2025年12月
映画好きの短評とイラスト
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▶ 今月のお題
・ ジェイ・ケリー
・ WEAPONS/ウェポンズ
・ 佐藤さんと佐藤さん
・ ペリリュー ー楽園のゲルニカー
ジェイ・ケリー
2025年/アメリカ/131分 11月21日公開(一部劇場)、12月5日配信(Netflix)
監督:ノア・バームバック
出演:ジョージ・クルーニー、アダム・サンドラー
▶ 公式サイト
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ベテラン映画スターのジェイ・ケリーは、イタリアで開催される映画祭への出席を口実に、愛する娘のヨーロッパ旅行に同行しようとする。長年のマネージャーであり友人でもあるロンとともに旅を続ける中で、彼はこれまでの人生を振り返っていく。さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★☆☆
文庫本を読むように、たびたび中断しながら数日に分けてNetflix配信で鑑賞。人生後半にさしかかりのイケオジセレブがこれまでの自分をふり返りつつ、苦楽をともにしたマネージャーとともに旅をする様は、ゆったり噛みしめながら観るのが最適。セレブも裏方も、あなたもわたしも、みんなの人生それぞれが、かけがえがなくて輝かしくて、どうでも良くてくだらない。その当たり前さがきちんと描かれている良作。
Taul ★★★☆☆
男はなぜ老境に入ると、「俺の人生、やらかしもあったけど良かったぜ」と自己愛の杯を上げたがるのだろう。バームバック&クルーニーの新作でもそうだった。映画愛もたっぷり注入。フェリーニを意識して撮り、役者本人の過去映像まで使う。引く場面もあったが、映画業界が激変を迎えている現在、この手の映画を絡めた人生讃歌にはつい酔いたくなる。過去を懐かしむリンゴ・スターの「Photograph(想い出のフォトグラフ)」でも聴こう。
マリオン ★★★★★
演技は何度でもやり直せる。じゃあ人生は? 誰もが知る映画スターは華やかなキャリアと引き換えに、大切にするべき時間や人と向き合ってこなかったことに気付かされる。そんな人生の悲哀を現実と虚構が混じり合う感動的なフィナーレで見事に包み込む。確かに空虚だったかもしれない。でも、空っぽな人生にも実感のこもったリアルがあるはずだ。ノア・バームバックらしい痛みと滑稽さを伴う軽やかな人間讃歌に涙が止まらなかった。
村山章 ★★★☆☆
ノア・バームバックが綴る人生の黄昏。いつまでも未成熟な人間の愚かさをドライな皮肉とユーモアで描く点は変わってないが、悲喜こもごもを優しく包むソフトさがあり、フェリーニらへのオマージュという映画愛も照れることなく前面に出している。人生の決算期みたいな年齢になったからかも知れないが、直球すぎて気恥ずかしさと戸惑いがある。髪型でクセを出してきたビリー・クラダップの器の小さいルサンチマン演技が素晴らしい。
室千草 ★★★☆☆
ジェイ・ケリーという俳優は、娘との会話で「今の話2行前からもう1度」と言ってしまう。そしてよく走る。自分から積極的に走っているというより、カメラを意識しているかの様に走る。父と俳優のバランスに悩み、悲哀ある欲しがりキャラをジョージ・クルーニーが演じていて小気味良い。映画俳優は本当に不思議な職業だ。亡くなり骨になっても、100年後もその俳優を観る事ができる。叶う事なら、森繁の『ジェイ・ケリー』も観てみたい。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Inside Hollywood ジョージ・クルーニーは好きなので、ふんわりとした期待を抱いていたが、「業界の身内受け」や「自己陶酔」しか感じなかった。何よりも「アメリカ人はヨーロッパ人を何だと思っているの?」延々と続く列車のシーンのヨーロッパ人の描写にドン引き。50sなファッションを着るイタリア人もなんなの? また、私のお気に入りの役者さん、カイル・ソーラー、をちょい役にした罪深さ。「どういうこと?」の連続だった。
