2026年1月
映画好きの短評とイラスト
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▶ 今月のお題
・ みんな、おしゃべり!
・ エディントンへようこそ
・ THE END(ジ・エンド)
・ プラハの春 不屈のラジオ報道
みんな、おしゃべり!
2025年/日本/143分 11月29日公開
監督:河合健
出演:長澤樹、毛塚和義、福田凰希
▶ 公式サイト
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ろう者の父が電器店を営む古賀家と、近所に越してきたクルド人一家が、些細なすれ違いから対立し、街を巻き込む大騒動へと発展していく。言語の違いによるコミュニケーションの問題と、その壁を越えていく様子をユーモラスに描く。さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
今月は待ちに待った『エディントンへようこそ』について800字で書きますよ! 今までひとりの人間の過去や内面を抉り取り、血がにじむ傷口に狂気をまぶしてラッピングした映画を作ってきたアリ・アスターが、現代社会を描いている。個人的には、今までみたいに変で恐ろしくて嫌な作品をのびのび作り続けていてほしかったのに、まさに現実こそが恐ろしい世界なのだと改めて示されてしまったようで気が滅入る。ああ、今日も世界がしんどい。(続く)
奥浜レイラ ★★★★★
どこでどうしたという詳細は省くけれど、昨年の後半は『みんな、おしゃべり!』について話す機会が多かった。そのわりに語りきれていない要素もあるので、まとめとしてここに書いておきたい。本作では日本手話、クルド語、日本語、中国語他さまざまな言語を扱っている。まず日本手話について、“日本語をそのまま手ぶりに置き換えたもの”という誤解がまだあり「日本語とは文法も違うし、表情や口の形が言葉になったり、手の強弱やスピードにも(続く)
カスミ ★★★★★
急なSFが全て最後に繋がるとは。私にとって耳が聞こえないことは想像もできないことだけれども、みんなみんなのことなんかわからなくて、みんな相手は宇宙人なのかもしれない。同じ人はいないし、考えていることなんて同じ言語を話しても理解し難い。それを痛感した。『手話という言語』。全ては言語のカテゴリーであるのかもしれない。それぞれが過ごしやすい世界にするためには『言語』を介して話していくことが大切なんだよね。
Taul ★★★★☆
言語とコミュニケーションの問題を、こんなに面白く、かつ多角的に提示してくれるとは。少年が生み出したもので、言語の自由さや可能性までも問いかける。そういえば自分も子どもの頃、言語もどきを作って友だちに配ってた(笑)。人類の言葉を分けた神に対抗できるのは、知見やテクノロジーの力もあるが、まずはハートと実行力ではないか。ビートルズは「All Together Now」の映像で歌詞を多言語で表示していて、なかなか凄い。
マリオン ★★★★☆
鑑賞中、ずっと「その視点、抜けてたわ……」の連続だった。通訳のやり方が違うと途端に噛み合わなくなること。言語がアイデンティティと強く結びついていること。同じ文化でもグラデーションがあること。真の対話は助け合いから生まれるということ。忙しい毎日を過ごしていると、ついつい世界の複雑さを忘れてしまうからこそ、今作の豊かさを心にとめておきたいと思った。ラストの飛躍も素晴らしく、今後も観返していきたい一本。
村山章 ★★★★☆
★4つか5つかで迷ってしまういい映画や面白い映画のことは皆さんにお任せして今回は困った映画の話をしたい。『アクト・オブ・キリング』という大量虐殺事件の加害者に密着したおっそろしいドキュメンタリーで知られるジョシュア・オッペンハイマーが初の劇映画を撮った。しかも世界滅亡ミュージカルってそりゃ気になるよ! と、勇んで観てみてマジでアタマを抱えた。淡々と静かに進むから眠気を誘うというだけでなく(続く)
エディントンへようこそ
2025年/アメリカ/148分/PG12 12月12日公開
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル
