※ 表をクリックすると拡大・DLができます
▶ 今月のお題
・ 関心領域
・ マッドマックス:フュリオサ
・ チャレンジャーズ
・ ドライブアウェイ・ドールズ
関心領域
2024年/アメリカ・イギリス・ポーランド 5月24日公開
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
▶
公式サイト
----------------
1945年、第二次世界大戦下のアウシュヴィッツ。隣に高い壁のある美しい家で暮らす、強制収容所所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒ一家の穏やかな日々を描く。第76回カンヌ国際映画祭グランプリ、第96回アカデミー国際長編映画賞、音響賞受賞作品。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
壁の向こうでは、大人も子どもも昼夜関係なく虐殺されている。その壁のこちら側、美しい庭のあるステキな家で暮らしている一家の物語。これを観て「あの一家の無関心が怖い!」とか言うのはとても簡単だし、実際そういう映画だと思うのだけど、スクリーンやテレビという壁を隔てて、自分の見たいものしか見ずに何かを考えた気になっているわたしたちと何が違うんだろう、というようなことを鑑賞後、ずっと考え続けている。
Taul ★★★★☆
感覚を研ぎ澄まして眺め、惨状を想起する時間が続く。そんな観察する立場から一転、最後は今の私たちに繋がり、強制収容所の所長から直接問い掛けられた気分に。フィルターバブルもあり、見聞きしたくないことに壁を立ててる自分は、彼ら家族に似てないと言えるだろうか。そういった思いが頭から離れない。歴史的愚行の側にいた人々の思考を現代の視点で感じとることで、これほど身近な問題になるとは。凄いアイデアと力を持つ作品だ。
能塚裕喜 ★★★★☆
表層はホームドラマ。だが、少しばかりの教養を持って観ればホラー映画。観る者によって真逆の映像を見せる手腕に脱帽。途中、ヘス一家の生活に見入り、壁の向こうへの関心が薄れている己にはたと気づいた時、人間の慣れに恐怖を覚える。人は見たいものだけを見る、お前たちもヘス一家になりえるぞ、と強烈に突きつけられた気がした。ドラマは淡々として平凡であるが、映画体験としては苛烈。映画館でこそ見るべき作品。
マリオン ★★★★☆
淡白な映像で描かれるホームドラマの背後には凄惨な事態を伝える音が鳴り響き、嗅ぎたくもない臭いが充満している。あまりにも異様な状況に強烈なおぞましさを抱くのだが、見ているうちにだんだんとこの映画に「慣れてきている」自分がいて、劇中に登場する家族の無関心さを追体験したような気持ちに。しっかりとしたコンセプトのもとで組み立てられているからこそ成り立つ体験だった。ミカ・レヴィの劇伴も不気味でゾクゾクする。
村山章 ★★★★☆
常に攻めの姿勢を貫いてきたグレイザーの大ファンながらも、さすがに今回はコンセプト至上主義すぎやしませんかと不安と眠気に襲われたりしたが、二度目の鑑賞でやっぱり凄まじい監督だなと。お祖母さんの行動にようやく人間味を感じてホッとしかけたり、パーティーでもつい効率的な殺し方を考えてしまうヘスの仕事脳に「わかるよ」と思ってしまったり。浅はかで矛盾だらけな自分とも向き合わされる恐ろしい仕組みになっている。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Banality of Evil アウシュヴィッツ収容所の隣で不自由なく住むルドルフ・ヘス所長と彼の家族。たった1枚の壁で区切られる豊かな日常とユダヤ人が死に怯える地獄。日常会話に出て来るヘスの妻のさりげない差別がショッキング。そして敢えて音だけで収容所の様子を伝えることによって想像力が働き、パンチが強くなる。淡々と悪の凡庸が描かれ、我が身をふり返ろうと思った。悪は決して遠くにあるものではない。
マッドマックス:フュリオサ
2024年/アメリカ 5月31日公開
