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▶ 今月のお題
・ エア・ロック 海底緊急避難所
・ きみの色
・ ナミビアの砂漠
・ ヒットマン
エア・ロック 海底緊急避難所
2024年/イギリス/91分 8月16日公開
監督:クラウディオ・ファエ
出演:ソフィー・マッキントッシュ、ウィル・アッテンボロー
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卒業旅行でメキシコのリゾートに向かっていたエヴァ。しかし旅客機が鳥と衝突して墜落、機内に閉じ込められたまま海中に沈んでしまう。酸素がなくなり、サメにも狙われ、果たして生還できるのか? 『海底47m』制作陣が贈るパニック映画。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
飛行機の墜落で生き残った人間の過酷なサバイバルを描く『雪山の絆』と、パリの街が大混乱するサメサメパニック大傑作『セーヌ川の水面の下に』(ともにNetflix)の後だと、どちらの要素も兼ね備えているはずなのに全部が生ぬるい。同性愛者、スキルのあるカッコいい女性、賢い子どもなどの多彩な登場人物の設定も取ってつけたみたいだったし、なによりサメがやさしすぎる。映画の中のサメよ、とにかく凶暴であれ。
奥浜レイラ ★★★☆☆
多種多様なサメ無双を描いてきたジャンルの文脈なら怒られそうなくらい、人間に都合よくサメが描かれる。「そんな微量のバブルで退散するならもうサメ辞める?」と問いたくなったし、レスキューダイバーの無能なプレイにツッコミを入れたくなったが低予算のサバイバル映画としては結構楽しんだ。本人の希望とは関係なく守られて生きてきた主人公が、他者の庇護から放たれ自立するドラマとしても注目したがそこは今一歩。あと、みんな肺強くない?
カスミ ★☆☆☆☆
物足りなかった。せっかく人間の血を意味ありげにうつしているのに何もない。その血に吸い寄せられてじゃんじゃか人が死ぬのかと思った。サメってもっと強いはずでは。バカボコバカボコ動き回り、飛行機めちゃくちゃにして欲しかった。そして、男性CAさん、働かなさすぎて、びっくり。ちゃっかり助かってるし。もう色々おかしくて終始笑ってた。州知事の娘に頼みすぎ。
Taul ★★☆☆☆
唐突だが、ビートルズの曲で言えば「ヘルプ!」な状況。歌詞にもあるが、ドアを開けて抜け出したい。だけど本作、サメをはじめ危機的状況はたくさん仕込んだのに、何の驚きもなく、やられたり回避されたりしていくだけなのでスリリングさに欠ける。低予算なりの弾けた部分がなく、大作っぽく真面目にやろうとして、逆に足りてないところが目立った。心の底からヘルプ!と叫びたくなるように、危機はもっと盛り上げてほしい。
マリオン ★★☆☆☆
ここまで絶望的な状況はなかなかないでしょ?と言わんばかりの盛りだくさんな設定。しかも、意外と先が読めない物語になっていて侮れない。すぐ死にそうだなと思った人が終盤までしぶとく活躍したり、最後まで生き残りそうな人があっさり退場したり、あまり見せ場がなかった人がしっかり生き残ったり。ステレオタイプなイメージで人の生死を決めつけるのはよくないなと思わされた。ただ、サメはもう少し大暴れしてほしかったな。
村山章 ★★★★☆
自己評価の低い主人公の奮闘に比して、男どもが全員役立たずで笑う。カス野郎な彼氏が100%本人のウッカリでお亡くなりになり、ショック状態に陥ったエヴァが「あの人は私を救おうとした、勇気ある英雄だった」と歴史改ざんに走るシーンは震えた。誰ひとり同意しない微妙な空気とDV男の彼女みたいなエヴァのメンタルが放置されたまま物語は進んでいく。ジャンル映画としてはイビツだが、結構人間のヤバいとこまで踏み込んでる。
きみの色
2024年/日本/100分 8月30日公開
監督:山田尚子
出演:鈴木紗由、髙石あかり、木戸大聖
