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▶ 今月のお題
・ Flow
・ ミッキー17
・ BETTER MAN/ベター・マン
・ 片思い世界
Flow
2024年/ラトビア・ベルギー・フランス/85分 3月14日公開
監督:ギンツ・ジルバロディス
脚本:ギンツ・ジルバロディス、マティス・カジャ
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洪水が起こりすべてが水に呑まれる世界で、一匹の黒猫が住み慣れた家を後にする。水没から逃れるため乗り込んだ一隻のボートには、ほかの動物たちも乗り合わせ……。大災害の中で動物たちが種を超えて協働し、奮闘する姿を描く。第97回アカデミー長編アニメーション受賞作品。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
水の質感や、光と影。猫をはじめとする動物たちの「あるある~」な動きや、駆けまわる姿を臨場感たっぷりにとらえるのは、たしかにアニメーションでなければ描けない映像かもしれないけど、それだけでしかない。中途半端に擬人化された表情をする動物たちにも、深みのない物語にも、人間の一方的な「こうあれば好ましい」という思想を感じてしまい、魅力を感じられず。美しい映像を楽しむだけなら15分の短編で良くない?
Taul ★★★★☆
ビートルズの「Across the Universe」では「Words are flowing out...」と歌われ、言葉が流れ出て宇宙の彼方へと広がっていく。本作も似た感覚があり、生き物たちが流れるようにアニメーションの無限の地へ進んでいく。その説明や台詞のない自由に陶酔できる描写に、いつしか自分の冒険の日々を思い出し、転校した校庭での出会いや、学生時代の無謀な旅を重ね合わせていた。人生の細やかな再発見を促す映像の旅、心地よかった。
マリオン ★★★★★
孤独な黒猫、世界の広さを知る。自然はあまりにも巨大で、恵みをもたらしたかと思えば容赦なく命を奪っていく。そして、異なる種族との軋轢や連帯を通じ、自分はひとりではないと気付かされる。言葉のない豊かな表現で紡がれる、諸行無常の世界と多様性の営みに、感動を覚えずにはいられなかった。凝った世界観で魅せるタイプのインディー系ゲームを連想させるが、スパイダーバース以降の潮流も汲んでいて現代的な作品だと思う。
村山章 ★★☆☆☆
手持ち風カメラが縦横無尽に動きまくるゲームライクな映像は臨場感を出す狙いだそうだが、撮影している仮想スタッフの存在を意識してしまってノイズに感じるのは、カメラが誰の視点かを気にしてしまう古い人間だから?動物は擬人化してない体なのに、舵を操り「大きなカブ」並に協力し合う動物たちのリアリティラインがつかめず戸惑う。あとこの作品に限らずだがジブリ関連作の剽窃をオマージュと呼ぶのはもう禁止に(以下略)
室千草 ★★★☆☆
人間が残した遺物世界に、動物が生きる世界。その後誰の視点なのか迷走していくカメラワーク(Blender特有のカメラワークなのだろうか?)に困惑してしまうが、時折現われる鯨と鳥に心奪われる。ペットとして飼われていた野性を知らないであろう動物達と、野性の動物が入り乱れて冒険していく様は小気味良いのだが、擬人化して欲しくないところで擬人化してしまい興醒め。一貫していないキャラクターにザワザワする。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Go with the Flow 現代は言葉の洪水。特に偽善や偏見の言葉を目にすることが多い。近年の映画の脚本も「大事なメッセージを伝えなきゃ」という主張が強い……。「押し付けないで」とよく思う。その傍ら「Flow」はまさに身を流れに任せて、背景を自分で解釈できる美しい冒険。映像で物語が紡がれる。それが本来、映像作品の役割かもしれない。マイナスイオンを浴びたかのように気持ちが洗われた。
ミッキー17
2025年/アメリカ/137分 3月28日公開
監督:ポン・ジュノ