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
▶
公式サイト
----------------
緑あふれる地で暮らしていた幼いフュリオサは、ディメンタス将軍率いるバイカー軍団に連れ去られ、彼らと生きることになる。やがて将軍と覇権を争うイモータン・ジョーとも対峙する。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
前作の前日譚として、フュリオサ大隊長がいかにして生まれたかが描かれる。驚いたのは、あの世界が思ってたよりちゃんと機能してたこと。貿易が成立してるし、ウォーボーイズはイモータン教の信者というより組織で働くサラリーマンみたいだし。もっと「♪Welcome to this crazy time」(TOM☆CAT)だと思っていたのになー。前日譚を描く上でしかたないとはいえ、つじつま合わせを超えるおもしろさがなかったのが残念。
Taul ★★★★☆
ゆったりとした語り口に戸惑うも、フュリオサの出自と世界の成り立ちをしっかりと語る意志を感じ、壮大な叙事詩の一部として楽しむ。悠長な感じがあっても、アクションが始まるとその面白さで吹き飛ばしてしまう。中盤のタンクローリーの疾走戦は白眉。激しい戦いなのに見やすく、ロジックと馬鹿馬鹿しさが共存し、一瞬の中に継承や信頼などのドラマが生まれてる。ああいう活劇を大画面で見たいこともあり劇場に足を運んでる。
能塚裕喜 ★★★★☆
前作で詳らかになっていなかった約束の地やフュリオサの過去、世界の片隅を丁寧に補完しつつ、憎悪を心に宿したフュリオサの復讐劇を丁寧に描き切った良作。一方で狂気のアクションの高揚感はありつつも、少しトーンダウンしているようにも思え、良くも悪くもバカ丁寧なスピンオフ作品といった印象に落ち着いてしまった。復讐心に溢れるアニャの目力は圧巻。まさに目は口ほどに物を言うを体現していた。
マリオン ★★★★☆
前作と違うテイストに最初は困惑したが、フュリオサの過去をじっくり掘り下げていくことで『マッドマックス』の世界観を改めて見つめ直す作品になっていて唸らされる。特に、場当たり的に自分の権力を誇示するディメンタスのしょうもなさが素晴らしい。荒廃した世界に適応したフリをすることしかできない男の虚無がこの世界を作り出している。観客がただただ世界観に耽溺することを良しとしない心意気が感じられてよかった。
村山章 ★★★☆☆
シーンのひとつひとつが面白い。特にフュリオサの母親の追跡は徹底して実務として描かれていて、具体的な行動の積み重ねが映画の世界観や価値観を知らしめてくれる。陽気なカス野郎、ディメンタス将軍の乾いた処世や哲学も興味深く『デス・ロード』との最大の差別化ポイントになっている。が、肝心のフュリオサの物語が負けており、また女性の搾取の話であるのに見やすいパッケージにしたことでテーマ性が弱くなった感はある。
リン・ホブデイ ★★★★☆
I want them back! 前作のバックストーリーだったので、最初は気乗りしなかったものの案外登場人物に魅力を感じた。フュリオサの母親を殺したディメンタスは常に亡き子供のテディベアを吊るしている。かつて良きパパだったかしら? フュリオサと警護隊長ジャックの関係はスイートで、うまく行ってほしかった。そして終盤、フュリオサの痛烈な叫びで切なくなった。だって復讐をしても母親と恋人は戻って来ないのだから。
チャレンジャーズ
2024年/アメリカ 6月7日公開
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・ファイスト
▶
公式サイト
----------------
才能あるテニス選手タシは、試合中の怪我により選手生命を絶たれてしまう。やがて彼女の情熱は、自分に好意を寄せる2人の男子テニス選手へと向かう。親友同士の彼らとタシの、10年以上もの歳月と人生を懸けた“愛”の物語の行く末は……。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