▶ 公式サイト
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2020年、コロナ禍で分断が深まる米ニューメキシコ州の小さな町エディントン。保安官ジョーは市長との対立から選挙戦に身を投じるが、SNSを通して憎悪と疑念の炎が燃え広がり、町は破滅へと突き進んでいく。アリ・アスターが描き出す“炎上スリラー”。さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★★★
↘もちろん、今作もこれまでと同様、充分ヘンテコだし、嫌な空気は健在だ。ただし、今まで「遠い国の、誰かに似ている登場人物」に向いていた出来事や空気は、今作で「世界に生きるすべての人間」に向かってくる。性別や人種や国を超え、文字通り地球上に生きる全人類の共通体験となったあのパンデミックがあったからこそ、エディントンという架空の街のできごとが、すごく身近なこととして迫ってくる。ホラ、いたでしょ、ああいう人たち。(続く)
奥浜レイラ ★★★☆☆
↘意味がある」という話がなかなか伝わらないこともある。“ほぼ日本語”だと思われているからこそ手話通訳の必要性が社会で認知されづらい。ろう者の中には「第一言語が日本手話で、第二が日本語」と話す方もいるくらい言語としては別のもので、使う言葉が違えばコミュニティが変わる、つまり文化やルールに差異が出るのは他国の言語でも同じはず。本作の美点は絶滅の危機にある言語を中心におき、「障害」の枠で困難を語るのではなく、(続く)
カスミ ★★★☆☆
私は何を見ているのか。あの男の妄想なのか、現実に起こっていることなのか。私絶対エディントン行きたくない!でも釘付けで目を離せなかった。私はきっといつまで経っても夢の中にいる。アリ・アスター監督の作品は観てきたが、これまでで一番理解し難い。ただ、楽しく観ることができた作品である。何が起こるかわからないんだもの。スーパーのこと、キャンピングカー男に寝取られること。最後の銃撃戦。まさにこの映画はコロナ禍の頭の中の混乱だ。
Taul ★★★☆☆
アリ・アスター作品の中で一番嫌な気持ちになった。コロナ禍での自分たちを見てるようで笑えないし、感情移入できるキャラクターもいない。現実を箱庭の中でシニカルに描くエンタメは「もういいや」という気分になった。逆に言うと、そう思わせる作品の力があるし、彼にこんな話を描かせる現実のほうが悪いのは明らかだが。ビートルズで似た曲がある。「Rocky Raccoon」は、西部の愚かな男たちの撃ち合いと、宗教にすがる話だった。
マリオン ★★★★☆
あらゆるものに恐怖を見いだす心配性なアリ・アスターらしいパラノイア的な現代の寓話。アメリカの片田舎町で起こった大騒動はコロナ禍という時代の混迷ぶりと、憎悪や分断を煽る掃き溜めのようなインターネット空間を嫌というほど思い出させる。SNSの極端なアルゴリズムはすべての登場人物を等しく愚かな選択へと導いていく。見たくないものは見ない。その結果、世界はまた悪い方向へと傾く。これ、どうしたらいいのよ……。
村山章 ★★★★☆
↘かなり注意深く観ていないと、そして監督が長年、現実の虐殺事件に取り組んできた人という前提を持っていないと、これが「社会的強者として他人を搾取してきた加害者側」の物語ということがなかなか飲み込みづらい。そしてそこに気づけたところで興味は増しても面白くはならんのですよ。さらに監督インタビューを読んでみると、映画のコンセプトについてかなりツッコんだ話をしていて、この映画のミュージカル要素は(続く)
THE END(ジ・エンド)
2024年/デンマーク、ドイツ、アイルランド、イタリア、イギリス、スウェーデン、アメリカ/148分 12月12日公開
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:ティルダ・スウィントン、ジョージ・マッケイ
▶ 公式サイト
