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▶ 今月のお題
・ 縁路はるばる
・ マルセル 靴をはいた小さな貝
・ Pearl パール
・ 君たちはどう生きるか
縁路はるばる ↗
2021年/香港 5月19日公開
監督:アモス・ウィー
出演:カーキ・サム、クリスタル・チョン
香港のIT企業でアプリを開発する28歳の青年ハウは、内気で恋愛がいまひとつ。そんな彼が5人の魅力的な女性と出会う。僻地に暮らす彼女らと会うため、香港中をめぐることになる。「新世代香港映画特集2023」の1本として上映された。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★☆☆☆
背景にある香港の社会状況が気になった。中心部の家賃が高過ぎるという住宅事情に加え、逃げ出す人も多い中国本土の抑圧への不安も描いてるのではないだろうか。国家安全法以来、香港映画の検閲は厳しいらしく、声高でなく「どこに住むかより、誰と住むかだよ」といった会話でうまく忍ばせている。映画の内容自体はホンワカとしたモテキで全体にゆるいし主人公に甘過ぎでは。メガネ君がんばれ、と懐かしい気持ちになった。
まな ★★★☆☆
現代香港の社会状況が垣間見れる珍しい作品としてテンポや雰囲気は嫌いではなかったが、こんなにラブコメの形を借りておいてラブコメをやる気がなさすぎる。グルメ情報アプリを使った演出や僻地への移動だけに忙しく、それぞれの人物や街の魅力はほとんど見せてくれないのだ。主人公は害が無く収入が安定してそうなだけ、彼が女性を好きになる理由も可愛さやタイミングだけで、情熱が何もない。ラブコメにはロマンが必要だ。
マリオン ★★★★☆
見た目から性格まで自分とそっくりな草食系男子がスクリーンに映っているという、まるで『複製された男』みたいな体験。しかも、幼馴染との同窓会的シチュエーションや遠距離恋愛、むず痒い奥手なやり取りなど僕の好きな要素ばかり。なんだか願望をたっぷり詰め込んだ、自分が主人公の恋愛映画を作ってもらえたような気がして勝手に嬉しくなる。また、香港のリアルな社会事情に触れることができるのも新鮮だった。
みえ ★★★☆☆
恋愛はしたいようだけれど、本当は誰のことが好きなのか、そもそも本当に誰かのことを好きになっているのか。それが一向に見えず、女性に対して煮え切らない態度を取ってばかりの男性が、5人の女性に言い寄ったり言い寄られたり。モテモテっぷりはさておき、このモジモジした感じの男性は実際にいそう。いろんな性格の女性が見せる様々な反応も、現実にありそう。香港の現代事情を織り交ぜて描くリアルさが絶妙だった。
村山章 ★★★★☆
香港の今どきの若者のラブコメ、と思って観はじめたが、いや、これは今の香港そのものを描いた映画じゃないか、と思い直した。香港の世相に詳しくはないが、主人公が出会う女性それぞれが社会の一側面の象徴だし、突然ガンになって姿を消す彼女は、民主化運動に参加して逮捕されたひとたちの隠喩だろうか、とも考える。しかしマリオンさん似の主人公、いくらなんでも彼女に甘やかされすぎだろ。あの2人は遠からず別れるに一票。
マルセル 靴をはいた小さな貝 ↗
2021年/アメリカ 6月30日公開
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
出演:ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ
映画作家が仮住まいに入居した家には、小さな貝のマルセルとその祖母が住んでいた。彼はマルセルのドキュメンタリーを撮影して動画配信を始める。実写とストップモーションアニメを組み合わせた作品。第95回アカデミー賞長編アニメーション賞ノミネート。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★★☆
マルセルへのインタビューが中心だが、彼があまりに小さくピュアな存在なせいか、監督自身の心境の吐露のように感じたり、こちらに問いかけられてるような気分にもなった。マルセルの分身とも言える声を演じている女性が、当初は監督のパートナーであり、二人の関係性も反映されているのだろう。さまざまな心情が込められた不思議な対話の映画になっている。撮影手法が驚く程凝っていて自然に見えるのもマジック。
