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▶ 今月のお題
・ クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
・ あしたの少女
・ 君は行く先を知らない
・ アステロイド・シティ
クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
2022年/カナダ、ギリシャ 8月18日公開
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワート
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公式サイト
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進化によって痛覚が消失した近未来の人類を描くSFホラー。自身の体内に生まれる未知の臓器にタトゥーを施して摘出するパフォーマンスを行うアーティストのソールのもとに、新たな進化を遂げた遺体が持ち込まれる。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
元気な老人万歳! 何にも怯まず、己の世界観丸出しでやりたい放題やっている点は、宮﨑駿の新作にも通じる。ずっと「なんじゃこりゃ」の連続なのに、画面いっぱいに広がる、人体がもつ可能性への飽くなき追究から目が離せない。クローネンバーグだって年を取り、自らの知能や肉体の変化を経験してるはずなのに、その上でこんな近未来を描ききった根気と体力に感服。元気な老人、普段なに食べてんのかな。やっぱ肉かな。
Taul ★★★☆☆
プラスチックを食べるのは環境問題への提言であり、痛みを克服した社会では新しい臓器が創造される。身体の変容で人類の進化を語る巨匠のぶっ飛んだ感性が凄まじい。ヒトの体とテクノロジーは相互依存しながら、新たなステージへと向かうという考えを本当に信じているのだろう。物語自体は分かりにくく、語り口は鈍重だったが、老境でここまで好きにやってるのは凄いパワーだし好感。不気味さが面白さになっていく魅力があった。
マリオン ★★★☆☆
はずかしながら今作がはじめてのクローネンバーグ作品。その異様な世界観と観念的な話に終始振り回されっぱなしだった。「肉と骨を組み合わせました!」みたいなプロダクトデザインが流行り、痛みを伴う行為に快楽を見出す世界とか考えることがぶっ飛んでいる。ただ、環境の変化や社会の変容がヒトという生物の進化に内包されているという考え方は興味深い。変なものを見せられる体験も映画の醍醐味だなと改めて感じた。
まるゆ ★★★☆☆
初クローネンバーグ。まずは、人物の名前に衝撃を受ける。出てくる人物が片っ端から聞き覚えのない、どこの国も連想できない。「未来」かどうかも分からない世界観。分からないだらけなのに、心が折れないのは美術の力が大きい。鑑賞後少し経って、ふと思い起こしたのは、なぜか「熟年カップルの介護」。ベッドや食事が別で、この2人は古来のセックスはしないと思わせる冒頭から、鬼才の描く未来は、やはりとんでもなかった。
村山章 ★★★☆☆
齢80歳のクローネンバーグ爺さんがどこを切ってもクローネン汁あふれる映画を撮ったわけで、星取りレビューで言うのもなんだけど採点とかどうでもいいところでできている。地球に害を為すわれら人類はゴミでも食って生きていればいいという劇中のミもフタもない進化論が最強に中二っぽいし、差し迫った生活苦のない知識階級はロクなことしねえなと思わせる世界観も中二っぽい。「中二の魂百まで」なんだなと他人事でなく震撼した。
あしたの少女
2022年/韓国 8月25日公開
監督:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ、キム・シウン
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公式サイト
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2017年に韓国で起こった実在の事件をもとにした社会派ドラマ。学校から紹介されたコールセンターで実習生として働き始めた高校生が遺体となって発見される。事件を担当することになった刑事は、コールセンターの過酷な労働環境について調査を開始する。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★☆☆