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『リズと青い鳥』「平家物語」の山田尚子監督、吉田玲子脚本によるオリジナルアニメ。他人の“色”が見える高校生のトツ子は、自分が好きな色を放つ少女、きみに憧れていた。いつの間にか退学していたきみを町の本屋で見つけ、居合わせた少年ルイと3人でバンドを組むことに。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
人の色が見える女の子という設定上、色彩が美しくないと成立しないし、バンドって楽しいんだ!という物語なら、音楽のクオリティもしっかりしてほしい。そこをきちんとクリアして、少年少女の「好き」を丁寧に描く。主要人物の背景が極限までそぎ落とされてて不明だけど、通常語られるはずの人生の重たさなんかを超越したところにある「音楽が好き!」というひたむきな姿に胸を打たれました。ミスチルにはびっくりしました。
奥浜レイラ ★★★☆☆
それぞれの葛藤を抱えながら、ひたむきに音を鳴らし3人の色が交ざりあっていく。長崎の人々の信仰との結びつきや秘めた強さ、五島の美しさを自分の記憶と重ねて清らかな気分でシートにもたれていたらエンドロールで別の音楽がカットイン。大人の思惑がみえて少し萎えた。だが「音楽のはじまりはピュアな衝動であってほしい」という自分の幼稚な幻想との戦いを経ても、作品の中で生まれた彼らの聖域の方がずっと強度が高かった。
カスミ ★★☆☆☆
きみの色というよりわたしの色を探していたのでは。最初は、見え方に関して独特な感性を持っている子が音楽をやりながらみんなの色を探していく、そんな展開なのかと思ったら、純粋な青春バンド物語で、自分らしくというメッセージだった。みんな自分を隠す制服ばかり着てるけどそんなもの脱ぎ捨てて、自分の好きなことをすることってすごく大事だな。その勇気が欲しくなった。自分の好きなことに素直に誠実に。
Taul ★★★★☆
ふんわりとしてるが、実に凝った映画技巧が詰まっていた。特にカメラ位置と人の配置が絶妙。心情や関係性を表現し、色使いや焦点、遮る物、動きで鮮やかに見せていく。本屋で3人が出会う場面など出色だ。ビートルズの曲なら「ハロー・グッドバイ」。ふんわりポップソングの中に、歌詞も音も対比的に配置するなど技巧が詰まってる。黒いリッケンバッカーが登場してジョンを思い出すが、ポールの曲で例えてしまい、神様お赦しください。
マリオン ★★★★★
見えないものが見える。3人が纏う色や奏でる音、気持ちの発露。今という時間を生きる彼らのすべてが仄かで淡い光となって輝きを放ち、儚く消え失せていく。そして、世界は程よい距離感を守りながら、3人を愛と優しさで包み込んでくれる。しかし、彼らを取り巻く世界はあまりにも脆い。優しい世界なんて幻想だ。それでも全力で3人の今を肯定し続ける山田尚子の願いに僕も賭けたくなった。さぁ祈ろう。誰かに優しくなれるように。
村山章 ★★★★☆
繊細な描写を積み重ねることでパステルカラーの光がきらめく心地いい世界。しかし直接的に描かれないそれぞれの背景が、後からじわじわと効いてくる。兄と2人で家を出て祖母の家に身を寄せたきみちゃんの過去、後継ぎは自分だけというルイくんの家族写真に写っていたもうひとりの男の子、夏休みでも実家に帰ろうともしないトツ子の事情。平穏な優しさは氷山の一角でしかないからこそ、高校生たちのあの貴重な時間も光を放つ。
ナミビアの砂漠
2024年/日本/137分 9月6日公開
監督:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎
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21歳のカナは彼氏のホンダと同棲中だが、新恋人ハヤシとの交際も謳歌していた。ハヤシからホンダと別れてほしいと切り出され、2人で新生活を始めるも、蓄積していく鬱屈がカナを暴走させていく。第77回カンヌ国際映画祭で国際批評家賞を受賞した、山中瑶子監督の初長編映画。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★★