まな ★★★☆☆
ささやかなようでかなりアグレッシブなマルセルたちの暮らしと、マルセルのお茶目さが楽しい。元々YouTubeの短編だが、ウェブシリーズとして延々と観ていたい気になった。しかし一日で10秒の映像ができて良い方、というインタビュー映像を観て、そんなに多くは望みません、という気持ちに。ジェニー・スレイトの人間ドラマはあまり国内公開されないが、作家としての活躍をもっと観たい。
マリオン ★★★★★
マルセルとディーンの不思議な日常やコニーおばあちゃんの温かさに触れ、優しい涙を流していた。いろんなことで離れたり、別れたりすることはあるけれど、繋がりや絆はきっとどこかに残っている。別れと向き合い、新たな出会いに喜びを見出す為のセラピーのようだった。また、ドキュメンタリー風の手持ちカメラ映像とストップモーションアニメが違和感なく馴染んでいるのにも驚愕。この愛おしさと気持ちよさ、ずっと見ていたい。
みえ ★★★★☆
マルセルが家の中や庭先を縦横無尽に駆け回って日常をダイナミックに楽しむ様子と、ドキュメンタリー映画の監督に対して興味津々で交わす会話が、楽しくて仕方ない。わが家でも、ひきだしを開けたらマルセルたちがいるかもしれないと思えるほど、架空の生き物なのに細部まで作り込んで、生態を見事に創造している。好奇心旺盛な性格がにじみ出るようなマルセルの声も、とても良かった。
村山章 ★★★★★
まず監督の元妻ジェニー・スレイトが演じたマルセルの声に夢中になった。一聴するとただの声芸にも思えるが、超シュールな生き物が実写の中に存在している奇妙さを納得させるに足る温かみと存在感。そして繊細なストップモーションアニメが醸すクラフトマンシップと、それを最大限に活かすセンスの良さ。とんでもない手間暇がかかっているはずなのにあくまでも軽やか。それでいて離婚の痛みを匂わせる率直さにも虚を突かれた。
Pearl パール ↗
2022年/アメリカ 7月7日公開
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット
1918年のテキサス。パールは華やかな映画スターや都会に憧れていたが、結婚後も農場暮らし。夫の出征後、要介護の父と厳格な母のもとで田舎の生活を抜け出せないことに苛立ち、狂気に駆られていく。『X エックス』の前日譚となるシリーズ第2作。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★☆☆☆
テクニカラーで描く『オズの魔法使』オマージュのシリアルキラーの誕生、といった出だしに胸躍ったが、その後はドラマ要素が強めで、異常性欲への言及も大暴れもない。A24らしく現代に通じる抑圧された女性をホラー風味でじっくり描いたわけだが、『X』の背景にあるパールの境遇はこれで、といったアイデアを水増ししたような内容で、1本の映画としては物足りなかった。ほぼミア・ゴス劇場で、顔芸含めその演技は見もの。
まな ★★☆☆☆
閉塞的な状況がただただつらく、そこまで狂気に振り切りもせず(自慰シーンは演出で怖くしてるだけで別に青春映画でも有り得るのでは?)、楽しめるホラーではなかった。客のいない映画館でいきなりポルノ映画を見せてくる映写技師の男がいちばん怖い。パールの独白は、全部言葉で説明してしまうのはどうなのという気もするが圧巻だった。前作と合わせて多少察することはできるが、夫ハワードの心境が俄然気になる。
マリオン ★★★★☆
前作から時代をさらに遡ることでより強烈に世代間や親子の断絶が浮かび上がり、負の連鎖が未来へと受け継がれていく構成に唸らされる。若者たちを恐怖のどん底に陥れた老女パールもまた夢見る若者であり、未来を潰された存在だったのだ。そんなパールを同情してしまうような悲しき存在として単純化するのではなく、相容れない強烈な他者として描いているのも素晴らしい。ミア・ゴスの悲痛な独白シーンと引きつった笑顔は必見。
みえ ★★★☆☆
前作『X エックス』に見た殺人鬼お婆さんパールの残虐性が、少女時代にどのように育まれたのを描く本作は、前作と違って登場人物が少なく、直接的な残虐描写が多め。パール中心のシンプルな物語展開が前作に比べて物足りなく思えたものの、本作はパールの異常性を体現するミア・ゴスを堪能させる方向に舵を切ったんだなと納得した。ミア・ゴスにあんな顔をされたら、凶悪殺人鬼でもパールに寄り添いたくなってしまう。
