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▶ 今月のお題
・ ゴールデンカムイ
・ 哀れなるものたち
・ ダム・マネー ウォール街を狙え!
・ 夜明けのすべて
ゴールデンカムイ
2024年/日本 1月19日公開
監督:久保茂昭
出演:山﨑賢人、山田杏奈、玉木宏、舘ひろし
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公式サイト
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明治時代の北海道を舞台に、日露戦争からの帰還兵”不死身の杉元”とアイヌの少女アシㇼパが雪山で出会い、行方不明になった莫大な金塊をめぐる争奪戦に身を投じる。冒険、歴史、アクション、グルメを融合させ、累計2700万部を売り上げたベストセラーコミックを実写映画化。
さとうかずみ ★★☆☆☆
榎本志津子 ★★☆☆☆
原作に非常に忠実に作られた実写映画。壮大なストーリーを思うと、今作は序盤のじょ、ていうかj、くらいなので、最後まで描ききるには何部作になるのよ……と気が遠くなるし、ここまで原作そのまんまだと、じゃあ漫画読めばよくない?と実写化する意味を考えてしまう。ただ、俳優たちの赤くなった鼻や指先の、演技ではどうしようもできない部分に北海道の冬の厳しさが表れていて、生身の人間が演じている良さがあった。
kaoLi ★★☆☆☆
予想外の出来。雪山のシーンは圧巻でマキタスポーツはパーフェクトな仕事をしてるし、熊映画としても最高なうえ、出てくる料理もちゃんと美味しそう、街並みも、額に垂れる脳汁も最高。駄作かと思っていただけに、良い意味で裏切られた。そう、ディテールは最高なのだ。ディテールだけが最高なのだ。カルピスウォーターを100倍薄めたみたいな杉元を見せられても、線が細い山﨑賢人からはゴールデンカムイの味が全くしなかった。
Taul ★★☆☆☆
紹介だらけの遅い展開と小さな見せ場の繰り返しで、連載漫画の序章部分をトレースしてるだけでは、と後で原作を読んだらまさにそう。原作ファンにはいいのかも知れないが、クリエイティビティのあり方としては寂しいし、ドラマシリーズ向きの作りでは。設定の面白さやロケ撮影の雄大さで飽きずには観られたが、流れてるのは映画の時間ではなかった。このペースだと最終回まで数十年かかるのでは、といらぬ心配をしてしまった。
touch ★★☆☆☆
極寒の北の大地に試される俳優たち。さぞかし辛い撮影だっただろう、苦労が偲ばれる。キャスト発表時には「筋肉が足りない」と批判の声もあった杉元役の山﨑賢人だが、バルクアップして彼なりに肉体を仕上げてきたのは一目で分かる。アクションはもちろんコメディ演技もそつなくこなす器用さ、漫画実写化の主役として引き合いが多いのも頷ける。ほんの序章というところで終わるので結末は続編頼み。今作単体では消化不良が否めない。
マリオン ★☆☆☆☆
はなから「続きはドラマか映画でやります」という思惑が伝わってくる仕上がり。その結果、1本の映画としての山場がほとんどない。メディア展開としては正しいやり方だけど、まずは単体で面白いと思える映画が見たいというのが正直なところ。ギャグシーンも「原作に忠実です」という目配せのように見えるし、劇場では誰も笑っておらず冷めきっていた。原作通りにやれば面白い映画になるわけではないと改めて思い知らされる。
村山章 ★★☆☆☆
原作マンガの豪勢なコスプレまつりであり、ファンサービスとしてはひとつの正解なのかも。しかし結果モノマネ大会と予定調和に終わるので、一本の作品としては食い足りない。原作と脚色についてはいろんな立場があるでしょうが、シリーズ第1クールの総集編みたいで、世界観をガッツリ2時間半くらいに落とし込んだものが観たい。マキタスポーツは出番短いけど再現度に加えて導入部の案内役としてもみごとな仕事っぷり。
