※ 表をクリックすると拡大・DLができます
▶ 今月のお題
・ ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい
・ ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
・ EO イーオー
・ TAR/ター
・ アルマゲドン・タイム ある日々の肖像
ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい ↗
2023年/日本 4月7日公開
監督:金子由里奈
出演:細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ
男らしさや女らしさといった考え方になじめない七森は京都の大学に進学。同じ新入生の女子大生麦戸と意気投合し「ぬいぐるみサークル」を見学する。そこは生きづらさを抱えた学生たちが悩みをぬいぐるみに話しかける場だった。大前粟生の同名小説を映画化した新世代の青春ドラマ。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★☆☆
昔、自分が大学のクラブに入った時はすぐ飲みに連れていかれ、先輩の下宿で朝を迎えた記憶がある。時代は変わり、このサークルでは他者と距離感を保ち、何かを無理強いするようなことはない。繊細な心を持った人たちの姿と共に、コミュニケーションの一つのあり方を提示している。でも見学の新入生にうまく対応できず、誰かが物を落としても気付かない人たちを「やさしい」と言えるだろうか。そこまで考えさせる優れた題材だ。
まな ★★★☆☆
この映画における「やさしさ」とは何を指すのだろうか。この登場人物たちのような生きづらさを抱える人たちが描かれることは良いことだと思うし、ぬいぐるみに話して楽になるならいくらでも利用したらいいと思う。しかしそれは「やさしい」のだろうか。というよりそれをしない人はやさしくないのだろうかというところに引っかかったのかも。いずれにせよそれを考えるための作品だと思うので、作品の意図にはハマっているのかも。
マリオン ★★★★☆
世界の理不尽さに苦しむ人と飲み込む人が共存する「ぬいサー」という場所は、まるで葛藤する自分の内面のような空間だった。いろんなことに折り合いをつけて生きているけれど、自分という存在が誰かを傷つけていないか考え込んでしまうし、そこはかとなく世界に溶け込めていないような孤独感がいつも拭えない。また、自分のやさしさはただの無関心ではないのかという不安もよく分かる。自分の繊細な部分に響く映画だった。
みえ ★★★☆☆
世の中には日常的にセクハラや痴漢が存在するし、他人に対する心ない言動もある。そんな加害性を受け流せず、矛先を内に向けて自己を傷つける人々を、この作品は可視化する。繊細すぎて他者とうまく向き合えないけど、安心できる関係を求め、同じ空間に集いながらも人と話さず、ぬいぐるみと話をする。それはやさしいのかと問いかけながら、生きづらさの渦中にいる人の救いになりそうに思えるところが良かった。
村山章 ★★☆☆☆
タイトルを額面通りに受け取る必要はないものの、やさしさの映画なのかがわからない。セルフセラピーにぬいぐるみを活用してるのはわかるが、慈しむ素振りを見せつつ一方的に心の澱みをぶつけていて、たまに挿入されるぬいぐるみ視点から随分勝手な連中だなと思ってしまう。所詮は無機物、道具扱いすればいいってお話だっけ? 監督の前作が見えぬものを見る映画だったので、ある種見えないふりをする映画であることは興味深い。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3 ↗
2023年/アメリカ 5月3日公開
監督:ジェームズ・ガン
出演:クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ
MCUの人気シリーズ第3弾。はみ出し者ぞろいのガーディアンズを率いるクイルは、最愛のガモーラを亡くして失意の毎日。そこに謎の敵が襲来し、負傷したロケットに命の危機が迫る。さらに敵の親玉の恐ろしい陰謀が明かされ、彼らのラストバトルが始まる。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★☆☆
好きなバンドのさよならコンサートとしてはエモーショナルだし各メンバーの見せ場があって良かった。ただその中身自体にはあざといと感じてしまうところが多く冷めてる自分もいた。人の生死、動物や子どもの悲惨さで感動を作るのがあまりに多過ぎのように思うし、終盤は取ってつけたように心の中を打ちあける場面が目についた。愛着はできてるので、もう少しクールに、ドラマはアクションの中で自然な感じで見せてほしかった。
まな ★★★☆☆
私はMCUのキャラクター商売にまんまと乗せられている一人なので、なんだかんだ金のかかって豪華な画面でおなじみの面々に会えるだけで嬉しい。しかし今回は観客の感情を操作するように度々挿入される動物虐待エピソードや「これが皆好きなんだよね!」と言わんばかりの大音量のバックトラックに下手さを感じてしまった。"バカ"いじりなど、ジェームズ・ガンの倫理観バランスも今回は調整がうまくいっていなかった。
マリオン ★★★☆☆
観客の感情を巧みに操り、ギリギリ嫌悪感を抱かせないような露悪さも忘れないジェームズ・ガンの凄さを改めて実感する。ただ、悪役の所業をとことん悪辣に見せ、銀河のアウトローたちを神格化していくような描き方にまんまと乗せられていいのかという気持ちも。というかガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの卒業話とロケットの過去話は別々で見たかったかも。でもとても楽しい卒業ライブだったよ、ありがとう!