村山章 ★★★★☆
70年代ホラーとポルノをネタに遊びまくった『X』の前日譚はテクニカラーのハリウッド黄金時代にオマージュを捧げた異色ホラー。いや、もはやホラーなのか? ジャンルとジャンル、時代と時代を掛け合わせることで新しい遊びが生まれた感。時代錯誤ともいえる古色蒼然とした画作りと、田舎娘の歪んだピュアさを怪演したミア・ゴスに惹きつけられる。超長回しの独白だけでクライマックスが保つと判断した監督の英断にも拍手!
君たちはどう生きるか ↗
2023年/日本 7月14日公開
監督:宮﨑駿
出演:山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ
戦争が激化する日本。火災で母親を亡くした少年が、東京から母の実家へ疎開する。そこで奇妙なアオサギに出会い、森の中にある謎の塔へと導かれていく。『風立ちぬ』以来10年ぶりとなる宮﨑駿監督の長編アニメーション。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★☆☆
巨匠が老境にその人生と作品群を走馬灯のように振り返る、といった趣向としては納得。黒澤明の『夢』と『まあだだよ』を足したような、彼岸の境の幻想性と、儚い別れの感覚が味わえた。ただそこまで宮崎駿自身のファンではないので、母との関係性は、アオサギは鈴木Pでは、などの読み解きは早めに飽きてしまった。アニメーションは故郷に帰ったような安心感で好き。前情報なしは、集中力マックスで始まる貴重な体験となった。
まな ★★★☆☆
このところいろんな作品で描かれる"異世界"の個性のなさにがっかりしていたので(主にディズニー&ピクサー)、これまでのジブリ作品と似たところは多々あるとはいえ鳥たちのキモさと不思議さに久しぶりにワクワクした。しかし変わらず見られる母性や少女性への執着、あくまで監督個人の物語を想像させる流れに、私はこの作品が想定するオーディエンスではない、私は彼の物語を必要としていないと思った。
マリオン ★★★☆☆
宮﨑駿の人生と彼の脳内にあるイマジネーションが具現化した異世界を旅するまとまりのない物語。映画全体から終焉のムードが漂い、走馬灯を見せられているようでしんどくなる。こちらはまだ先の長い人生を歩んでいるというのに、なぜ知らないおじいさんの朦朧とした人生の幕引きに巻き込まれているのか。自分もいつか終わりの境地に達するかもしれないが、今はまだ受け取りたくないというのが正直なところ。
みえ ★★☆☆☆
私が昔から宮崎駿監督作品に対して苦手意識を感じていたところが凝縮されたような作品で、やっぱり無理だ苦手だ、と思うと同時に、歳を重ねても変わらない点でさすがだと思った。苦手なのは、訳も分からず世界を背負ったり孤軍奮闘することになったりしても、人間的な弱さを許されずに立ち向かうところ。つらさが私にはトラウマ級。今回はさらに、不測の事態に逡巡すらせず自ら飛び込んでいく。もうお手上げだけどあっぱれ。
村山章 ★★★★☆
天才老人の好き放題という意味では『風立ちぬ』と同じはずだが、今回はエグみはあまり感じず意外なほどするっと楽しめた。宮﨑駿は過去にやったことを封印しながら新作を作ってきたと思うが、今回は力みが消えて、宮崎アニメならではの表現の妙が戻ってきた気がする。カバンの重みとか、窓枠のきしみとか、細部のこだわりに惚れ惚れさせられた。あとこんなにお母さん大好きです!って映画作れるのは皮肉なしにスゴいな。
ひとことふたこと


最近仕事でAIと格闘中。デッドレコニングを見るとまず体力が必要という気がしてきてる。

夜中のクロスレビュー、私の参加は今回が最後です。1度くらい★5つ付けたかったのと、ドラマレビュー回をやりたかったです。引き続き映画とドラマ鑑賞をがんばります。

Pokémon Sleepを始めました。きちんと睡眠時間を取らないとポケモンたちがやつれてしまうので頑張って寝ます。

年に一度の大イベント、トロント国際映画祭の時期が近づいてきました。今年も渡航予定のため、夜中のクロスレビュー8月号と9月号はお休みさせてもらいます。

バリ島に行ってきた。経済発展著しいインドネシアの物価上昇に加え、円安で4年前のレートに比べすべての値段がさらに25%増し。マジで日本しっかりしないとやばい。