哀れなるものたち
2023年/イギリス、アイルランド、アメリカ 1月26日公開
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ
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ギリシャ出身の鬼才ランティモスがアラスター・グレイの同名小説を映画化。身投げした女性の死体を、天才医師が胎児の脳を移植して蘇生させる。”ベラ”と名付けられた女性はゼロから人生を生き直すべく冒険の旅に出る。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★★☆
エマ、なんて恐ろしい子!と「ガラスの仮面」の月影先生になるくらい、エマ・ストーンがすごい。生まれたばかりの無垢な顔、大冒険を経て自我が宿っていく眼力、知性を身につけた微笑み。どんなベラも、生命力にあふれ魅力的で、彼女と一緒に見る世界は、美しくも変てこで残酷でわくわくする。ただし、性に関しても自由に生きるベラの容れ物としての肉体にも生理はあったはずなのに、描かれなかったのだけが気になる。
kaoLi ★★★★☆
見終えた後に残る、爽快感と絶望感。えらいものを見てしまった。騙し絵のように日常に隠されていたモノを、悪趣味とユーモアと耽美で炙り出してくる。刺さるところや嫌悪を抱くところは、まさに自分のなかの膿なんだろう。その反面、今までできひんと思い込んでたけれど、ひょっとしてウチも跳べんじゃないの?と背中を押してくる。終映後、ウチのパフスリーブの膨らみに、キラキラのかけらがいっぱい詰まっていた。跳べるかも。
Taul ★★★★☆
ランティモスがこんな分かりやすいフェミニズム映画を撮るとは。それも得意のシニカルさやセックスコメディは残しつつ、エマ・ストーン映画としての華やかさや、フランケンシュタイン文脈での含蓄がある見どころの多い1本に。男たちが全員、身に覚えがある嫌な面があり、居心地の悪い面白さもあった。ただ原作の奇想天外さを知ると、真っ当さもブラックさもあたり前過ぎで、もう少しこの監督らしい尖った不気味さが欲しかった。
touch ★★★★☆
見た目は大人、脳は胎児に挿げ替えられたベラの奇妙な冒険。好奇心の赴くまま、経験と知性を獲得していく彼女を通して露悪的に描かれる世の猥雑さ、特に性産業のあり様は『バービー』が描かなかったもので興味深い。ただ、明らかに前作が踏み台となっている魚眼レンズの多用はしつこく感じたし、語りは些か冗長で141分が長く思えた。オリジナル脚本でしか味わえないもっと不条理で予測不能、居心地が悪くなる怪談を私は欲している。
マリオン ★★★★★
ベラの大冒険を見ていると自分が今いる世界にどんどん興味が湧いてくる。世界は不均衡なことばかりだし、団結しようとしてもなかなかひとつにまとまらない。それでも学び続けるという強い姿勢とフェミニズムによる自由意志の尊重を高らかに宣言する彼女に感動を覚える。シニカルな作風のランティモスからこんなにも真っ直ぐなメッセージが放たれるなんて思ってもみなかった。不気味なビジュアルや劇伴も尖っていて素晴らしい。
村山章 ★★★★☆
男性優位社会へのアンチテーゼとしての主人公をさすがに理想化しすぎているとは思うが、そこに肉体と魂を与えたエマ・ストーンの吸引力につい持っていかれる。それはとりもなおさずベラに惹かれては情けなさと薄っぺらさを晒す男どもが、思いのほか自分と地続きであると突きつけられる体験でもある。キャラクターや視覚的な面白さにワクワクもしているので、情緒と思考が右左にかき乱されるなんとも刺激的ないい時間でした。
ダム・マネー ウォール街を狙え!