みえ ★★★★★
はみだし者たちが、それぞれの持ち味を活かして仲間とともに戦うシリーズの第3弾。道中、くだらないことでずっと言い争ってるし、どうしようもない過ちも犯すけど、そのひとつひとつが楽しい。細かなエピソードを重ねながら、すべての個性を肯定するようなところがこのシリーズの素晴らしさよね。そう思いながら観ていたら、やり直す機会は誰にでもあるというメッセージに、監督自身の境遇を重ねてしまって、泣いた。
村山章 ★★★★☆
仲間ひとりのために犠牲にする敵の命の軽さとか、正直気になる部分はあるのだが、シリーズを通じて育ててきたキャラクターたちの旅の終わりに立ち会うのはまんまと感慨深い。とりわけネビュラとマンティスの変化と成長は、そもそもここまで大きく魅力的になるとは思っていなかっただけに嬉しい驚きというほかない。あと地球人とは違う価値観や笑いのツボを、それぞれのキャラが最後まで失わなかったことも本当によかった。
EO イーオー ↗
2022年/ポーランド・イタリア 5月5日公開
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:サンドラ・ジマルスカ、イザベル・ユペール
ポーランドの名匠スコリモフスキ7年ぶりの新作は、1匹のロバのロードムービー。サーカス団で暮らしていた灰色のロバのEOは、ある日を境に孤独な放浪の旅に出ることになる。さまざまな人間と出会い、危険な目にも遭うEO。その愁いを帯びた瞳に映るものは...。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★★☆☆
人間社会の風刺や動物愛護の訴え以上に、研ぎ澄まされた感覚そのものを描きたかったのではないだろうか。狼の死骸からその最後を透視したり、ダムの水の流れを逆に感じ取ったり、通常の感覚を超えるようなところまで連れて行ってくれる。重厚なスコアや多彩な自然音など耳からの刺激も効いた。輪廻を思わせる作品の構造だが、老境にあるスコリモフスキの、生きて身体すべてで感じ取れることよ永遠であれ、といった祈りを感じた。
まな ★★☆☆☆
ロバを中心に据えながら、その周りで巻き起こるドラマはとても人間目線で紡がれた感じが目立ち、もっとロバ目線を予想していたので拍子抜けしてしまった。人間の物語なのにロバを通して見せる形には傲慢さを感じてしまうし、最近流行のロバ映画の中でどれよりロバを映していながら、一番ロバ愛が感じられなかった。肝心の人間ドラマも散漫としていてそんなに面白みは見出せなかった。大女優の無駄遣い。
マリオン ★★★★☆
最近、さまざまな映画で酷い目に遭わされているロバだが、今作が一番辛いかも。搾取する側と搾取される側という揺るがない構造や暴力に巻き込まれるロバの物言わぬ表情が世界の残酷さと諦観を強く訴えかけてくる。そして、繊細な眼差しで世界を見つめてみる試みは、実は「ぬいしゃべ」と似た精神性を持っているような気もした。また、美しくも独特な映像表現やパワフルな劇伴にも驚くばかり。なんだったんだあれは…。
みえ ★★★☆☆
ロバのEOが見る世界を追うだけの映画なのに、飽きずに見入ってしまうのは、すごい。EOの息づかいを、頭の中に響く自分の声を聞くときのような音にすることで、難なくロバ目線に没入させられる。EOが行く先々で関わる人との出来事を描くことで、人間社会が見えてくるところは、ロバ版『フォレスト・ガンプ』みたい。EOと少女の描写は、人間が動物に期待する心の交流を見ているようで、現実感が損なわれて残念だった。
村山章 ★★☆☆☆