WEAPONS/ウェポンズ
2025年/アメリカ/128分/R18 11月28日公開
監督:ザック・クレッガー
出演:ジュリア・ガーナー、ジョシュ・ブローリン
▶ 公式サイト
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ある水曜日の深夜2時17分。静かな郊外の町で、小学校の生徒17人が一斉に姿を消すという奇妙な事件が起こる。行方不明になったのは、教師ジャスティンの担任クラスの子どもたちだけ。嫌疑をかけられた彼女は真相を探ろうとするが、町では不可解な出来事が相次いでいく。さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
個人的にずっと公開を待ち望んでいた1本だったのだけど、その期待を上回ってきて大興奮。次々あらわれるへんてこ場面に「あの描写にはどんな意味が……?」と、考察したり解釈をしてあれこれ言いたくなるのはわからんでもないけど、そういうの全部そっちのけでノリと勢いでおもしろがったもん勝ち。疾走する終盤からラストにかけて、あまりの爽快感に笑いが止まらないし、最後の意外としっかりどんよりした着地点も良。
Taul ★★★★☆
ジョージ・ハリスンの「Beware of Darkness」が流れて闇の世界へ。そこからの語り口が面白い。一幕目を独白でサクッと片づけ、人物や時制がコロコロ変わる群像劇が続く。長い前置きやシーケンスが苦手で、ランダムアクセス的に情報を得ることが多い若い世代を意識しての遊びだろうか。かと思えば、最後は爆走で一気に締めくくる。作為的な語り口から原初的な運動に変わる映画の快楽も生まれた。何の映画かいまだに掴めていないが。
マリオン ★★☆☆☆
不気味な導入にはゾクゾクしたし、逆襲のクライマックスはいい意味で驚かされた。ただ、その間にある群像劇はぶつ切りでまどろっこしく、怖がりたいのに恐怖が持続しない。すべての元凶となる存在は『バーバリアン』のときと同じようなモチーフだし、これ見よがしに「考察してくださいよ〜」みたいな描写もあるけど、物語としっかり絡むわけでもない。ハッタリが効いていると言えば聞こえはいいが、勘所が掴めないままだった。
村山章 ★★★★☆
深読みとか解釈とか、掘り下げをしたくなる欲求よりも、画としての面白さ、シーン単体の面白さが勝っていて、もはや何のジャンルか判別できないまま次々と展開していく群像劇が愉快で痛快。ただどこに向かっているのかがなかなか見えない話だけに集中力は必要で、どこでこの映画を聞きつけたのかほぼ満席の客席が終わったときにポカンと戸惑っていた空気感も面白かった。いずれにせよ新しい表現を求める心意気や良し!でした。
室千草 ★★★★☆
画の面白さがテンポよく映像作成者の端くれの私でも「編集楽しそう!」というのが最初の感想。子供の走り方に「アラレちゃんか?」、空の巨大なライフル銃に「アラレちゃんとちゃうか?」とミルクボーイのネタのような言葉が私の頭をよぎる。現代の悪しき慣習「考察」的なものは無意味やで!と言い放つような潔さで、見終わって爽快感すら感じた。夜、散歩中にアラレちゃん走りをしてみたら無茶苦茶気持ちよかった。おすすめ。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Shock! Horror! 町の子供たちが失踪した事件に関わる様々な人物の立場から真相を追っていく構成に引き込まれた。やがて、様々な糸が交差し、「え?こういうことだったの?」と結末へと向かう。ホラー映画なのに、笑えるところも。ホラー映画なのに、一人ひとりの人物に命がちゃんと吹き込まれている。一癖二癖ある役者さんは全員「好物」!観終わっても、シーンやキャラクターの表情が鮮明に蘇る。噛めば噛むほど味が出る作品。
