるが、その結末がわかるので胃が終始痛かった。音楽やサウンドデザインは喧しいと思うこともあったが、大事な場面でオッピーの内面の苦悩がその音響の振動で直に伝わった。様々な伏線やタイムラインを紡ぐ構成はさすがの巧み。語り切れない大作。
パスト ライブス/再会
2023年/アメリカ、韓国 4月5日公開
監督:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ
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24年ぶりに再会した幼なじみの男女の7日間を描いたラブストーリー。ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンはお互いに恋心を抱いていたが、家庭の事情で離ればなれになってしまう。それから時は経ち、大人になったふたりはニューヨークで再び出会うことになる。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★☆☆☆
「あの日あの時、君がこの国を出なかったら」で生きてきた男が大人になり、SNSで捜し出した初恋の人(既婚)に海を越えて会いに行く。小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」みたいなマインド(※個人の印象です)の成人男性もどうかと思うし、まんざらでもない女も、それを咎めない夫も、誰のこともよくわからない。どうにもならない過去に対してあれだけ感傷に浸れるのも、他人のそれを理解できるのも、ある種の才能だな。
Taul ★★★★★
Facebookが流行った時、迂闊な再会が多かった。ロマンチックなようで10数年も経つと外見、中身ともに変わりもはや前世。本作も再会後はリアルでビターな大人の話になっていく。時間を巻き戻し、"if"を妄想するも、今の縁を大切にここで生きるしかないことは分かっている。その心情を行き来して、現実的な選択と安堵を見せる切なさ1000%のエンディングに涙が止まらなかった。完璧と思える語り口。ソン監督、凄い人が現れた。
成島由紀子 ★★★★★
12歳、24歳、36歳と12年の歳月を経て巡り合う2人。12という数字は時間や1年の月など、生活に結びついている数字だからこそ、この年月は2人の人生にとても重要な意味をもたらしていると思う。泣き虫だったナヨンを見守ってくれていたヘソンは世界でただひとりの人。しかし移住で涙を捨てて強く生きて来たナヨンは、もうノラとして生きている。セリフだけで語らなくても2人の心情が痛いほど伝わって来る素晴らしい恋愛映画を観た。
マリオン ★★★★★
『秒速5センチメートル』に人生を狂わされた人間なので、すべてのシーンが愛しくてたまらない。時間と場所に引き裂かれた2人の距離は離れては近づき、再び離れていく。あったかもしれない未来を夢想し、別れを告げることで互いに今の自分を肯定しあうという切なくも美しいラストに涙が止まらなかった。また、ガラス張りの建物に囲まれたメリーゴーラウンドやY字路など、風景が豊かに語りかけてくる点も新海誠っぽくて最高だった。
村山章 ★★★★★
終始ぞわぞわしたし、鑑賞後も思い返すほどにぞわぞわ度が増して正直「あんたらのことは知らんがな」くらいの気持ちだったはずが★を5つも付けていた。子どものときに運命の相手を奪われたと思い込み、再会さえすれば停滞した人生が変わるはずだと信じ、思い出以外なにひとつ武器を持たずに(世界一似合わないリュック姿で!)NYにやってきた男の創造性のない生き様が、頭の中をぐるぐると旋回してはこちらの心まで刺しに来る。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Twist of Fate 12歳で初恋の男女が離れ離れに。この二人は本当に赤い糸で結ばれているのか? 東洋哲学が根底に流れる「運命」は一つのテーマ。ありがちなラブ・ストーリーだとドロドロするけれど、この作品には悪者が一人も出ない。夫に幼なじみのことを包み隠さず話すノラ、全てを受け止めてくれる夫は理想的な夫婦像。派手な展開や安易なセリフに頼ることなく、上品かつリアリティのある大人のラブ・ストーリー。
プリシラ
2023年/アメリカ、イタリア 4月12日公開
監督:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ
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エルヴィス・プレスリーの元妻、プリシラ・プレスリーの人生をソフィア・コッポラが映画化。14歳の少女プリシラは世界的なスーパースターのエルヴィスと恋に落ち、結婚することに。エルヴィスに夢中な彼女にとって彼の望むままであり続けることが人生のすべてだった。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
なにかあるはず。あのエルヴィスとプリシラの物語なのだから、きっと、なにかが。祈るような気持ちで見守っていたので、ラストシーンでは思わず間抜けな声をあげてしまった。史実に基づいた物語がプリシラ目線で描かれているはずなのだけど、それにしても退屈すぎる。プリシラ役のケイリーちゃんと、『Saltburn』でも空っぽなイケメンぶりを存分に発揮していたジェイコブくんのイメージビデオとして見るなら完璧な映像だった。
Taul ★★☆☆☆
スターの生活を暴いたり、グルーミングを叩いたりする感じにはせず、セレブの世界に染まっていく少女の愛らしさと危うさを、同化するような視線で描き出す。人形扱いだろうと、出産でもメイクを心掛ける姿に、スターの妻の儚い矜持を見る。ソフィア・コッポラらしい眼差しで、得意な分野をキュートに仕上げたが、プリシラ本人が製作に入ってるせいか、深堀りはなくボンヤリとした印象。エルヴィスの物真似(特に喋り方)が楽しい。
成島由紀子 ★★★☆☆
エルヴィスをほとんど知らない自分にとっては、妻であるプリシラの目線で描かれたことで、大スターの伝記映画としてではなく、プリシラという1人の少女のストーリーとして観られた。ソフィア・コッポラが描く60年代カルチャーは抜群のセンス! ストーリーとしては大きな出来事はなく展開していき、ラストも「え?これで終わり?」という感じではあったので、ただひたすらプリシラのファッションを楽しむ映画と思えばいいのかも。
マリオン ★★★☆☆
誰もが羨むスターとの恋愛と結婚生活。しかし、華やかさはまるで感じられず、彩度の低い窮屈な世界が広がる。人生の主導権を奪われていくプリシラの姿は見ていて苦しくなるが、そこに幸福な時間があったという事実も心に残る。人生の苦楽を噛みしめた果ての解放は、ほろ苦くも胸がすく思いがした。また、エルヴィスも人生の主導権を握れずに苦悩していたことを思い出し、人生のままならなさをより痛感してしまうのだった。
村山章 ★★☆☆☆
現実よりも2人の身長差を強調したキャスティングによって、支配的で甘ったれたスターが年端もいかない少女をグルーミングするヤバみが際立つ。ただエルヴィスをミュージシャンとしての真価から切り離しプリシラのふんわりした心情だけを吸い上げる視点は、ただただつまらない男女の痴話に見えてしまって面白味に欠ける。あとラストにあの曲流せば映画をシメられると本気で思ったのならマジでソフィア・コッポラをシメたい。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Child Bride バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』は記憶に新しい。コンパニオン・ピースとして観ようとしたが『プリシラ』は従来のバイオピックだった。プリシラちゃんのファッション、ヘアスタイルやメイクなどは目の保養になる。また新人のケイリー・スピーニーの好演も光る。しかし淡々と過ぎてゆく展開だったので手ぶらで帰ってしまった感じ。大人の事情によりエルヴィスの音楽も一切流れず違和感半端なかった。

高校からの付き合いの大事な友だちと、その息子くんと、わたしと娘で映画を観たりおいしいものを食べたりして、楽しすぎた今年の春の日のこと、たぶんずっと忘れない。

『オッペンハイマー』は3回見て、関連本を数冊読み、解説やPodcastを手当たり次第見聞きしたが、興味が尽きない。年に1、2本こういうのがあるんです。

参加させていただきありがとうございました。最近配信ばっかりだったので、1人で映画館で観るのってサイコーだなと改めて思いました。
5月、再び東京で映画BARをやることになりました! みんなで映画の話しましょう! お待ちしてます!
行き詰まって家を飛び出し屋外で仕事をしていると虫にたかられる季節がやってきました。
オッペンハイマー感想の続き
席はK-1だったので、後になってK-6を予約すれば良かったと後悔。
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『オリオンと暗闇』『サンコースト』『俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー』『シティーハンター』を予定!