2023年/アメリカ 2月2日公開
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:ポール・ダノ、セス・ローゲン
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富裕層の顧客のために株価が下がるほど儲かる「空売り」を強行する大手ヘッジファンドのやり口を、草の根の個人投資家たちが一致団結して阻止しようとした2021年の「ゲームストップ株騒動」を映画化。ウォール街を揺るがした実在のユーチューバー投資家をポール・ダノが熱演。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★☆
作中で語られる株の用語や仕組みがひとつもわからないし、実際の「ゲームストップ株騒動」も知らない。それでも、重低音の効いたイマドキの音楽とともにめまぐるしく変わる展開と、小口投資家であるネット上のみんなたちの見えない団結は、胸が熱くなるくらいおもしろい。なによりも、アメリカでの株投資のカジュアルさや大富豪がどうやってお金を動かしているのかが画で見てわかりやすく、はーなるほどね、と感心しきり。
kaoLi ★★★☆☆
mixiに踊り狂いクラハに熱狂したウチにとって、まさしく胸熱映画。スマホの株購入完了画面をみて目頭ジワリ。みんなまだ生きているが故に掘り下げられないエピソードの弱さは否めないものの、それを超えてスクリーンからはみでてくる当時の熱気の凄さに大興奮。しかし、エンドロールの「現在では……」テロップがこの映画1番の衝撃。ゲームストップ株に関わった市井の人全員、今現在この瞬間、良い人生おくってますように。
Taul ★★☆☆☆
確かに痛快な話だし、時事ネタをいち早くエンタメにするハリウッドには毎度感心する。でも本作は、各人の思い入れや株取引の勝ち負けを、ノリ重視で善悪の二元論的に単純化してる感じが強くてあまり楽しめず。SNSのポジティブ感や信頼度は既に古い。調べると、ドキュメンタリーのほうが面白かったのではと思ってしまった。この手の映画化は、もっと独自に鋭く切り込んでほしい。事実は奇なりだし、どんどん変化しているし。
touch ★★☆☆☆
株式投資のメカニズムを理解せずとも「巨大ヘッジファンドVS小口投資家」の対決構図はなんとなく楽しめるが、空売りや踏み上げの最低限の説明すら疎かにしていると感じた。騒動の鍵となるポール・ダノ演じるYouTuberがいかにして市井の投資家の支持を得たのか、ミームやフッテージのコラージュだけでは納得感が薄い。矛盾や葛藤を抱えた彼の複雑な内面がもっと知りたかった。影のMVPはミーガン・ジー・スタリオン。
マリオン ★★★☆☆
投資とか株取引とか全然分からない人でも分かりやすくスタイリッシュにゲームストップ株騒動に参加している気分を堪能できる一本。最初は自分の推し銘柄で儲けてやろうぐらいだったはずなのに、いつしかウォール街の金持ちVS庶民の代理戦争になっていくのには思わず熱狂してしまった。また、さまざまな登場人物たちの思惑や矜持も丁寧に描いていて見応えがある。個人的には儲けか信念かで揺れる女子大生2人組が印象的だった。
村山章 ★★★★☆
「空売り」とか「踏み上げ」とか金融用語を調べても半分も理解できないのに、格差社会への憤りを叩きつけるような演技と映像のパワーに気持ちよく乗せられてしまう。クライマックスのカタルシスと金融のカラクリをちゃんと統合できていない自分がもどかしいが、最後にはまんまとこの主人公(なのか実在のモデルなのか)に走り寄って握手したくなった。やっぱりルサンチマンが溜まってんのですよ、下層の人間には。
夜明けのすべて
2024年/日本 2月9日公開
監督:三宅唱
出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦
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重度の月経前症候群(PMS)に苦しんできた藤沢は、やる気なさげな後輩社員の山添がパニック障害を抱えていることに気づく。お互いの症状を思いやり、助け合うようになったふたりの絆を描く。『ケイコ、耳を澄ませて』の三宅唱監督が瀬尾まいこのベストセラー小説を映画化。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
