2026年3月
映画好きの短評とイラスト
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▶ 今月のお題
・ ウィキッド 永遠の約束
・ 嵐が丘
・ Shiva Baby シヴァ・ベイビー
・ しあわせな選択
ウィキッド 永遠の約束
2025年/アメリカ/137分 3月6日公開
監督:ジョン・M・チュウ
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ
▶ 公式サイト
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大ヒットミュージカルの映画化、第二弾。オズの国の秘密を知り、「悪い魔女」にされたエルファバは、迫害される動物たちのためにひとり闘う。一方、「善い魔女」グリンダは国中の人気を集めていた。ある日「カンザスから来た少女」が、世界の運命を変えていく。さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
キラキラの青春時代は終わり、みんな夢見ていたのとはすこし違う未来を生きている。なにより、きちんと世界を回していると思っていた大人たちがグダグダすぎて、おなじ大人としては若者に心から申し訳なくなる『ウィキッド』後編。とくに空虚なグリンダが懸命に「自分の考えるみんなのための善」をやっていこうとする姿は痛々しくすらある。持てる者と持てない者、それぞれが選び取った道を、責任をもって歩んでいく覚悟の物語。
奥浜レイラ ★★★☆☆
時折早回しで観ている感覚になり、感情の変化のプロセスが追いきれなかったことと、全面に押し出さなくても漂ってくるクィア性に惹かれた前編と比べて異性愛規範的な表現が強まったように感じて少し困惑した。日本での公開が前編から一年空いたことによって作中で起きていることの今日性はむしろ強化され(残念ですが)、不安を煽る言葉が事実よりも拡がりやすく、それを利用する権力者の言葉に扇動される愚民の姿に我々を重ね背筋が冷えた。
Taul ★★☆☆☆
ビートルズは「It’s All Too Much」で、受け取るものが多過ぎると歌ったが、本作は「児童文学を元にした風刺的な小説から生まれた豪華ミュージカルの映画化の後編」ということで、背負わされた役割が多過ぎる。歌と踊りで心情や展開を一気に転換できるミュージカルだが、感情の変化の処理が雑になったし、心理面を掘り下げてきた自然主義的な要素との相性も悪くなった。見どころは多いが、構造的な問題が目立つ後編だった。
マリオン ★★★☆☆
なんか見逃した?と思ってしまうぐらいダイジェストっぽく感じてしまう。前編で匂わされた人間関係のほつれがサラッと描かれ、機微を託されたミュージカルシーンもスルスルと流れていく。エルファバとグリンダの関係性も、強すぎるがゆえにそこまで波風が立たない。ドロドロしたものを見せてくれると期待しすぎてしまったようだ。ただ、主演ふたりのパフォーマンスはやはり素晴らしく、クライマックスではしっかり鳥肌が立った。
村山章 ★★☆☆☆
エルファバとグリンダの物語が軸なのはわかる。が、一方で前作から差別と弾圧とポピュリズムが横行する世界を描いてはいなかったか。抵抗を放棄して逃げようとしていた動物たちも、歪んだ社会構造に加担していた大衆も、最後まで無力で無知で無責任なままというのが本作の皮肉なのだとしたら相当ダークな話ではある。にしてもグリンダに負わせすぎだし本人も背負い過ぎで、結果的に善意の独裁者になります!という怖い話よ。
Wassy ★★★☆☆
四季ファン歴19年目の私。去年「Defying Gravity」で大号泣した時は、「来年の『For Good』はさらに号泣してしまいそう」と本気で身構えていた。(詳細は2025年3月号参照)私にとってWickedと向き合うことは、自分の人生の選択と向き合うための心の筋トレだ。何かを決断し、時に関係を終わらせ、痛みと引き換えに変化を選ぶ時、いつもWickedが鼓舞してくれたから。そして迎えた後編公開初日。「今回も筋肉痛は激ヤバだろうな」と(続く)
嵐が丘
2026年/アメリカ/137分 2月27日公開
監督:エメラルド・フェネル
