キングメーカー 大統領を作った男 ↗
2021年/韓国 8月12日公開
監督:ビョン・ソンヒョン
出演:イ・ソンギュン、ソル・ギョング
独裁政権打倒を目指す政治家と、大義のためなら汚い手も厭わない選挙参謀が手を組み、政権交代にまい進する。韓国の元大統領・金大中と選挙参謀だった厳昌録の実話をベースにした選挙エンタメ。
さとうかずみ(イラスト) ★★★★
Taul ★★★
最後まで面白く見られたが二人の背景や初期衝動がつかめずその関係性に感情的にはのれなかった。『工作』、『KCIA』ときて漢ロマン溢れるものを期待し過ぎたかも。逆に言えば流行りにあわせてこんな描きにくい関係の政治スリラーを良作に仕上げる韓国映画界の実力を再認識。立役者は何よりピョン・ソンヒョン監督。安っぽくなるのを恐れない映像演出を繰り出してきて感心した。大化け作品を作る予感。
まな ★★★
選挙戦に焦点を絞りきった展開は潔いが、それぞれの普段の人柄・信条の背景が見えてこそそうしたものが楽しめる自分には、すべて周知の事実として進む本作に関心を持ち続けるのは厳しかったし、二人の関係性にもピンとこなかった。しかし政治信条だけでなくシステム自体にも疑問や危機感を持たなければ世の中は変わらないのだろう。
マリオン ★★★
韓国映画における男たちの愛憎劇はなぜこうも甘美で切ないのだろうか。同じ大義と理想を追いかけていたはずの男たちがいつしか袂を分つようになる。そしてあり得たかもしれない未来と駆け抜けた過去に思いを馳せずにはいられなくなる。そんな男達に差し込む光と影の演出が印象的だった。また小さな選挙チームが反則スレスレの手法で選挙戦や指名候補争いを勝ち抜く過程も痛快で楽しい。韓国近現代史には詳しくないが問題なく楽しめた。
みえ ★★★
韓国の大統領選挙における実話を基に、政治家が繰り広げる権力抗争の裏で参謀役として活躍した男が、いかに両陣営に働きかけながら選挙戦を操ったのか。そのプロセスがスリリングで、それぞれの利害関係や思惑を追いかけながら、どこに決着するのか見えないところが面白い。ただ、歴史に疎い私には十分に理解が追いつかず、知識があればもっと楽しめただろうなと思った。
村山章 ★★★★
どこまでもギスギスした話になりそうなのに、皮肉なユーモアを織り交ぜた遊び心あふれる語り口がいい。汚泥まみれの選挙戦をゲームのように見せる前半戦と、矛盾だらけの共犯関係が破綻して、哀感がにじむ後半の対比もいい。理念で結びついた男二人の繋がりだけに、ほとんど情が介在しないのも風通しがいい。あと元になった実話を調べてみたら想像以上に本当にあったことばかりでマジでイカれてた。びっくり。
セイント・フランシス ↗
2019年/米 8月19日公開
監督:アレックス・トンプソン
出演:ケリー・オサリヴァン
34歳独身、ふらついた日々を送っているブリジットは、ひと夏だけの短期仕事で6歳の少女フランシスのナニーとして雇われる。SXSWで観客賞と審査員特別賞に輝いたヒューマンドラマ。
さとうかずみ ★★★★
Taul ★★★★
アメリカ映画がまた一歩駒を進めた印象。タブーあるいは特別視されてきた女性の体と心のことを物語の中でごく自然に描く。男性目線としては正直知らなかったようなこともあり、じゃあ自分は、社会はどうあるべきかを考える。主演ケリー・オサリヴァンの普通な感じと何より彼女の脚本がいいのだろう。子供の言動にはやや作劇っぽさを感じたが、その両親の描写まで一人一人にきっちり寄り添った優しさに溢れていた。
まな ★★★★
生理や中絶、それらによる出血を臆せず描写する姿勢は、主人公と同い歳の女性としてとてつもなく心強い。同時に、とっくにそれが普通になっているべきだったのにという思いからそれを過剰に持て囃したくない自分もいる。子どものませた可愛さに大人の作劇を感じてしまったが、オムツを通した女性同士の連帯や交際相手との真摯で時に滑稽なやりとりが素晴らしかった。
マリオン ★★★★★
『カモン カモン』『わたしは最悪。』のような映画だが、これらの映画では描けなかった内面や女性たちのリアルな経験が刻まれている。これまで映画がきちんと描いてこなかった生理や中絶、産後うつ、レズビアンカップルを身近でありふれたものとして描写することで多くの女性たちが日々感じている様々な不安や葛藤をリアルなものにする。自分のことのように不安や葛藤を曝け出し、軽やかに包み込んでくれる素晴らしい作品だった。
みえ ★★★★★