主役のふたりの俳優の演技はすばらしく、とくに、上白石萌音の自分では制御できない感情の爆発はすさまじかった。が、それ以前の物語や設定がすべて中途半端に思えて、1ミリも感情移入できない。暴力的なイラつきはPMS症状の発露であって、それを抱えて向き合って生きていく苦しみや痛みが見えてこないのに、本人も周囲の人間もふんわりしたやさしさで包んで、なんとなく寄り添えたよねって笑いあう姿には違和感しかない。
kaoLi ★★☆☆☆
ウチは薄情な人間なんだと思う。ずっと理想的な箱庭を見ているようだった。スクリーンには、優しい世界がただただ広がっていた。だけど、できることならスクリーンで「その後のすべて」が見たかった。目を背けたくなる地獄の部分を最低限にとどめ、そこに甘いコーティングをしたうえに、実直さでラッピングって。心に明かりが灯る良い話だけど、その分余計にキレイのうわずみをすすった気分になった。ダンは文句なしに可愛かった。
Taul ★★★★★
生きづらさを抱えた人々が、適度な距離感で他者をいたわり合う。そんな家族や恋人でなくてもできる、時代に即した優しさがきちんと提示されていて見事。描写自体も、病気や決断にまつわる劇的な演出をせず、登場人物に寄り添い見守るような語り口で、心が穏やかに満たされていった。さらに繊細なだけでなく、人間関係を星々の営みに接続させる映画的な広がりが素晴らしい。最後は暗闇で人を想う映画体験に重なり、もはや至福だった。
touch ★★★★★
今年ベスト映画候補。発作や症状で無闇に不安を煽らない作劇の誠実さ、経緯・過程・結果をあえて語らない省略の美に痺れた。凡百の邦画ならズームで顔を大写しにするであろうシーンも、適切な距離を保ちながら見守るようにして引きの画のフレーミングに徹する。現実離れした栗田科学はさながらアジールのようだが、こんな会社があってほしいと願いたくなる。この作品こそ「夜の航海を照らす北極星」になり得るのではないだろうか。
マリオン ★★★★★
夜はどこまでも孤独であることを思い知らされ、ちょっとだけ優しくなれる不思議な時間だと思う。誰もが自分だけの地獄で苦しんでいるけれど、近すぎず離れすぎずな距離感で寄り添うことはできる。フィルムに刻まれた人生の営みと余白を想像していくうちに、今作が作り上げた空気感が夜に抱く切なさと優しさと同じであることに気づく。ひとつひとつの小さな人生と星々が輝く宇宙が重なるとき、僕も少しだけ優しくなれた気がした。
村山章 ★★☆☆☆
残念だけど感覚や価値観が合わない。パニック障害やPMS、互助会などを知るきっかけに中学校で上映するのは良さそう。でもこの映画が描く“穏やかで優しい世界”は美しい16mmフィルムの映像もあいまって現実の厳しさを覆い隠してしまっているし、周囲の親切な人たちに辛い過去を負わせる図式も危なっかしい。キャラに個性はちゃんとあるのに役割の方が目立つのも上手いとは思えず。主演2人の演技と松村北斗の発声はとても良い。
ゲ謎に熱くなっていたらQHK(急に「ハズビン・ホテルへようこそ」が来たので)。7話までは「ふ~ん、おもしろいね」くらいだったのに、8話の衝撃といったら……!
はじめまして。人生初のクロスレビューでウチウチ踊ってみました!ウチウチうるさいですが、トットちゃんはトットちゃんだし、ウチはウチやし、これがウチです。ウチウチ☆
最近『千年女優』と『王国(あるいはその家について)』を初めて観たが、びっくりするくらい良かった。映画の可能性って無限だなあと思ったりしました。
十数年ぶりに書き初めをしました。書道用紙の手触り、墨汁の匂い、ひと筆ごとに緊張する感覚にハマりそう。ちなみに書いた今年の抱負は「積読消化」。地道にがんばります……。
「ハズビン・ホテルへようこそ」にどハマり中。キャラクターみんな大好きなんだけど、強いて言うならアラスターが好き。あのラジオボイス、ゾクゾクする。
サファリオンラインに『哀れなるものたち』の解説記事を書いた。1万文字超のやり過ぎ大ボリュームなんであまり読まれないだろうけど読んで。
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