佐藤さんと佐藤さん
2025年/日本/114分 11月28日公開
監督:天野千尋
出演:岸井ゆきの、宮沢氷魚
▶ 公式サイト
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同じ苗字だけど性格は正反対な佐藤サチと佐藤タモツ。ふたりは交際し、同棲生活をはじめる。弁護士を目指すタモツを支えるため、サチも一緒に勉強をするようになるが、彼女だけが司法試験に合格。やがて、結婚と出産を経て、ふたりの関係性は次第に崩れはじめる。さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
たいして仲良くもない友達夫婦の痴話げんかを、居酒屋でビールをすすりながら聞かされるときの感じ。(たぶん大変なんだろうけどそういうのけっこうあるし……正直おもしろくもないんだよね……)と思いながら、それを絶対に表には出さず、曖昧にうなずき、前向きなことを言ってお開きの時を待つ退屈さ。すべてが中途半端で生ぬるい上に、地元出身民としてはふんわりした東日本大震災の被災地描写やなんちゃって方言にもイライラ。
Taul ★★★☆☆
女性のほうが出世するカップルの話は、成瀬巳喜男の『鶴八鶴次郎』など古くから数多くある。こういう作品は男女どちらかの視点に立つことが多いが、本作は男女に固定されず、仕事、育児、親族などの状況で視点が変わり、「自分は今どっちの立場だろう」と揺れた。同姓のため改姓がないフラットさも拍車をかける。ケーススタディとして興味深い作品だった。主夫だったジョン・レノンの女性賛歌「Woman」を聴いて心を落ち着かせよう。
マリオン ★★★★☆
シチュエーションの一つひとつが「なんかありそう」の連続。サチもタモツもちょっとずつ不器用だったり、身勝手だったりするのがとてもリアルだ。また、ふたりとも無意識に男らしさや女らしさに囚われていて息苦しそうなのも辛い。心身ともに行き詰まった夫婦関係。この状況を切り抜けるにはどうしたらいいのか。その答えをふたりとも分かってはいるんだけど、それが望んだ答えではないというままならなさがなんとも切なかった。
村山章 ★★☆☆☆
どこにでもいそうなカップルが痴話喧嘩と仲直りを繰り返し、緩慢にダメになっていく日常。誰もが思い当たりそうな感情に目を向けるのはいいとして、せっかく映画なのだからありふれたつまらないことこそ面白おかしく撮ってくれないかと思う。宮沢氷魚が醸す人としてのショボさ、自分がスッキリすればよいみたいな自分勝手さにはやたらと説得力があって、そりゃ岸井ゆきのもなんだったんだアタシの人生って泣くよと共感はしました。
室千草 ★★☆☆☆
「選択的夫婦別姓とは?」について考えるよい機会だった。“佐藤”という同じ苗字を持つ2人の結婚がもたらすものが、日本の家制度がある環境においては、意味がないのかもと絶望感を感じる。苗字が変わった事がある身としては、サチの友人が吐露する気持ちがものすごく理解できるのだが、それに答えるサチの顔は曇っていた。そして最後のサチの涙の意味は「同じ苗字でもあかんかった」だったら悲しい。
リン・ホブデイ ★★★☆☆
Drifting Apart 最近の邦画はウェット過ぎて性に合わないとよくここで書いている。本作は逆にリアリティを追求し、現代の男女の間で起こり得る課題が盛りだくさん。結婚歴がないので、ある意味で恋愛映画をファンタジーとして捉える時もあるが、本作は「結婚しなくて、良かったかも」と思ってしまった。男女両方にうまくいかない原因はあったが、指輪すらもらえなかったサチには幸がなかったな〜と。それぐらいはあげなよ!