ほんの少し先に生まれ、運よく年を取り続けただけの大人が、若者の絶望に見て見ぬふりをして我が身を守る醜悪さが延々と描かれる。韓国の実習制度について今回初めて知ったけれど、人間を使い捨てるように働かせる社会は今、世界中のどこにも広がっているわけで。中学生の小論文の結び的に「世界を変えなければ!と思いました」って言うのは簡単だけど、現実問題、大人として何ができるんだろうと途方に暮れた。
Taul ★★★★★
仕事柄、あの罵声、あの表を知っている。お客様対応では怒鳴られることがあるし、管理側では数字だけで判断しがち。被害者にも加害者にもなりうる自分がいて辛かった。似た経験がなくても、視点を活かした語り口が絶妙で引き込まれるはず。ソヒ視点で痛みを体験し、ペ・ドゥナ視点で闇のからくりを知り、最後の視点でもう誰も次のソヒにしてはいけない気持ちでいっぱいになる。違う国の話で終わらせない、自分ごとにさせる力があった。
マリオン ★★★★☆
高校生が精神的に追い詰められていくのを見るのはとても辛く、個人ではどうすることもできない搾取の構造に怒りを覚える。その怒りを代弁するように関係者を問い詰める刑事の姿にかすかな希望を見た。そして、捜査が進むにつれて高校生のさまざまな一面を知り、我々は彼女のことを何も知らなかったのだと気づかされる。彼女が苦しんでいる姿を間近で見ていたはずなのに。ひとりの若者の未来が失われた事実が重くのしかかった。
まるゆ ★★★★★
今、日本いや世界を震撼させている件と根っこは繋がっていてゾッとする。大人のひと言で救われる魂や命がある。ソヒの辿ったどこかに、それが一つでもあればと。人が空を見上げる時、それは絶望かそれとも希望か。後者であることを願うばかり。今作における反復表現。こんなに哀しい、情けない、容赦ない反復があるだろうか。監督が描きたかったこと、描くべきとしたことが完璧にトレースされた圧巻の138分。
村山章 ★★★★★
もとになった事件の被害者の気持ちがわかる、なんておこがましいことは言えないが、労働の搾取とか責任逃れの世の中にうんざりしているとか、納得いかない気持ちをごまかしごまかし生きている奴隷根性に冷水を浴びせられる。前半のミクロなお仕事映画から社会性むき出しの捜査ものへと転調する広がりも素晴らしいし、ヒロイックな結末に落とし込まない誠実さも沁みる。マジでペ・ドゥナに怒ってもらってる場合じゃねえよ。
君は行く先を知らない
2021年/イラン 8月25日公開
監督:パナー・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ラヤン・サルアク、アミン・シミアル
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『白い風船』などで知られるジャファル・パナヒ監督を父に持つパナー・パナヒの長編デビュー作。車で旅行中の4人家族。目的地である高原にある村に向かって楽しい道中を過ごしていたが、一家には大事な目的があった。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
君が行く先を知らないなら、わたしは君の国、イランのことを何にも知らない。だから、大人たちが内に抱えている不穏な何かを、目を凝らしてなんとかとらえようとしたのだけれど、なんだかすごく遠い。出来事が起こるのはカメラが写すそのずっと先で、まさにこの薄膜の向こう感がわたしとイランとの距離だと思った。そんな中、ひとりだけ子どもの弟くんは、鬱陶しいほどのびのび元気いっぱいで、すごく近かったです。
Taul ★★★★☆
昔のイラン映画のような実状を伏せたとぼけた作風。それは未だに続くイラン当局の厳しい検閲から逃れるための意図的な作りだと思うと、懐かしむ気持ちが引いていく。旅が進むにつれ、現場が見えない画、希望を託すファンタジー、子どもが唄う懐メロ(外で大人は唄えない)と、家族の悲しみが込められた表現が続々と。規制と戦いながら国の問題を訴えてきた父の志を継いでいるよう。パナー・パナヒ監督のセンスと心意気を感じた。
マリオン ★★★☆☆
過保護なぐらい旅立つ我が子を心配する母や寡黙ながらも長男を励ます父の姿は日本もイランも同じだなと思う。でも、イランが抱える暗い事情を知ると、彼らの想いがとても切実なものだったと気づかされる。重いテーマを描いているが、鑑賞中は次男の無邪気さに思わず笑ってしまうこともしばしば。『2001年宇宙の旅』オマージュやポップなイラン歌謡曲も楽しい。ユーモアがあるおかげで辛い現実を真っ直ぐ見つめることができた。
まるゆ ★★★★☆
演出としての音楽、映画内に流れる音楽、第四の壁を破るかのような使い方、主人公家族の道行きには常に音楽があり、彼らの哀しみや喜びと重なり、そこにイランの乾いた大地と山肌が拍車をかけてくる。「別れのリンゴ」のシーンの気まずさ、「ホントの別れ」のシーンの呆気なさ、別れの描き方も面白い。最後まで、ある人が去る(旅立つ)理由は分からないが、それがモヤモヤすることはない。なんとも不思議な作品だった。