生理、妊娠、出産、中絶といった女性の身体に起こる変化は、ときに本人も無自覚のうちに感情を支配していて、女性の身体のバランスは感情を大きく左右する。そんな身体と心のリンクを明確に見せているところが画期的だった。身体の変化に伴って揺らぐ感情がぶつかり合ったとき、パートナーや友人との関係にどう影響するのか。そこには、どうしようもない身体の都合もあることを見せてくれたことが、素晴らしかった。
村山章 ★★★★★
多くの劇映画が当然のように端折ってきた事象を丹念に映すことで、「半径5m」以上の奥行きやニュアンスが備わった。大筋は市井の人々の等身大の成長譚だが、むしろ本作の真価は、他人に対して感じ悪く振る舞ってしまう瞬間やぎこちない探り合い、いたたまれないまま持続する関係性など、日常にありがちな負の局面をもフラットに肯定していることだと思う。映画における「普通」バイアスを刷新する新基準になりそう。
アキラとあきら ↗
2022年/日本 8月26日公開
監督:三木孝浩
出演:竹内涼真、横浜流星
貧しい苦労人と大企業の御曹司、正反対の境遇で育った2人の若者がメガバンクに同期入社し、ライバル関係から同志の絆で結ばれていく姿を描く。人気作家・池井戸潤の同名小説を映画化。
さとうかずみ ★★★
Taul ★★★
竹内涼真の爽やかな青臭さがピッタリだし横浜流星のニヒルな熱さはさすが。他もタイプキャストのオンパレードでお馴染み池井戸潤の世界を作りあげていて、笑ってしまうほどのドメスティックな安心感。駆け足で引っ掛かりもなく数日経つと忘れてしまうような内容だし、アキラ同士のぶつかり合いをもっと見たかったが、三木孝浩監督が叫び合いや土下座は少な目に見やすくまとめあげた印象が残る。
まな ★
中小零細企業の存続、銀行の人情と合理性、大企業の派閥争い。池井戸潤原作作品はこれらに土下座やとって付けたような教訓、大げさな劇伴を絡めたパターンをいくつも使いまわしているのだろうか。時代遅れな女性描写や保守的な家族観が、「邦画として無難にできている」との評価のもとにスルーされてしまうことが怖い。これをもって今何を問いかけたいのか。主演2人のバランスは心地よかった。
マリオン ★★
境遇も価値観も違う2人の銀行マンとの間に強いロマンスは生じないが、それぞれに課せられた仕事との間には強いロマンスが生じるという奇妙な塩梅に戸惑う。その意味では竹内涼真演じる人情を重んじる銀行マンが確実性を求める社会で自分の矜持を貫く姿は見応えがあった。一方で横浜流星演じるクールな銀行マンのドラマは彼を取り巻く家族の面々も含めてすべてが安っぽい。もう主人公は人情を重んじる銀行マンだけでいい気がした。
みえ ★★★
企業に融資して、経営の雲行きが怪しくなれば非情に切り捨てるのではなく、融資先とともに再建を目指し、家族や従業員の命を守る。そんな理想を抱く銀行員の、まっすぐな熱い思いが気持ちのいい映画だった。理想を追うばかりでは生き残れないと冷静に現実を見つめる銀行員にも相応の事情はあり、皆がひたむき。90年代くらいによくあった気がする爽やかな後味を久しぶりにかみしめて、劇場を後にした。
村山章 ★★★
せっかくアキラ100%が出てるのにショボキャラで残念。『アキラとあきら』だけにアキラには見せ場をあげて欲しい。アキラへの敬意が足りない。とはいえ『TANG』の惨劇後だったので三木監督がちゃんとまとめていてホッとした。ただ、白湯のようにひっかかりのない予定調和ではある。役者では要となる脇役を過不足なくジャストに演じた宇野祥平のプロの仕事に唸る。ほぼ唯一の女性キャラの添え物扱いは残念。
Zola ゾラ ↗
2021年/米 8月26日公開
監督:ジャニクザ・ブラボー
出演:テイラー・ペイジ、ライリー・キーオ
19歳のストリッパーが連投ツイートした体験談を映画化。レストランの客ステファニと意気投合したゾラは「フロリダでダンスで稼ごう」と誘われて快諾するが、それは悪夢のような48時間の始まりだった。
さとうかずみ ★★
Taul ★★★
A24らしい新感覚のビッチなロードムービー。セックスワーカー、ポン引き、ヒモという黄金クソトリオ。その旅への同行という小さい話をジャニクザ・ブラヴォー監督がラップミュージックたっぷりにグルーヴィーに描く。SNSの着信音で遊びながらもベースにはサスペンスが。手軽にシェアできる体験談の信憑性に疑問を投げかけると同時に、非白人女性の発言の信頼性の問題に言及する仕掛けもあって新鋭監督の才能を感じた。
まな ★★