ペリリュー ー楽園のゲルニカー
2025年/日本/106分/PG12 12月5日公開
監督:久慈悟郎
出演:板垣李光人、中村倫也
▶ 公式サイト
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太平洋戦争中のペリリュー島に出征した漫画家志望の田丸は、仲間の最期を遺族に書き記す“功績係”の任務につく。アメリカ軍との戦闘が激しくなる中、上等兵の吉敷と励まし合いながら、過酷な戦場を生き抜こうとする。武田一義の同名漫画をアニメーション映画化。さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
原作未読でポスタービジュアル初見時、このほんわかキャラで戦争モノを?と思ったけれど、だからこその大勝利。戦地の過酷さをかわいい絵柄で描くからこそ、リアリティが増すし、残酷な場面を緩和している。エモーショナルに寄りすぎることなく淡々と綴っていく戦争物語は、ティム・オブライエン著「本当の戦争の話をしよう」の読後感にも似ている。できれば、もっと血なまぐさい嫌描写を入れ込んだものも観てみたかったな~。
Taul ★★★☆☆
日本の戦争映画で気になるのは、一方的な視点で悲惨さを感動に変え、被害者意識が強すぎないかという点。意外と多いと思うし、学校の授業では多角的な視点は欠けがちだ。本作は、感傷的な表現は抑え気味で、日本軍の狂気じみた言動も描いていて良かった。欲を言えば島民や米国側の人物描写が欲しかった。館内は中高生も多かったが、これを機に様々な視点に触れてほしい。ポール・マッカートニーの反戦歌「Pipes of Peace」を聴こう。
マリオン ★★★☆☆
戦争の悲劇を伝えるという意味では、これほど間口の広い作品はないかも。血なまぐさい光景とかわいらしいキャラクターデザインがもたらすギャップは、おぞましい現実をより際立たせる。そして、ひとりの兵士の物語を通じて、忘れ去られた名もなき者たちの人生を残そうとしている。誰もが生きようと必死だった。でも、戦場では容赦なく個人の命や尊厳が奪われていく。戦後80年の年の瀬に戦争の愚かさを改めて実感させられた。
村山章 ★★★★☆
映画鑑賞後に外伝を含む原作マンガ全15冊を読んで理解したのは、作者にとって戦争をさまざまな視点や時代から捉えようとした壮大かつ凄まじいプロジェクトということ。当然100分ほどにまとめられる物量ではなく、映画版は“田丸編”と呼ぶべき部分に特化した入門編として機能する。にしても今年の戦争映画では最も理知的でちゃんとしている。ただメカ描写になるとアクション魂が感じられてしまうのは日本のアニメ表現の業だよなと。
室千草 ★★★★★
なぜこの3頭身キャラの可愛いキャラデザなのかが、見ていてとても腑に落ちる。戦後帰還兵にまつわる壮絶な現実は、このデザインでないと相対的に理解できないのかもとも。実写は実写の良さもあるが、実写はピンポイントなリアルに驚嘆したり慄いてしまう感情が邪魔して、真の壮絶さが響いてこないのではないかと。最後の船で帰還するシーンが、祖父がシベリアから帰還する船のイメージと重なり感情が溢れた。戦争反対!!
リン・ホブデイ ★★★★☆
Hell in Paradise 終戦80年ということで、夏にクロスレビューの戦争映画特集に参加させていただいた。実写の新作もあったが、何一つ心に残らなかった。本作はFunko Pop!のようなキャラクターたちの可愛いらしさによって戦場の残酷さが一層際立つ。自然の描写も美しい分、なおさら兵士たちの争いが切なく、胸が痛む。子供でもOKという意見も見たが、戦いのリアリティはかなりエグい。音楽も上品でお涙頂戴感がなく、素晴らしい作品!

さようなら2025年。初めまして2026年。
えっ……に、にせんにじゅうろく……???

趣味を語るXのスペース「オリジンタビュー」でビートルズについて喋りました。Podcastにアップされています。
※レビューのビートルズは今月は4人のソロの曲です↓
Spotifyのリスニング年齢が81歳でした。オジサンを通り越してジジイすぎる結果に、年を取ると新しい音楽を聴かなくなるのは本当なんだなと思いました。
2025年の映画を振り返ってみて『ジェリーの災難』と『雪の花 -ともに在りて-』は今後もガンガン推していくぞ!と決意しました。
故郷の飛騨高山にフィルムコミッションを作る為の対話会に参加しとてもおもしろかった。今の興味は作品や映画へのアクセシビリティだと気がついた。でも作品も作りますよ。
『佐藤さんと佐藤さん』を観るために...... 初めてシニア料金の割引を使いました! 700円もお得するのね!
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2025年の反省会をひっそり開催!
1月4日(日)21:00〜 Xスペースにて配信
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