村山章 ★★★★☆
自由を阻害されたイランの現実をシュールな寓話として描く。多くのイラン人監督が受け継いできた手法だが、政府に弾圧されながらも国を捨てない決意をした父のもとで育った若者の初監督作ゆえに、こちらも行間を無限に膨らませながら観てしまう。父ジャファルが同じく国境越えを描いた『熊は、いない』の奥行きと怖さには及ばないが、落ち着き皆無の子供が底抜けのバカっぷりゆえに救いとなる「バカの価値」の更新がみごとでした。
アステロイド・シティ
2023年/アメリカ 9月1日公開
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス
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公式サイト
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砂漠の街で巻き起こる大騒動を描いたコメディ。科学賞を受賞した5人の子どもたちとその家族は授賞式が開催されるアステロイド・シティに招待される。しかし、突然宇宙人が現れ、街は軍によって封鎖されてしまう。
※ 実際の発音は「スカーレット・ジョハンソン」が近いですが、混乱を避けるため一般的な表記に合わせています
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
ウェス・アンダーソンが苦手だ。正直よくわからないし、オシャレっぽいところも、「アタシはこの良さ、わかってるから」みたいなファン(※個人のイメージです)も苦手だ。公開前、予告を観て今回こそいけるかもしれないと思ったけど、あえなく撃沈。冒頭から振り落とされてぼんやりしているうち、劇中で何度もくり返されるメッセージ「眠らなければ、目覚めることはできない」をまさに体感した。体験型ムービー(違)。
Taul ★★☆☆☆
ウェスの凝った映像スタイル。今回題材とその表現方法を計算し尽くして入れ子構造が設計されているようで、もはや強固なシステムのよう。窮屈で息苦しいと感じてしまった。さらにフィクションを常に意識させる異化効果が多くて、素直に感情も動きにくい。可愛いものたちも、役者のおかしな言動も、巧妙に配置されてるなあ、と冷静に見ていた。ウェスの進化なのかも知れないが、彼の映画の楽しさをうまく見つけられなかった。
マリオン ★★★☆☆
完璧に作り上げられた世界は見ているだけで惚れ惚れしてしまうが、どこか乗り切れない自分がいる。世界が完結されていて変な深読みもできないし、知的な素養の高さやすっとぼけた笑いに置いてけぼりをくらうことも。隙がないだけに息苦しかった。もっともウェス・アンダーソン自身はまったく変わっておらず、のびのびとやっているだけなんだろうけど。個人的には『ムーンライズ・キングダム』ぐらいがちょうどいいウェス。
まるゆ ★★★☆☆
大騒動と書かれたあらすじ。その通りのことが起こるのだけれど、不思議なほどそれを感じさせない。語り口が独特でよく分からないところがあっても、わたしの心がスクリーンから離れなかったのは、ビジュアルの楽しさと構成にある。ウェス・アンダーソン作品を観ているなぁという実感と、なぜか俳優陣の満足感も伝わってくるような。ちゃっかり、少年の成長譚と父親の恋愛成就が描かれているところも憎いね。
村山章 ★★★☆☆
監督発言を追ってみたらあの人のモデルはあの歴史的人物なのねとか意図がわかって納得。でなくとも、ポップなキノコ雲がただふざけてるわけではないことやコロナ禍の影響が色濃いのはわかる。が、近年のウェス作品は理解が深まったところで面白くなるわけではなく、本人も一般的な“映画”を作ってる意識はないんじゃないか。監督の勘所にひたすら忠実な緻密でコンセプチュアルな現代アート。もはやアッパレに思えてきたんで次も観ます。
思い立ってコスモ星丸に会いに行き、80年代当時の最先端技術の墓場を見学して大興奮。ショルダーフォン、ウォークマン、レーザーディスク……ザ☆レトロフューチャー!
映画館とサウナ(だいたいスーパー銭湯)は、いいプチデジタルデトックスになっています。
9月に入り、誕生日を迎えました。なにか目標を作った方がいいと言われたので、とりあえず部屋の模様替えと引っ越し荷物の片付けにしました。
スクリーンの登場人物があくびをすると、こちらも、もれなくあくびをしてしまう。こういう現象にも名前ってあるのかな?と思う今日この頃。もうそろそろ秋ですね。
ここ数年で一番重要な10月になりそう。映画がらみのプロジェクトを告知していきますんで、気にしてもらえると嬉しいです!
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