もの言わぬ主人公を中心に置き、周囲の事象を浮かび上がらせるアプローチは、監督の前作『エッセンシャル・キリング』にも通じる。が、動物であるロバの感情や思考を映像に落とし込む演出が、どうにも居心地悪い。人間であればまだ想像や理解の余地もあるのだが、志村どうぶつ園ほどじゃないにせよ、描きたい都合のために動物が擬人化されるのが耐えがたい。理解より拒絶で申し訳ないですが、これは個人の倫理の問題なんでね。
TAR/ター ↗
2022年/アメリカ 5月12日公開
監督:トッド・フィールド
出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス
並外れた才能と卓越した支配力で世界最高峰の指揮者の地位にのぼりつめたリディア・ターは、マーラーの交響曲第5番の演奏や新曲の創作に苦しんでいた。そこにある訃報が入り、ターの精神は追い詰められていく。ケイト・ブランシェットが幾多の演技賞を受賞。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★★★
ひとり『羅生門』スタイルのような映画だ。ターの所業は見てる最中はもちろん、2回目に見た時や、触れた解説によっても印象がどんどん変わり、何が真実で何が正しいのかを判断をしようとすればするほど、藪の中に消えていくような感じさえする。実際そうなるよう周到に計算された作りなわけだが、それは人の見る目の不確かさを再認識させ、人間自体が複雑怪奇なミステリーであるということを噛みしめさせる。歯応え十分だ。
まな ★☆☆☆☆
さんざん見てきたような気のする権力ある立場にいる加害者をレズビアンという設定にしたことでたしかに"面白く"はなったのかもしれない。しかし私にとって性暴力や"キャンセルカルチャー"は思考実験の題材ではない。そこから作品と相容れず楽しむことはできなかった。近隣の些細な音が気になりキレておかしくなってしまう場面だけは面白かった。
マリオン ★★★★★
権力の堕落と傲慢さ、正しさだけで語れない複雑さを含んだ寓話は、見る者を答えのない問いかけへと誘う。偉大な指揮者であり、家族を愛する者であり、したたかに権力を振りかざす暴君であるというリディア・ターの多面的な人格をしっかり描きながらも、捉えどころのなさや不安さを忍ばせるトッド・フィールドの手腕が見事だった。そして、寓話をリアルで地続きなものにしてしまうケイト・ブランシェットの存在感よ…凄まじい。
みえ ★★★★☆
指揮者として実力を認められて名声を得て、多忙ながらすべてを手にしているかに見える冒頭。そこから、周囲との関係も本人の精神状態も、どんどん壊れていく。このときの主人公の焦りや恐怖を体感しながら、観ているこちらも精神的に追いつめられていくところが、恐ろしいけど面白い。なんとか自分を保とうと努力するも、徐々に精神が蝕まれていく主人公を、ケイト・ブランシェットが見事に体現していた。
村山章 ★★★★☆
現代社会の地獄を突きつけられてなんと底意地の悪い映画か!と思ったので、監督の「観客に委ねるが希望のあるエンディングのつもり(大意)」発言に驚いた。人の感想も多種多様で「同じ映画観た?」と奇異に思うほど。しかし自分も自身の価値観に合わせて解釈したにすぎず、観る側の内面をあぶり出す鏡みたいな映画だと思う。ぶっちゃけターに肩入れしがちな自分に老害を感じるなど、厄介だけどありがたい実験に参加した気分。
アルマゲドン・タイム ある日々の肖像 ↗
2022年/アメリカ 5月12日公開
監督:ジェームズ・グレイ