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環境破壊により人類が地上に住めなくなって25年。地下シェルターに逃れた裕福な一家は、独自のルーティンを守り暮らしていたが、外界から来た少女の出現で均衡が崩れ始める。壊れゆく家族が過去と真実に向き合う終末ミュージカル。さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
↘ジョーとテッドも、もしコロナ禍でなければ、お互い内心気に食わない思いをうまく隠して、挨拶を交わすくらいの間柄で一生を終えただろう。不透明な未来と得体のしれない病気への不安は、相手へのマイナス感情を押し隠す余裕すら削っていく。さらに、検索しまくり、自分が都合よく作り上げたアルゴリズムで、漠然とした攻撃的な考えを強化していく。やがて歯車は狂いだし、ののしり合い、殴り合い、ついには血が流れる。(続く)
奥浜レイラ ★★☆☆☆
↘コミュニケーションの問題としてコメディに仕上げたところ。それを当事者のキャスト、スタッフを起用し徹底して練り上げた。完全に当事者ではないCODAの監督だからこそ踏み込んで描けたシーンもあるだろう。現在の日本映画の中でも特に高い志で作られ、多層的に重なるテーマの強度もあった上で、ハラハラしたり笑ったり純粋に物語に没頭できる。軽やかに見えるがすごいことをやっている。夏海とヒワが家出をして家族の通訳という(続く)
カスミ ★☆☆☆☆
終始わからず、この世界にも絶対に行きたくないと思い続けた家だった。ただ、ライティングがすごく好きだ。絵画の部屋が時々おかしくなる。みんな倒れこんで、映画のセットのようになる。それをほとんどあの一部屋でおさめているライティング技術に頭が上がらない。私は最近ルーティーンを大切にしすぎていた。しかし突然の来客、出来事が起きると、一気に日常が崩れる。それは良いことなのかどうなのかは自分自身の心持ちがきめることなのだろうか。
Taul ★★☆☆☆
ジョシュア・オッペンハイマー監督の過去作も観てみたが、『アクト・オブ・キリング』と同じだと思った。残酷な行いをしてきた者たちが、自分たちを正当化する芝居を喜々として続ける。自己満足な伝記を作る姿がおぞましい。自分語りしかしないエゴを歌ったビートルズの「I Me Mine」のようだ。監督の頭の中では世界観と細かな意図が完成しているのだろうが、内容がその方法論に偏り過ぎていて、映画としての面白さには直結しない。
マリオン ★☆☆☆☆
崩壊した世界でも何不自由なく幸せそうに暮らす家族。しかし、彼らは自分たちの理想のために一体どれほどの嘘をつき、多くの犠牲を払ったのだろうか。見知らぬ少女の登場をきっかけに、蓋をしていた悔恨が歌となって溢れだす。ぬるま湯のような地獄はこれからも続くのだろう。ただ、残念ながら終末世界を生き残った金持ち家族の憂いとやらを気にする暇は僕にはないので、どうぞ勝手にやってくださいなという気持ちで観終わった。
村山章 ★★☆☆☆
↘ミュージカルというジャンルが持つ現実逃避の効能を皮肉として使っていて、とにかく登場人物たちは現実を抱えきれなくなったら歌い出すんだと。自分にも他人にもウソをつきたくなったときに、現実を捻じ曲げた絵空事を歌い出す映画なんですと。そんなミュージカル面白いに決まってるでしょうと思うんだが、正直に言ってそうならないのは映像がコンセプトに負けてしまってるからだと思うわけです。極論、元振付師でもある(続く)
プラハの春 不屈のラジオ報道
2024年/チェコ、スロバキア/131分/PG12 12月12日公開
監督:イジー・マードル
出演:ヴォイチェフ・ヴォドホツキー、スタニスラフ・マイエル
▶ 公式サイト
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1968年、「プラハの春」と呼ばれる民主化の機運が高まったチェコスロバキアにソ連軍が侵攻。制圧されたラジオ局の局員たちは、検閲と戦車に抗い真実を伝え続ける。自由と言論を守ろうとした人々の実話をもとにした歴史ドラマ。さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★☆☆