出演:マーゴット・ロビー、ジェイコブ・エロルディ
▶ 公式サイト
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エミリー・ブロンテの古典的名作を『プロミシング・ヤング・ウーマン』監督×マーゴット・ロビー主演、プロデュースで映画化。イングランド北部の荒野に佇む館「嵐が丘」に暮らす令嬢キャサリンと、引き取られた孤児ヒースクリフの人生を賭した愛憎劇を描く。さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
激重感情むき出しで、周囲の人間をみ~んな巻き添えにして全員の人生をひっかき回して狂わせておいて、けっきょくお互いのことしか眼中にないキャサリンとヒースクリフが織りなす大迷惑ラブロマンス。とにかくジェイコブくんをずぶ濡れにした上でキメ顔をさせたいスタッフがいるんだな、ということと、幼ヒースクリフを演じた「アドレセンス」のオーウェン・クーパーくんはやはりすばらしいな!ということがわかりました。
奥浜レイラ ★★★☆☆
現代的な素材の衣装や、女性器を模したヘアデザイン、マーゴット・ロビーの肌をスキャンした壁紙(!)など特定の時代を再現しない方針ながら、ヨークシャーで撮影するリアリズム。チグハグな掛け算でできた舞台装置から妙なエネルギーが発生し、この新解釈版で強調される「愛情の先の執着は人間をどれだけ変えるのか」というテーマをブースト。原作が多数翻案されこねくり回される中で、こんな表現がひとつあってもいいのかも。
Taul ★★★☆☆
ビートルズは「Why Don’t We Do It in the Road?」で「なんで道路でしちゃいけないの?」と叫んだが、フェネル監督は「なんで古典で妄想したことを映画にしちゃいけないの?」とばかりに、ジェイコブ・エロルディでエロティシズムを強烈に提示する。男性の自分でもIMAXで観たその魅力には惚れ惚れ。女性の欲望や嫉妬が強い翻案で面白い。ただ、他の『嵐が丘』映画より意外と心に残らず、刺激は喉元過ぎれば消えやすいことも実感。
マリオン ★★★★☆
愛が深すぎる。相手を傷つけてしまうほどに。はたから見れば滑稽ですらあるのだが、ふたりはずっと情熱の渦中にいる。運命の人に愛されたいし、愛したい。ただそれだけの理由で、周囲の人間を巻き込んで破滅に向かっていく。なんて身勝手で情熱的なのだろうか。愛ゆえに愚かなことをしでかしてしまう人間の可笑しさがたくさん詰まっていて最高だった。あと、ジェイコブ・エロルディの色気が天元突破していて、男ながら惚れ惚れ。
村山章 ★★☆☆☆
監督が子供の頃に読んだ原作本の挿絵に似ていたエロルディをヒースクリフ役に起用するなど、ご自身の原体験に寄せた映画化。子役時代は原作にも通じる荒々しさをさらに増幅していて愉快だし、マンガみたいな屋敷の造形にも笑ってしまったが、愛欲編の後半はエロ押しすぎるエロルディに悪酔い。だいたい同じ決め顔で何度も何度もこっちを見てくるんですもの。エドガーがチョイキモなりにいい人で『嵐が丘』で初めて同情しちった。
Wassy ★★☆☆☆
ブルガリアンスクワット前の覚悟でスクリーンに挑んだ。それなのに……、一滴の涙も出なかった。「え?私泣けないの?」自分でも少し戸惑った。「For Good」を聴いたら、決別した人たちや過去の自分を思い出すと思っていた。でも違った。なるほど、私の心の筋肉は想像以上に肥大化していたらしい。“I do believe I have been changed for the better.”と自分に言い聞かせてきたお陰で、過去との対峙に筋肉痛を伴わなくなっていた。(続く)
Shiva Baby シヴァ・ベイビー
2020年/アメリカ、カナダ/78分 2月27日公開
監督:エマ・セリグマン
出演:レイチェル・セノット、モリー・ゴードン
▶ 公式サイト
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大学卒業を間近に控えたダニエルは、母親に強く言われてよく知らない親族のシヴァ(ユダヤ教の葬式)に参列する。故人宅では、同い年で華々しい進路が決定している元カノのマヤと冴えないダニエルとを無遠慮に比較したり、あれこれ口を出す親類が待ち受けていた。さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