従来のスポーツ観をくつがえす、新感覚テニス映画。主人公タシの思い描くタシ劇場(残念ながら本人は怪我のため配役変更)では、恋人や夫を含めた世界はすべて、理想とするテニスへの愛と情熱を体現するためのパーツでしかない。荒唐無稽なこの考えも、頭のてっぺんから足の先まで魅力がつまってるゼンデイヤが演じると、圧倒的な説得力をもち、カルトじみた熱狂を帯びていく。テニスって、こんなスポーツだったんだ……。
Taul ★★★★☆
グァダニーノなので普通のテニスを題材にした三角関係ではないと思ってたが、プレイで心境を語るのが驚くほど巧みだし、撮り方自体は笑っちゃうほどエロい。関係性もファムファタルに転がされる男2人なんてありきたりでなく、性愛、支配、服従、嫉妬、自己愛と多彩な欲望が渦巻き、セクシャリティやジェンダーを軽やかに越えていく感じさえする。若くない自分はついていけない。でも全欲望がスパークするラストは気持ちよすぎた。
能塚裕喜 ★★★☆☆
タシの「テニスは関係性だ」という言葉が象徴するように、本作ではテニスの試合経過に主人公たちの来歴、関係性の変化がうまく織り込まれている。ラリーが繰り返されるごとに主人公たちの関係性や見方が目まぐるしく変わっていく様はまさにテニスのようだ。クライマックスに向けてのエピソードの配置が緻密に練り込まれており、構成の技が光っている。三人が皆チャレンジャーであり、壮大な三角関係のモラトリアムの結末はあまりに美しい。
マリオン ★★★★★
あふれ出す欲望と燃え上がる感情。テニスという縛られたルールの中で自分たちだけの関係性を見つけ出そうする3人の官能的な駆け引きが最高にスリリングで、クライマックスには思わず叫びたくなるぐらい大興奮してしまった。トレント・レズナーとアッティカス・ロスによるアゲアゲな劇伴も痺れる。そして、3人とも「人生これでいいのだろうか?」という焦燥感を抱えているのにもグッとくる。大人のモラトリアム映画としても満点!
村山章 ★★★★☆
前半は超破天荒な愛憎コント『ハモンハモン』のテニス版かと思ったものの、最終的にはそこまで珍奇ではなく、少年ジャンプ的な対決萌えの話だったのだと理解した。あくまでも概念としてのスポーツやテニスなのは島本和彦の「燃えるV」にも近く、テニスのルールも知らなかった脚本家が思いついたと聞いて納得。結果的に3人が超狭い関係性に収まってしまうラストには、心の底から「しらんがな!」と叫ばせていただきました。
リン・ホブデイ ★★★★☆
Love Set Match テニスを巡る男性二人と女性一人の依存し合う三角関係。官能的な設定だが、テニス自体が性的な描写を代弁している。これって格好良いか格好悪いか絶妙なカメラワーク。ええ?ここで音楽入れるの? 激しく前後するタイムライン。その不思議な演出のチョイスを探るため、何度か観たくなる映画。トレント・レズナーとアッティカス・ロスのサントラにも萌え。但しテニス・ボール酔いにご注意を。
ドライブアウェイ・ドールズ
2024年/アメリカ 6月7日公開
監督:イーサン・コーエン
出演:マーガレット・クアリー、ジェラルディン・ヴィスワナサン
▶
公式サイト
----------------
ジェイミーとマリアンは、日々の鬱憤を晴らすべくアメリカ縦断のドライブがてら車の配送をすることに。しかし、請け負った車のトランクには思わぬモノがあり、それを取り戻そうとするギャングに追われる羽目になる。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
「禁断の愛」とか、マジョリティとは違う自分の人生に思い悩んだりとかいう、ひと昔前の激重シリアス同性愛描写を超えて、登場する女子が全員、自分の性や欲に忠実に生きてることが普通の世界で起こる、巻き込まれ型ロードムービー。性指向関係なく進む物語の軽やかさには感心したけど、肝心の笑いどころがひとつもわからなかった……。こういうノリでLGBTQが描かれる作品が増えたら「これだ!」という1本に出会えるかな。
Taul ★★☆☆☆