圧倒的河合優実、この河合優実しか勝たん。セリフとその温度感がとんでもなくリアルで、「は?」と吐き捨てる軽蔑が混じった声、恋人を待つ「ま~だ~?」のぬるい甘ったるさ、打ちひしがれる元彼を眺めて半笑いの「へんな人」……それらが、適切なシーンのドンピシャなタイミングで完璧な表情とともにくり出され、一瞬たりとも目が離せない。息苦しい日々の中で、つねに爆発寸前の憤懣がぐつぐつ煮えたぎってる空気感も最高。
奥浜レイラ ★★★★★
先日「カナのような、生々しい女子の生態は見たくなかった」と話す男性に会った。なるほど。こうして自分に都合の悪い姿を拒絶する人々の作り上げた“俺たちが見たい女性像”の上に彼女は誕生したのか。カナを通して社会が“女”に求めるものが浮かびあがってくる。カナにかかる重力は私も知っている。ルームランナー中のかっぱえびせん、カナが着ているCYCLEとプリントされたロンT。永続って時々うんざりするよね、カナ。
カスミ ★★★★☆
こんなはずじゃない、こんなの私じゃない、が全部詰まった作品。でも傍から見たらこんなもんなのかもね。自分のことも分からない、家族のことも分からない、他人のことも分からない。分からなくていいのかもしれない。もうみんな秘密を抱えているし、自分以外好きになる必要もないのかも。他人を好きになろうとして自分を嫌いになってる気がする。みんな嫌い、でも自分が大好き。それでいい。
Taul ★★★★★
カナの言動の多くは、男だったらカッコイイとされるし、受ける扱いの酷さは女だからではないか。そんな社会のキツさを痛いままに真っ向から指摘して戦う作品。男女のもつれは身に覚えがあって、特に自分に刺さり白旗を上げて観る。だんだん壊れていくカナ。砂漠の地からその心を戻すために、彼女にはビートルズの曲で「死にたい」とちゃんと心の痛みを叫ぶ「ヤー・ブルース」を歌ってほしい。余計なお世話だと言われると思うが。
マリオン ★★★★★
きっとカナの怒りをすべて理解することはできない。というか理解している素振りを見せた瞬間に「うるせぇ!」とぶん殴られるだろう。でも、彼女が感じる社会への違和感はよく分かる。仕事もプライベートも充実させろ、衣食住や美容に気を遣え。「ていねいな暮らし」を無言で押し付けてくるあの空気感がツラい。地獄のような映画だったけど、登場人物たちのだらしない生活描写は同じグータラ人間としてちょっとだけ安心感を覚えた。
村山章 ★★★★★
山中監督がどれだけえげつない天才かを語る言葉をいまだ持ち合わせてないのだが、とにかく全シーン面白い。同級生の自死とノーパンしゃぶしゃぶと紙ストローが交錯する会話とか、ミンチ肉こねてるときに電話がかかってくるとか、日常から小さなほころびを探り当てる鋭さよ。「そっちの方がおかしい!」と荒ぶるカナの憤りは無分別だが切実で、本作はそこに可笑しみすら見出している。つくづく強靭で信用できる映画作家だと思う。
ヒットマン
2023年/アメリカ/115分 9月13日公開
監督:リチャード・リンクレイター
出演:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ
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警察のおとり捜査に協力してニセの殺し屋を演じ続けた実在の男性をモデルにしたブラックコメディ。大学で心理学と哲学を教えるゲイリーは副業で警察に協力しており、急遽おとり捜査の殺し屋役をやることに。たちまち才能を開花させるが、依頼人の女性と恋に落ちてしまう。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