日本の若い女性が久しぶりに帰る地元の正月=今作のシヴァ。矢継ぎ早に交わされる会話で即座に思い出したのは、田舎の親類のこと。人情に厚いとか、世話焼きと言えば聞こえがいいけど、とにかく不躾にこちらに踏み込んでくるのが完璧に同じで、フラッシュバックで一瞬気が遠くなるほど。痩せたんじゃない?ごはん食べてるの?仕事なにやってるの?いつ結婚するの?子どもはまだ?……言語や宗教が違っても変わらぬ地獄が広がっていた。
奥浜レイラ ★★★★☆
親族が集う地獄の法事が舞台のコメディとして出発してどんどんビターな味わいが増していくのは、本作が若年女性の自尊感情について実体験に基づき描かれるから。行為の対価がシュガーダディに決められることや、母に問う「自分は出来損ないか」というセリフから見えてくる、他者に自分の評価を委ねてその価値基準の中で生きる主人公の磨耗する自尊心。終盤、赤子=命の重さを抱かせるシュガーダディ妻の行動の捉え方で深みが増すのも見事。
Taul ★★★☆☆
ビートルズの「Baby’s in Black」の喪服の彼女は悲しんでるが、こちらの彼女は居心地の悪さでいっぱいだ。これまで観たパーティーものの中でも屈指のキツさ。女性、若者、社会人、家族として生きていく上でのアイデンティティを、チクチク刺してくる言葉と態度のオンパレード。展開にもうひと捻り欲しかったが、停滞感は意図的だろう。息苦しくも同乗するしかない最後の車内を観て、「世界ってこんな感じだよな」と妙に納得した。
マリオン ★★☆☆☆
ユダヤ人ではないけど、この居心地の悪さは知っている。親戚の集まりで交わされるお節介や世間話に、うんざりしたことを思い出す。しかも、コミュニティ全体で馴れ馴れしく接してくるのにもイライラ。頼むからほっといてくれよという気持ちである。でも、面倒くさい部分も含めて、人間関係って切っても切れないものだということを描き切っていて見事だと思う。上映時間は78分だが、体感は3時間。早く帰りたくて仕方がなかった。
村山章 ★★★★☆
家族や親族づきあいの地獄な面を詰め込み、国や文化が違ってもわかりみが深いブラックサイコスリラーコメディ。すべての人に良いところあれば悪いところもあるが、害悪な部分は本当にタチが悪くて良い部分で相殺されたりはしない。たぶん真摯に話したとしても人は学んで見違えるように成長したりもしないし、地獄は地獄のまま永遠に続いていくのでしょう。と、そんな中でもちょっとはいいこともあるよねという塩梅がとても良い。
Wassy ★★★☆☆
そして気が付けば、私は自分の人生にYesと言えるところまで来ていた。一方で、今回初めて物語の裏側で取り返しのつかない変化を背負わされた者たちに目が向いた。これまで自分の人生に必死で、そこまで見えていなかったことが恥ずかしくなった。「悲劇のヒロインぶってんじゃねーよ」と内省した。エゴや執着に振り回され、他者を傷つける選択をしてしまうのは何故だろう。私もまた巻き込まれる側でありながら、(続く)
しあわせな選択
2025年/韓国/139分/PG-12 3月6日公開
監督:パク・チャヌク
出演:イ・ビョンホン、ソン・イェジン
▶ 公式サイト
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大きな家を持ち、美しい妻と子どもたちと暮らすマンスは、ある日突然、25年間勤務した製紙会社を解雇される。再就職もうまくいかず、すべてを失いそうになった時、マンスが思いついた秘策とは……⁉ 韓国の名匠パク・チャヌクとイ・ビョンホンがタッグを組む。さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
予告を観て「たくさん血が流れるだろうし、こっぴどいことが起こるに違いない!」とわくわくして行ったホラー好きのお顔がちょっと曇るくらいには、残酷描写は少なめ。マンスが真剣になればなるほど空回りして滑稽になっていくんだけど、これを楽しもうにも、現実世界の方が圧倒的にしんどくなってきちゃったな、とメタ視点でしょんぼり。タイトルは原題の「No Other Choice」のほうがしっくりくるんじゃないかなあ。
