※ 表をクリックすると拡大・DLができます
▶ 今月のお題
・ PERFECT DAYS
・ TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
・ Saltburn
・ カラオケ行こ!
PERFECT DAYS
2023年/日本 12月22日公開
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、アオイヤマダ
▶
公式サイト
----------------
渋谷区の公共トイレの清掃員として働く平山。毎日決まったルーティンを守って生活しているが、一日として同じ日はなく、出会った人々とのふれあいの中で小さな喜びを見つけて生きていた。そこへ、思いがけない人物との再会が訪れる。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
今どきスマホもパソコンも持たずに生活する、寡黙なおじさんの清貧生活物語。なにかあったらしい過去についても匂わせ程度で、オシャレな公共トイレを掃除してわずかな賃金を得、多くはない人たちとかかわりあって生きていく……。こんなにやさしい世界が本当にあったらよかったデスネー、と半笑いになってしまうほど、すべてに現実味がない。役所広司の姿をした妖精が、東京の街を行きかう人間のやさしさに触れて見た夢みたいな話。
Taul ★★★★☆
東京のPR映画としても、清貧さを尊ぶ作品としても漂白されたファンタジー感が気になる。それでも主人公平山の心の映画として観て共感した。彼はきっと人生から逃げまくった男であり、後悔の念に苛まれ、諦めと憤りを抱えて生きている。あの暮らしも満足より今やこんな生き方しか出来ないという悲しみが大きく、それをヴェンダースはアンチテーゼとして忍ばせ、役所広司は最後の表情で語っていた。そうでなければ僕はあんなに涙しないだろう。
マリオン ★★★★☆
製作陣や労働者の侘しい生活を過度に美化する作風にいけ好かなさを感じてしまうものの、平山という男に惹かれてしまう自分がいる。人は分かり合えないという達観と誰かとの繋がりを感じたときの喜び。そして、日常のルーティンにある機微に向けられた優しい眼差し。人間のいいところも面倒くさいところも含めて温かく寄り添ってくれるようで心に深く沁み渡る。ヴェンダースの繊細さを託された役所広司の演技も素晴らしい。
村山章 ★★☆☆☆
ヴェンダースは会見で「ドイツ人が撮ったように見えますか?」と質問したが、見えます、少なくとも日本を外から見てる人が撮った映画には。主人公に話を絞れば、訳アリ富裕層の清貧生活というコンセプトは成立してると思う。が、疲弊した世相であの暮らしを享受する行為には贅沢でよろしおすなあという感想しか抱けず。むしろ漂白や美化の隙間にチラリと顕れる粗雑さの方が興味深いが、でもやっぱ監督は平山を賛美してんだよな。
室千草 ★★☆☆☆
この映画の鑑賞後、駅のトイレに入ると、空のハイボールロング2缶がペーパーホルダーの上に置いてあった。トイレで2缶飲み干した女性の事も気になるが、トイレを掃除した人の事も気になる。そして平山が掃除したトイレなら美味しい酒が飲めるだろうか?とも。ヴェンダースが描く東京の美しさと、ドナータのモノクロ映像と、役所さんの前屈み気味の歩き方に時折心奪われたが、総じて東京の壮大な広告の様に見えてしまった。
TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
2022年/オーストラリア 12月22日公開
監督:ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ
出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード
▶
公式サイト
----------------
2年前に母を亡くし塞ぎこんでいるミアは、気晴らしにSNSで流行中の「憑依チャレンジ」に挑戦する。手の形をした呪物を握って呪文を唱えると死者が90秒間憑依するというものだが、ある時、チャレンジ中に亡き母の霊が現われて……。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
招かれざるパーティで浮きまくり、ここにいてもいいんだという免罪符を得るため、無理にはしゃいで、やらんでいいチャレンジをする空気が痛々しくも非常にリアル。誰といてもどこにいても淋しさが埋まらなくて、自分の肉体を使って「楽しい」を体現してみせる。結果的に「ほら見たことか!」と言いたくなるほどどうしようもないところに行ってしまうのだけど、それも含めて「今」が詰まっている。音楽もカッコよくて最高。
Taul ★★★☆☆