全自動洗濯機画面酔い映画『ツイスターズ』でも見たグレン・パウエルが、手を変え品を変え「俺様の魅力すげえだろ?(ばちこーん☆←ウィンクの音)」しまくるのだけど、このばちこんウィンクの効果がない場合、ひたすら退屈なおとり捜査を観るハメになる。普通に暮らす善良な市民みたいな顔をしてるくせに、躊躇することなく他人の人生を安易に左右してそれをヨシとする、できそこないサイコパスが出てくる中途半端な映画。
奥浜レイラ ★★★☆☆
2024年は『恋するプリテンダー』『ツイスターズ』と供給過多(ありがとう)なグレン・パウエル。続く本作は、殺人のおとり捜査のため主人公が次から次へと偽の殺し屋に化けていく、パウエル味濃いめの一品。リンクレーターとパウエルの2人で練った脚本は、実話に着想を得てフィクションの衣を厚めにまとい、現代に強まる“自分が見たいように他者を見る”傾向をぼんやり風刺する。実在の人物の名を借りておいてこの結末!と驚いた。
カスミ ★☆☆☆☆
グレン・パウエルの芋感と、モテそうでモテない男が溢れ出すぎた映画。ベッドシーンがそれを物語っている。物足りなくて物足りなくてウズウズしてた。どのシーンももう少しって感じで満足いかない。しかし、セリフがやたらと多くて、お腹いっぱいになった。殺し屋というヒットマンと、女を逃さないヒットマン。様々なヒットマンが合わさったコメディだが、笑いも中途半端で、2時間ないのにすごく長い。
Taul ★★★★☆
パウエルの胡散臭さとリンクレイターの語り口がいいが、本作、全方位にブラックな映画づくりの提言では。現代のモラルに厳しい硬さをほぐし、事実か虚構かに煩い批評をかわし、アイデンティティぶれぶれの人物を楽しみ、ロマンスなんだから不謹慎な蜜の味もどうぞ、といった遊び心を受け取った。ビートルズでテーマ曲をつけるなら、変な殺しの歌「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」。どちらもブラックで可笑しいのがいい。
マリオン ★★★★☆
続々とおとり捜査に引っかかる依頼人たちを見ていると人間関係って面白いなと思わされる。憎しみのあまり本気で殺意を抱く人や殺そうとしていたはずなのに結局仲直りする人。人間関係はいつも思ってもみない方向へ転がっていく。それはニセの殺し屋と依頼人の恋模様も同様だ。ハッピーなのに底知れぬ怖さが感じられる着地も含めて、人間の多面性が感じられて面白かった。カメレオンのように変身するグレン・パウエルも最高!
村山章 ★★★☆☆
笑いの勘どころが掴みづらいが、他人の人生を演じることで自分の空虚さを埋める男の話であり、セクシーなラテン美女との逢瀬のベタすぎる描写も、現実逃避したい2人のロールプレイなのだと思えば合点がいく。死人が出てからは『白いドレスの女』風のファムファタル系ミステリーに変貌。悪女の身も蓋もない安っぽさが可笑しく、結局2人でこぢんまりとした人生に収まるのも皮肉が効いている。ただ面白いってほどでもないんだよな。

劇場に行けなかった『胸騒ぎ』をU-Nextで鑑賞。おもしろい、おもしろすぎる!好きェ~!年内、いや人生のベストに入れたいくらい大好きェ~~!
さっきかじった昨日のおにぎりが糸を引いており(完食)『エイリアン:ロムルス』でお腹に時限爆弾を抱えたイザベラの気分で過ごしています。
実は私河合ちゃんと同い年でして、尚更ナミビアの砂漠は自分を客観視しているかのようでした。映画について書くことはとても勉強になります。

突然ですが、今月は映画と同じくらい大好きなビートルズに絡めて書いてみました。私のアカ名は、Paul McCartney のもじりなんです。
はじめて鶴橋駅に降り立ち、最高にうまい焼肉屋と出会いました。あれは間違いなく生涯ベスト級の焼肉だったなぁ。
親指の関節が痛むので病院に行ったら老化だそうで。声が出づらいので病院に行ったら声帯が閉じなくなっていて、やはり老化ですと。
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