奥浜レイラ ★★☆☆☆
製紙会社がアメリカの企業に買収され、解雇された主人公マンスに幹部が放った「No Other Choice」という言葉が家長にかかるプレッシャーとともに発酵、最終的にはライバルを消すため自分を突き動かすワードになる。ターゲットの男たちは三者三様の曲者ではあるが、マンスが彼自身を殺している行為にも見えて滑稽さに笑いながら切なさも漂った。資本主義社会の中で追い詰められ闘争させられる人間を観察するのは疲れる。
Taul ★★★☆☆
ビートルズの「Paperback Writer」は仕事が欲しいと猛烈に訴えるが、本作の紙の業界に生きる男は仕事欲しさに殺人まで犯す。家父長制に縛られ、殺しさえ真面目に頑張るお父さん。スラップスティックな描写で滑稽だが、行きつく先は、この手の人材は飾りにすぎないAI社会だ。ブラックな人間賛歌になったわけだが、妙にリアルで苦笑するしかなかった。さすがパク・チャヌクだが、全体に冗長で、いささか技巧が勝ちすぎたきらいがある。
マリオン ★★★★☆
失業したから、再就職が上手くいかないから、家族を守らないといけないから、邪魔者は殺すしかない。こんな極端なことはしないと思っているけど、自分と似たライバルたちを消すことで、社会の歯車に組み込まれていく様は他人事じゃない。だって僕も競争社会の一員なのだから。いつか淘汰される未来に怯えながら生きねばならないのか。暗い気持ちになるけど、パク・チャヌクの巧みなコメディ演出には大いに笑わせてもらった。
村山章 ★★☆☆☆
悪乗りコントを次々と思いついて演出している監督も、ダサい中年のドタバタを熱演するイ・ビョンホンも実に楽しそうで、さりとて観ている側が同じように楽しいわけではないのが映画の難しさ。最後に主人公が途方に暮れるのではなく、全力で満足気なのはこの映画の皮肉な視点を象徴していて、それくらい今の世の中は自分のことで手一杯だというのはわかる。ですけども、やはりわかるからって面白がれるわけでもないのですよね。
Wassy ★★☆☆☆
誰かを巻き込む側でもあったのかもしれない。それすら「For Good」と押し切ろうとするのが人間の性だとしたら、それはただの傲慢なのではないか。物語の見え方が変わったことに少し寂しさもあるけれど、これもまた自分の心に増えた年輪なのだろう。これからは、自分が誰の人生にどんな変化を残してきたのか、その責任の取り方を考えながらこの物語を観返したい。今、世界で起きている様々な出来事を想像しながら。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』、原作もおもしろかったけど映画もよかった、最高!最高!最高! 人生で初めてゴズリンをいいと思った。
珍しく告知! 4月6日は矢田部吉彦さんの番組『シネマ・ラタトゥイユ』の公開収録に、11日はジャガモンド斉藤さんの映画イベントに参加します。きっと楽しいはず。来てね!

公開中の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はビートルズを絡めていますが、私のレビューもビートルズを絡めています♪
※今月の曲のプレイリストへのリンクはこちら↓
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を観た、表明。グレースとロッキーの絆、よい、よい。宇宙船のレゴが発売されている、欲しい、欲しい、欲しい!
次号は村山はお休みです。自分が配給宣伝の中の人をやってるハル・ハートリー特集でして、関係者が採点するわけにはいかず。みなさんの正直レビュー楽しみにしてます!
去年宣言させて頂いた通りポールダンスをしています! 不本意に姿形を変えられて犠牲になっても、自分なりの善行を捨てないチステリーに扮して「For Good」を舞います。
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号は11年ぶりの新作『トゥ・ランド』が公開される「NYインディーズの名匠ハル・ハートリー特集」です。過去作にも遡り、レビュー作品のすべてがハートリーの監督作になりますよ!


