出演:ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー
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人生失敗だらけのミッキーは、何度でも生まれ変われるという新しい仕事に就く。しかし、その内容は肉体を使い捨てられては新たなコピーを生み出す、過酷なものだった。さらに手違いによりコピーと同時に存在してしまい、事態は急展開する。『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督最新作。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
な、何を言ってるかわからねーと思うが、ポン・ジュノ作品を観に行ったはずなのに、某ジブリ映画を観た気持ちになって帰ってきた……と、いにしえのネットスラングが飛び出るくらいにクライマックスがジブリ。パティンソンは尻も丸出しにして、文字通り身体を張ってがんばっていたけど、ほかに特筆すべきところはなく……大事なことは全部セリフで説明してくれるから、居眠り厳禁だゾ! ト二・コレットが今回も最高なので★+1。
Taul ★★☆☆☆
監督は青春映画だと述べてるが、確かにそうかも。試練に満ちたSF青春もの『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』と、雪山の巣、鉱炉落ち、飛ぶ手首と、よく似ていて、ミッキーの空回り人生が切ない。ビートルズの曲なら「僕は何をやってもダメな奴」と歌う「I'm A Loser」の気分。でも、驚くほど冗長な割に、他人の言葉で喋ってるような上滑りが続くし、世情を模した批評もありきたりだ。ポン・ジュノは自国の身近な題材のほうが良いのだろう。
マリオン ★★☆☆☆
資本主義や植民地主義に対してエグい皮肉をかましてくれるかと思いきや、全然踏み込んでくれない。なんなら現実の方がもっとヤバいことになってるから完全に負けちゃってる。ポン・ジュノってハリウッドで撮ると案外普通に落ち着いちゃうのよね……。ただ、ミッキーが自分の意志を持つようになっていく物語自体は好き。周りに流されてなりたくもない存在に貶められてしまわないように、自分の軸はしっかり持とうと改めて思った。
村山章 ★★☆☆☆
権力者も被支配者も人間なんてすべからく愚かですよねという描写を詰め込んだ、皮肉とユーモアの薄さに驚く。薄っぺらさを薄っぺらく描くことが批評として機能した時代もあったし、やり方次第では今も有効かもしれないとは思うが、愚かであることの弊害が想像もしなかった次元に突入してしまった現実が眼の前にある以上、このレベルのブラックコメディは無邪気にしか思えない。あとこの作品に限らずだがジブリ関連作の(以下略)
室千草 ★★☆☆☆
ロバート・パティンソンの口半開きアホキャラ、マーク・ラファロの口演技(キモい最高!あの大統領よな?)と、トニ・コレットの顔の恐ろしさに歓喜するも、設定に既視感が漂っていて、眠い。ってか寝た。「死」「複製」「個性」を軽快に展開し、恋人と2人のミッキーの三角関係に面白さを感じたものの、尻つぼみで残念。鑑賞後のトイレに向かうお客さん同士が「王蟲やったよな?」と確認し合うのを見て、「よな」と1人呟く。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Taking the Mickey この映画のどこかにとても良いSF作品が潜んでいる。ロバート・パティンソンの演技が良い、クリーパーたちは可愛い。人間を複製する技術も興味深いので、そのモラル・ジレンマにもっと焦点を当てて欲しかった。残念なことに全体が資本主義を批判する過剰なパロディになっちまった。ニュアンスの一欠片もない茶番劇にも見えた。悪役をトニ・コレットだけにすればまだ良かったかもしれない。もったいない。
BETTER MAN/ベター・マン
2024年/アメリカ/137分 PG12 3月28日公開
監督:マイケル・グレイシー
出演:ロビー・ウィリアムス、スティーブ・ペンバートン、アリソン・ステッドマン