↘P.T.Aの『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、分断された世の中でも懸命に手を伸ばして言葉をつなぎ、わかり合おうとする人間を描いていて、そこには次世代への希望や未来があった。ここエディントンでは、過剰な情報と感情で分かたれた人間が、あふれ出る言葉で相手を論破し、勝手に補完して捻じ曲げてでも「自分に都合がいい物語」に集約したがる。どちらがよりリアルかっていえば、そりゃあ、ねえ……。ああ、世界がしんどい。
奥浜レイラ ★★★★☆
↘役割から解放され、デタラメ語で会話をするシーンで思い出したことがある。ミックスルーツで顔の作りが日本的ではない我が家は、外食をするとしばしば別のテーブルで話題にされることがあった(30年前ですしね)。そんな時は父がデタラメに喋り出し、場を撹乱し我々に勝手に貼られたラベルを剥がそうとした。本作での彼らの行動はいろいろな解釈ができるけれど、2人だけのコミュニケーションで背負ったものを下ろせた時間がとても眩しかった。
カスミ ★★★★☆
全身全霊で自分の持ち場を守る。その姿がかっこよかった。私も仕事の中で命をかけて守りたいものがある。自分と引き換えに守りたいものがある。それは仕事だからではなく、誇りをもちそれらを心から守りたいからだ。その思いは強くもっていいんだとこの映画は教えてくれた。仕事よりもプライベートを充実させる昨今であるが、これだけ心から仕事を愛し、命と引き換えに成し遂げる正義感。私も見習いたい映画だった。今年イチのお仕事映画である。
Taul ★★★☆☆
当時、ビートルズの「Hey Jude」はチェコスロバキアの歌姫にカバーされ、同国で自由へのアンセムとなった話は知っていた。自由を求める市民にとって、報道と音楽を担うラジオという存在がどれほど重要だったかを、本作で強く実感できた。大国の侵攻が今も続く現代では、それらの役割を担っているメディアや文化は何だろうか。SNSや動画が浮かぶが、流言飛語も多くて複雑な気持ちになる。恋愛要素で物語が散漫になったのは惜しい。
マリオン ★★★★☆
真実を伝えること。それがどんなに難しいかをこの映画は教えてくれる。権力側は検閲や武力行使などあらゆる手段で言論の自由を押さえつけていく。それでもラジオ局の記者たちは最後までマイクの前に立ち、自分たちの言葉で語りかける。今作で描かれた政治の腐敗や大国の身勝手な侵略行為は昨今の荒んだ世界情勢ともリンクしているなと感じたし、最前線に立つジャーナリストたちへの勇気に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
村山章 ★★★★☆
↘『シカゴ』のロブ・マーシャル監督みたいな人が撮っていたら、というかミュージカルシーンをその道の達人がサポートしていたら、厳しい現実と空虚な逃避の対比がより際立って映像的にもとても盛り上がったのではないか。つまりは劇映画の経験の浅い監督がこだわりを貫いたとっても惜しい映画で、興味深い実験に果敢に挑んでいることは間違いなくて、知的な刺激も与えてくれるので全否定はしづらいんですよ、つまんねえのに!

TIFFの舞台挨拶でアリ・アスターがニコニコしながら「これは片田舎にデータセンターができる話です」と言ってたけど、おっかない人だなほんと。好きェ
『みんな、おしゃべり!』については、10月28日のTBSラジオ「アフター6ジャンクション2」で1時間弱の特集をしたので、よかったらPodcastでお聴きください〜
ジムに行ったり、新しいチャレンジをたくさん始める一年にしたいです! 自分磨きをして、たくさん映画を観て、レビューやポッドキャスト頑張りたいですー!

ビートルズに絡めた映画レビューを続けて2年と4ヶ月。2026年もこのヘンテコなことを続けていこうと思います。 ※今月の曲のプレイリストへのリンクはこちら↓
帰省中はゆっくり休むぞ!と意気込んだのに、連休最終日に寝違えてしまい、テンションだだ下がりのまま仕事初めを迎えました。
さるハゲロックフェスにウィリアム・H・メイシーズで出演して、ブルース・スプリングスティーンのモノマネに挑んだ自分のことは出来はともかく褒めてあげたい。勇気あるよ。
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