出演:アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンス、ジェレミー・ストロング
監督の少年時代の実体験をもとにした自伝的ドラマ。1980年のニューヨーク。ユダヤ系の中流家庭で育った12歳のポールは、問題児の黒人のジョニーと親しくなる。立場の違いを感じつつ交友を続ける2人だったが、ある事件を機に社会の複雑さに呑み込まれていく。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★★☆
ジェームズ・グレイはもともと端正な語り口だが、より感傷的になるのを避け、少年時代の愚かともいえる日々を実直に描くことでアメリカの闇の継承を可視化する。ユダヤ系の出自や黒人の友だちが周囲から受ける態度で社会の不条理を提示し、レーガン政権やトランプ家の台頭を身近なエピソードとして入れ込み、格差や差別の侵食を実感させる。最後、少年が歩む道はまさに今に通じていると分かる。実に巧みなつくりだ。
まな ★☆☆☆☆
ユダヤ人という特殊性があるとはいえ、白人がその特権に気づきました、という話を自分たちも色々大変なことがありました、という話を混ぜながら延々とされても言い訳のようにしか見えず、最初から最後まで居心地が悪かった。白人救世主的だと批判される『グリーンブック』の時と似た気分だ。描くべき物語はもっとほかにあるのではないか。アンソニー・ホプキンスはスター感がありすぎて浮いていた。
マリオン ★★☆☆☆
半自伝的な映画なのだからいくらでも子ども時代を美化できそうなものだが、ジェームズ・グレイは悪ガキだった自分の姿を正直に残そうとしている。不良少年のような悪行ぶりの数々にはドン引きしたものの、人種差別や経済格差によって引き裂かれた黒人少年との苦い友情や不寛容さが加速する80年代アメリカのムードもきちんと描こうとする姿勢にもその正直さが宿っていたと思う。子役2人の演技も見事だった。
みえ ★★★☆☆
アルマゲドン・タイムっていうくらいだから、人生を揺るがす重大な出来事に立ち向かう話だろうかと思っていたら、十代なりに家族や世間と向き合う青春映画だった。学校と家庭が中心の少年が日々を過ごす中で、世間の理不尽さが見えてきたり、親を含めた大人の裏表を知ることになったり。些細なことでも、子供にとってはそれまで生きてきた世界を揺るがす出来事になることがある。そんな瞬間をとらえていて、良かった。
村山章 ★★★★☆
浅はかで甘ったれたしょうもない子供を、こんな退屈な映像で撮る? 最初は理解に苦しんだが、次第にわかってきたのは、監督が自伝的作品を作るにあたって分身である主人公を一切美化しようとしていないこと。この凡庸さを描くのに、面白い映像はそぐわない。そしてしょうもないガキが、世の中や大人たちだって脆弱でしょうもないのだと気づく物語であると気づき、煮えきらないラストを選んだ監督の覚悟に感服しました。
ひとことふたこと


AIとチャットしてると嘘をつかれるし思いどおりにならず、HAL9000と対峙してる気分が味わえる。

「自分の人生を映画化したら使いたい曲」という難題でサントラプレイリストを作る遊びを流行らせました。

大阪コミコンに行き、若干冷めつつあったMCUへの情熱を少しだけ取り戻してきました。溜めてたドラマ、見なくちゃ。

年のせいか頭痛や腰痛が出始めて、映画館で1日に5本、6本と映画を観るのが、つらく感じるようになってきました。

小説すばる6月号に最愛のバンド、リプレイスメンツのことを書いてます。2分で読み終わるんでよろしければ。