イーサン・コーエンは兄弟の中ではコメディ嗜好が強いようだ。どこか懐かしい巻き込まれ型の珍道中で、昔のアメリカ映画のお馬鹿なノリだが、レズビアンのカップルが自分たちの性を自由に謳歌するという時代性を入れ込んだ作風。そんな古さと新しさのミックス具合が面白い。この趣向は増えてるし、嫌いじゃないが、笑いのセンスがどうも合わなくてノレるまではいかず。主演のマーガレット・クアリーが良くて、さらにブレイクしそう。
能塚裕喜 ★★☆☆☆
B級映画的なチープな作りで低俗で下品なユーモアに溢れている。おバカで明るく、肩の力を抜いて楽しめる。くだらなさこそ映画の醍醐味だと感じさせてくれる作品。尚且つ、社会的、政治的な皮肉も効いているのもいい。画作りはポップでおしゃれだが、クセの強いスクリューボール・コメディであることには間違いないので笑いのテイストが合う合わないはある。個人的には若干合わない方だった。
マリオン ★★★★☆
レズビアンカップルが王道なクライムコメディの世界で当たり前に輝いていて感動的。きちんと不真面目でバカバカしい作風なのもいい。彼女たちが狙われる理由となるブツの正体とその顛末に大爆笑しつつ、「私たちの旅はまだ終わらねぇから!」と言わんばかりの清々しい締めくくりが最高だった。ただ、この感動はもっと昔に叶えられているべきものだと思う。こういった作品がたくさん作られてこなかったという事実には憤りを覚える。
村山章 ★★★★★
コーエン兄弟のジョエルがシェイクスピアに挑んだのとは対照的に、弟イーサンが妻トリシア・クックと組んだ初の単独名義作で、兄弟の持ち味のひとつ「とにかく深刻にならない不条理コメディ」路線を貫いた。とはいえ皮肉に陥ることのない陽気さとクィア要素はおそらくクックが持ち込んだもので、結果的に風通しのいいクダラなさが成立している。少なくとも自分にはしんどい世相を生き抜くためにこういうバカバカしさは絶対に必要。
リン・ホブデイ ★★☆☆☆
Death by Corkscrew コーエン兄弟のイーサン監督の風変わりコメディ。二人のレズビアンが主役なので、LGBT版の『テルマ&ルイーズ』を期待していたが、中身が薄くちょっぴり残念。ところどころ入るサイケデリックな映像は何の意味だったのでしょう?しかしヘンリー・ジェイムズの小説をひたすら読む内向的なマリアンを演じるジェラルディン・ヴィスワナちゃんは可愛かった。終始小劇場的なバカさ加減。好き嫌いが分かれそう。

長年のあこがれ、アイアンメイデンちゃんに会いに行って死刑制度や拷問について詳細に教わったり、わんこ肉a.k.aシュラスコを食べながら胃袋の強さを褒められたりしました。

サブスクで映画を探してるだけでお腹一杯になって観ないことが結構あるんだけど、レンタル店に通ってて何も借りずに帰ることがよくあった、あの感じに似てるなあ。

自宅にプロジェクターを導入。自宅映画が捗る捗る。スピーカーも欲しいなと思うも歯を食いしばって踏みとどまる。ここは手を出してはならない沼だったかもしれない。
5月の映画BAR東京開催も無事に終わり、8月には名古屋でやることになりました。そして、他にも企画がいろいろ動いてます。わくわく。※8月は諸事情により中止になりました
バリ島でパソコンにお茶をぶちまけて壊し大停電に見舞われハチに刺され左足がバイクの下敷きになってERに飛び込んできましたが元気です。
VRの声のお仕事をしたら「ガラドリエルな感じでお願いします」と言われて。映画に詳しくて良かったと思った。
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『ザ・ウォッチャーズ』『クワイエット・プレイス:DAY 1』『ルックバック』『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』を予定!
2024上半期反省会を開催!
7月14日(日)21:00〜 Xスペースにて配信
2024年上半期にレビューした作品についてレギュラーメンバー6人とゲストメンバーでワイワイ語ります。過去のレビューを見ながら聴いていただけると嬉しいです!