若者のドラッグ体験をネタにした降霊パーティーというノリのいい面白さ。適当なルールを作ってセーフ!とはしゃぐのは覚えがある。監督のYouTubeチャンネルをのぞくと、バカ騒ぎの見せ方にセンスがあり納得のデビュー作だ。やりすぎ後の罪悪感と若者特有の心配ごとを絡めた鬱展開も悪くはない。でも途中からは驚かせるためのどこかで見たようなシーンが続いて、新鮮な衝撃は薄まっていったように感じた。最後はしっかり怖いけど。
マリオン ★★★★☆
憑依チャレンジという設定が上手い。ソーシャルメディアとドラッグに溺れ、心を病んでいく現代の若者像を見事に捉えている。そして、主人公が歩んでしまう破滅の道が本当に怖かった。自分が信じているもの、選んできたものが全部間違っていたとしたら? 誰だってそんなことは考えたくもない。でも、容赦なく絶望を突きつけてくる。本気で目の前が真っ暗になるような気持ちになり、自分という存在の不安定さを嫌というほど味わった。
村山章 ★★☆☆☆
本来なら「ホラーかくあるべし」と言いますか、新進フィルムメーカーがちょっとヒネった設定の低予算ホラーでサクセス狙ってます!だと思うのだが、今後のシリーズ展開を見据えて大ネタは後回しにしましたみたいに見えてしまい、野心より世渡りという印象で物足りない。頭では「こういうジャンル映画はこれくらいでいい」と思おうともしてみたけれど、役者陣の熱演に見合うくらいにはムチャや破天荒さで驚かせてくれないか。
室千草 ★★☆☆☆
小学生の頃に流行った「コックリさん」。今は「憑依チャレンジ」。時代は変われど若者の憑依願望は同じなのかしら。ホラー映画における憑依ネタはよくある設定だけど、謎の“手”をリュックで手軽に持ち歩く設定に可笑しみを感じ、恐怖という感情は全く湧いてこない。土曜日のレイト上映で、上映中むっちゃ喋る若いカップルに挟まれて見た状況の方がかなり怖かった。
Saltburn
2023年/アメリカ、イギリス 12月22日配信(Prime Video)
監督:エメラルド・フェネル
出演:バリー・コーガン、ジェイコブ・エロルディ
▶
公式サイト
----------------
名門オックスフォード大学入学後、周囲になじめずにいたオリヴァーは、人気者の同級生、フィリックスと親しくなる。夏休み、代々受け継がれてきた屋敷があるソルトバーンへと招待され、フィリックスの家族と忘れられない夏を過ごす。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
名門大学に入学した陰キャ君が、ふとしたことからカーストトップの陽キャ王子様と仲良くなって、彼の実家のお屋敷で過ごす、夢のようなひと夏――なのだけど、美しい屋敷で起こるドロドロした人間模様と、(おもに主人公オリヴァーの)強すぎる思念に基づくどうかしている行動が、どれも最高に気持ち悪くて目が離せない。終盤、個人的にはすこし残念な展開もあったけど、それすらどうでもよくなるほど圧巻のラストシーン!
Taul ★★★★☆
さすがエメラルド・フェネルとマーゴット・ロビー。お行儀よい有害な男らしさ批評を超え、気持ちの悪い雄(オス)の解体といった趣向に取り組んだ。男は他の男との立場がどうかを行動原理としており、憧れ、嫉妬、偏見などで上下や対立関係を作っては、同化や逆転を謀ろうとする生き物である。それをバリー・コーガンの変態味を使って華麗でキショい話に落とし込んだ。コーガンの力も大きいが男としては素っ裸にされた気分だ。
マリオン ★★★★★
他人の家族に土足で踏み込み、悪魔のような振る舞いでかき乱すことに定評のあるバリー・コーガンが堂々たる変態ぶりを見せつけて大暴れ。どんでん返し展開も彼をキャスティングした時点でバレバレである。そして、一途だったはずの好きという感情が拗れていき、もはや何がしたかったのか分からなくなってしまう彼の底知れなさが、階級構造を破壊していく様はとても清々しい。ゆがんでいるけれども、最後に勝つのは愛なのだ。
村山章 ★★★☆☆
新味とかではないのだが、キモくてすんごい面白い!と思いながら観ていて、終盤の種明かしの凡庸さにザザーッと引いた。本筋よりも細部の描写に魅力が詰まっている作品だと思うので、得体が知れてしまうことで暗い輝きが失われるのはもったいない。フェネル監督は前作でもラストにプロット上の軽いギミックを仕込んでいたので作劇する上での癖なのかしら。あとキャリー・マリガンがほぼヘレナ・ボナム・カーター役だった。
室千草 ★★★★☆
英国の階級社会と愛憎劇が混じる歪んだ“パラサイト”ラブストーリーを、バリー・コーガンが演じるから、なおさら歪んでみえてくる。裸で「ソルトバーン」にしがみつき、同一化願望を体現していく様。裸って最強ですね。終盤、ロザムンド・パイクがカフェの鏡ごしに再会するバリー・コーガンの雰囲気に狂気性を感じた。鏡の端に映っていても怖かった。しかし最後の種明かしはいらないかも。
カラオケ行こ!