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90年代初頭、ポップグループ“テイク・ザット”の一員としてデビューし、脱退後、ソロでも世界的人気を博した英国人アーティスト、ロビー・ウィリアムスの半生を『グレイテスト・ショーマン』の監督が映画化したミュージカル。ひとりのスターの栄光と絶望と破滅、そして再生の物語。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
英国の音楽チャートを紹介する「ビートUK」という深夜番組を見ていた90年代、ずっとトップに君臨してたあの人が猿ってだけで大優勝。当時のブリットポップの狂騒とファンの熱狂がリアルに描かれていて、懐かしさに半泣き&例の兄弟の出演に爆笑。よくあるスター人生譚ではあるけど、深層に横たわるのはひたすら父に認められたい息子の渇望の話であり、どれだけ愛を注いでも気づかれない祖母や母、恋人ら女性たちが不憫すぎた。
Taul ★★★★☆
ビートルズの被害妄想的なドラッグソング「Everybody's Got Something to Hide Except Me and My Monkey」の影響を感じるロビー・ウィリアムスの「Me and My Monkey」では、すでに猿がオルターエゴとして歌われている。そんな背景もあり彼を猿で表現したわけだが、抽象度が上がり、心象風景で暴れる自意識過剰なエンタメに合っててノレた。感動のショーも猿なので気恥ずかしくない。でもビートルズを動物で表現されたら嫌だな(笑)。
マリオン ★★★★☆
ここ数年、さまざまなポップスターの伝記映画がたくさん公開されたけど、ここまで「自分の人生、見せ物なんで!」と開き直っているのはなかなかないかも。自分の弱さや愚かさをさらけ出しながらも「我が人生、一片の悔いなし」と高らかに宣言する心意気と表現者としての矜持がダイナミックなミュージカルシーンに溢れている。愛憎入り混じる父と息子の人生が「My Way」に昇華されていくラストには涙が止まらなかった。
村山章 ★★★★☆
映像技術の粋を集めたとてつもない映像の玉手箱。物語自体はセレブが陥る落とし穴を集めたあるあるエピソードだが、全編を心象風景として描き切ったビジュアルが凄くて、トリッキーな表現と内容がきちんとシンクロしているので単なるヒケラカシに終わっていない。この複雑さを実現させたスタッフの力量を思うだけで目眩がする。あと自分自身の闇に追われるお話という点で某ジブリの『ゲド戦記』よりはるかに『ゲド戦記』(以下略)
室千草 ★★★★☆
ロビー・ウィリアムスの楽曲も風貌も何となくは知っていたが、とても楽しめて驚いた。伝記映画っていう括りもどこかに飛んでいって、王道だけど、シンプルで良質なエンターテイメントを久しぶりに味わった気分。猿というモチーフに最初戸惑ったが、フィナーレの「My Way」を役者や本人が演じていたら、ここまでグッとくるフィナーレにならなかったのでは?と思う。ただ、モノローグに頼らない展開を見てみたかった気もする。
リン・ホブデイ ★★★★★
Cheeky Monkey ロビー・ウィリアムスは自己評価が低く自分の姿をチンパンジーにしたそうだ。ギミックに終わることなく、それが逆にロビーの内面に集中させてくれる要因となった。ロビーご自身のナレーションも作詞家をして来た自分には刺さる。「Rock DJ」の場面でロンドンの街を巻き込むミュージカル演出が凄まじく、観る度に新しいディテールに気づく。ブラックユーモアも最高。イギリス人で良かったと思えた。
片思い世界
2025年/日本/126分 4月4日公開
監督:土井裕泰
出演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星
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ヒット作『花束みたいな恋をした』の脚本・坂元裕二と、監督・土井裕泰が再びタッグを組んだ話題作。美咲、優花、さくらの3人は、それぞれ仕事や大学に行きながら、東京の片隅にある古ぼけた家で仲良く暮らしている。丁寧な暮らしを続ける彼女たちが、胸に抱える「片思い」とは——。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