ハッとするようなポップな色合いのショットもゾラの強さも、すべてが胡散臭い話の中に回収されていき何を見せられているんだ感。それで正解なのだろうが、この話は元になったTwitterスレッドの形が一番輝いているのではないかと思わずにいられない。本人発信ならともかくこういった話を消費している感覚が苦手なのかもしれない。訝しいキャラクターを演じさせたらライリー・キーオはピカイチ。
マリオン ★★
フィルムの質感が持つ情緒に本音をぶちまけるネット時代の価値観やSNS的なキラキラ感をデコレーションした作風は独特で新しい。そしてひと夏の青春映画のように普遍的な人間関係のもつれや共依存、人種問題、搾取される女性といったテーマを浮き彫りにしていく。しかし主人公2人の濃密な関係性が破局する過程は淡泊で拍子抜けしてしまう。所詮はTwitterに少し大げさに書き連ねられた出来事の羅列でしかなかった。
みえ ★★
実在のツイートが元になったこの映画、夜のお店にダンスで稼ぎに行くと誘われて行ったのは売春旅行で、とんでもない事態に巻き込まれる。きらめく映像を次々と重ねるように見せながら、そこに映る誰がどこまで本当のことを言っているのか?と疑問に思ってしまうような作りが、真偽定かでないツイートの連投で目まぐるしく盛り上がるTwitterの特性そのもののように思えて、面白かった。
村山章 ★★★★
どこに向かっているのか判然としないまま進む宙ぶらりん感覚がクセになるブラックコメディ。主人公だけはかろうじて地に足がついていて、どんな酷い事態も乾いた目で観察しているので周囲の愚かしさがより際立つ。フロリダという土地柄にはどこか空虚な作り物感があり、このバカバカしい悪夢みたいな物語とも絶妙にマッチ。女性搾取の話だが、こういうタイプのタフな女性たちは映画ではあまりお目にかからず新鮮でした。
NOPE/ノープ ↗
2022年/米 8月26日公開
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー
映画やCM用の馬を飼育する牧場を営むOJは、巨大な飛行物体を目撃。経営難から抜け出すべく妹のエメラルドと衝撃映像の撮影に挑む。ピール監督らしい社会問題を取り入れた異色のスリラー超大作。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★★
ジョーダン・ピールが自身を重ねたジュープ。その彼の吹き飛ばされてしまうあるもの。多くの黒人がいたのに描かれてこなかった白人によるハリウッドエンタメの象徴でありまさに本作のアレ自体のようだ。セットアップの冗長さやアクション演出はイマイチだが、映画を撮ることや見せ物になることへの批評性に目配せしながら大嘘スペクタクルをやりきる。IMAXレーザーGTでのフル画角の多さは忘れがたい映画体験になった。
まな ★★
散りばめられたさまざまなテーマ・視点が物語を追う過程で感覚的に線になってつながらず、どの登場人物も設定の表面だけ見せられているように感じたため「面白さ」に結実することなく終わってしまった。
マリオン ★★★★
珍妙な設定と複雑なテーマを含みつつ『ジョーズ』や『ツイスター』のようなスペクタクル映画を作り上げるジョーダン・ピールの手腕に驚く。かつて見世物として蔑ろにされた存在が見る側になって歴史に逆襲しつつ、見る側と見られる側の関係性にある暴力性やグロテスクな欲望にも切り込む様は圧巻だ。ただM・ナイト・シャマラン好きとしては一抹の寂しさも覚える。「珍妙なのに真面目」と「真面目なのに珍妙」は違うのだ。
みえ ★★★★
見せない不気味さと見せてからの面白さ、逃げる恐怖と立ち向かう覚悟。恐怖映画に期待する要素を全部押さえたうえで、視界を包み込むIMAXの空にうごめく何かを、共に見上げて追いかける臨場感。謎だったものの正体が見えてきてからの行動が、そうなるの!?と思う意外性もあるおかげで、正体が見えてからも面白い。こんな映画が観たかった、と最初から最後まで楽しめた。
村山章 ★★★★★
ホラーやら西部劇やら多彩なジャンルを横断しながら描かれる、名もなき人たちのプライドの復権の物語。同時に映画にまつわる搾取の構造を多層的に暴くなど、喜びと怒り、賞賛と告発が渾然一体となっていてホント一筋縄じゃいかない。そしてどれだけ複雑なテーマも、最高にバカげた絵面で見せてくれることに喝采したい。あと初見で見過ごしていたジュープの愚かなカワイさに二回目で完全にヤラれた。オロカワ。