2024年/日本 1月12日公開
監督:山下敦弘
出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん
▶
公式サイト
----------------
中学合唱部の部長、岡聡実は、歌が上手くなりたいというヤクザ、成田狂児に見初められ、なぜかカラオケのレッスンをすることになる。ふたりの奇妙な関係をコミカルに描いた和山やまの人気コミックを山下敦弘監督、野木亜紀子脚本で実写化。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
これは、映画という形の二次創作作品だ。以前から原作への愛を語っていた綾野剛が「俺の思う成田狂児」を全身全霊で演じ、脚本がリアリティを補完し、齋藤少年が成長する一瞬を切り取り、各々の解釈を形にした一本。キャラが肉体を得たからこその感動もあった反面、漫画だから無意識にスルーしていた部分が生々しくなったのに驚いた。二次元ではコミカルなファンタジーでも、生身の人間が演じるとただの怖いヤクザになるのよ。
Taul ★★★☆☆
昔勤めてた会社では社長がいる宴会でうまく歌うと出世するという噂があり、せっせと練習したのを思い出した(馬鹿だ)。そんな古い価値観、戻らない時間に思春期の心が触れ、ものの見方に変化が起きる。曲とドラマがリンクして激しくも哲学的な青春劇になっていくのが見事。ただ設定と作劇が強すぎて窮屈で、漫画や脚本の存在が頭をよぎる。映画としての魅力アップには山下監督の以前のゆったりとした味わいがもっと欲しいと思った。
マリオン ★★★☆☆
当然のように想いは一方通行で、ちょっとだけ手が届きそうなところに相手がいてくれるだけで嬉しくなってしまう。しかし、微笑ましい時間は終わりを告げる。もう戻らないからこそ、あの不思議な関係性が愛おしくてたまらなかった。それにしてもX JAPANの「紅」がこんなにいい曲だったなんて! 今このときしかない歌声を披露する齋藤潤の名演にも拍手。ただ、ほんわかムードに突如挟み込まれるバイオレンスにはあまり笑えず。
村山章 ★★★☆☆
少年が熱唱する「紅」、綾野剛が繰り出すカラオケ芸など、マンガでは表現できない身体性を役者がきっちり埋めていて、実写化の甲斐もあろうというもの。ただ山下監督のアゲすぎない演出とベタな劇伴の組み合わせは却って作品を安っぽく見せてしまってはいまいか。また映画鑑賞後に原作も読んで、空気感や笑いのテンポは別物という印象。それは表現手法の違いだと思いつつ、現代社会の要素を足したのは中途半端だったのでは。
室千草 ★★★★☆
「紅だァーッ!!」って思わず叫びそうに。X JAPANの「紅」をこんなに連続して聴いたのは初めて。その連続性がとても効果的。ながらく停滞してた綾野剛の色気復活、北村一輝はホタテマン襲名いけそうな予感など、役者の魅力が画面から溢れる山下映画。やはり魅力的です。鮭の皮を剥がすカットからの合唱、音叉が落ちるカットからの合唱の繋ぎに唸った。鑑賞後、「カラオケ行こ!」って思わず友人にライン送りました。

元気いっぱいコロナに罹患。新年明け、なんかいろいろがんばる!と意気込んでいたのに、さっそく寝込んでぐだぐだと一週間が溶けていきました。

映画館で本編が始まると待ってたかのように食べ物の封を開ける人がいるけど、あれは列車が動き出したら駅弁を開ける感覚なのだろうか。
毎年、地元の神社で豪華賞品が当たるおみくじを引くのですが、値段が500円から1000円になっていました。物価高が憎い。
年始恒例さるハゲロックフェスで、深田晃司監督とトークしてバンドで『仁義なき戦い』もやったんでアーカイブでご覧になってください!
新作にむけての撮影を来月から始めるのですが、撮影体制にすぐ「憑依」できない不器用な体質、きっと死ぬまで治らない...
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『ゴールデンカムイ』『哀れなるものたち』『ダム・マネー ウォール街を狙え!』『夜明けのすべて』を予定!