とにかく設定があまりにも大雑把すぎるし、ご都合主義すぎて、冒頭からいちいち引っかり何も頭に入ってこない。そもそも12年も過ごしてきた中で、その問題に、今、ぶつかりますか⁉だし、彼女らが抱えている背景についての描写もテンプレ通りでなんのおもしろさもない。出演者がみんな、全身全霊で演じているからこそ空回り感がハンパなく、終盤にかけてたたみかけてくる展開の数々には無事虚無顔になりました。
Taul ★★☆☆☆
坂元裕二の脚本はドラマでは楽しめるが、映画では駄目なものが多い。暗闇の中スクリーンに集中し、映ってないものさえ見出だそうとする映画館では、感動は自分で発見したいのであって、あざとく語られると興覚めする。さらに本作、設定には胸を痛めたが、アニメ寄りの展開で綺麗ごとが目立ち、演出も幼稚で涙が引っ込んだ。実写映画という媒体に合った映画作りをしてほしい。ビートルズがアルバムとライブの違いを意識していたように。
マリオン ★★★★☆
どこまでいっても交わらない片思いが世界を創っている。不条理な悲劇は人々の繋がりを残酷にも引き裂いていく。大切な人はもう戻らない。奇跡なんて起こらない。でも、彼女たちはそこにいる。その可能性が誰かにとって救いになるかもしれない。届かない思いが届いたように感じられる。そんな瞬間がどこかにあると信じたっていいじゃないか。誰かを思い続けること。それはきっと世界に絶望しないために必要な祈りであるばすだ。
村山章 ★☆☆☆☆
観てる間ずっとアニメと実写の表現の違いについて考えていた。いや、否が応でも考えさせられた。これが岡田麿里や新海誠作品だったら結構ムリのある世界観やファンタジー描写でもそこまで違和感を覚えることなく押し切られた気がするのだが、ある種の記号に現実味を宿らせるアニメと違い実写は役者にせよ背景にせよ圧倒的に現実として存在してしまうので、例えばジブリ的な洋館に説得力を持たせるのにも甚大な創意工夫が(以下略)
室千草 ★☆☆☆☆
前作『花束みたいな恋をした』観賞後、怒りのあまりやけ酒をした記憶が甦り、ヒヤヒヤしながら鑑賞に臨むも、酷い設定と脚本に、全編通し白目で鑑賞。あえて良かったシーンは、伊島空の事故シーン。神がかった伊島空の身体性は、「ゾンビ映画?」と見紛う程だった。メインの3人の俳優陣が素晴らしいだけに、鑑賞後酒の量多目に(涙)。坂元裕二はやはりドラマの人なのか? 土井監督との3本目があれば、やけ酒スイッチ確認したい。
リン・ホブデイ ★★★☆☆
Beyond the Veil 評価が難しい。設定にはまず驚いた。無差別殺人に遭われた子供達の「今後」をファンタジー風に描いて良いものだろうか? 批判されるのも無理もない。昨年、イギリスで似たような事件が起こり、3名の幼い女の子たちが犠牲となった。来世や別次元があれば、幸せであって欲しいと願いながら本作を観た。合唱のシーンで子供達の真っ直ぐな歌声に号泣。子供達が安全に暮らせる社会を作らなくては……と強く思った。

英国発Netflix「アドレセンス」にドはまりして延々リピート。胸糞スキーとして絶対の自信をもっておススメするしんどい系ドラマ全4話(約60分/話)。「アドレセンス」はいいぞ!

大好きな成瀬巳喜男監督の特集上映が渋谷に続いて、大阪、NY、ボローニャでも開催される。もっと若い世代に広がるといいな。
愛媛に行き、他の映画ポッドキャスターたちとの親交を深めてきました。色々コラボできたら嬉しいな。松山城や道後温泉も堪能できました。観光もできて大満足。
CINEMOREで最愛映画の1本、岡本喜八の『斬る』について6500文字書きました。挿絵も描いたよ!
最近90年代に撮り溜めたDVmini素材を編集している。この頃のダラダラ撮影感は、今のデータ撮影では絶対味わえないし、ずっと『アフターサン』みたいな感傷的な気分で編集中。
「ベター・マン」は2度とできない仕掛けだが、私が自伝映画を撮るならきっとフェレットだろうな〜。爆睡しているか猛活動しているか、中間がないわ……
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