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▶ 今月のお題
・ キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
・ ザ・クリエイター/創造者
・ ゴジラ-1.0
・ フィンガーネイルズ
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
2023年/アメリカ 10月20日公開
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン
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公式サイト
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第一次大戦後、叔父を頼って米オクラホマ州に移住した白人青年が、先住民オセージ族の娘と恋仲になる。その地域では、原油の産出で大金を得たオセージ族に不審死が頻発していた。実際に起こった先住民族の連続殺人事件をもとにした作品。
さとうかずみ ★★★★☆
榎本志津子 ★★★★★
今まで、こんなにディカプリオが輝いた作品があっただろうか(たぶんあるけどわたし史上No.1)。主人公アーネストは、クズの権化で、平気で悪事に手を染める、嘘つきでぺらっぺらの情けない男なのに、演じるのがあの顔面だというだけで無条件に惹きつけられる。206分という長尺にはビビるけど、克明に描かれる闇のアメリカ史と、その時代を生きた男の人生を、リアタイ(※個人の体感です)できると思えば納得の長さ。
Taul ★★★★★
原作の驚くべき歴史の闇を、スコセッシが底無しの沼にズルズルと引き込むように描き切り、凄い見応えだった。しかも白人が映画化する加害性を意識して、白人が救世主になるのを避け、オセージ族への敬意も忘れない。ただ、どう描こうと陰惨な史実を面白く見せてることに変わりはない。それを自覚し、映画で物語ることは残酷な見世物でもあるのだと自戒する巨匠の姿には敬服した。その点では『フェイブルマンズ』に似ている。
touch ★★★★★
齢八十にして映画作りの腕にますます磨きがかかるスコセッシ御大。「シネマに敬意を」の監督の言葉に違わぬ、これぞシネマ!という風格が漂う作品だった。権力に絡めとられていく男の悲哀。裏切りと保身の天秤に揺れる姿は情けなくも他人事とは思えない。前作『アイリッシュマン』とほぼ同じ200分越えの長尺だが、見終わってみれば必要な長さだったと納得できる。鈍重さを感じさせない話運びの脚本、編集の功績を讃えたい。
マリオン ★★★★★
ネイティブ・アメリカンの文化や富を蹂躙していく白人たちの傲慢さや人間の愚かさを206分にギュッと詰め込んで軽妙に描くスコセッシの手練れぶり。事件に関わるダメ男とオセージ族の視点を中心にし、より深く事件の本質に迫っていく。それにしても、いい年した大人がお尻ペンペンされて叱られているのには笑ってしまった。あんな情けない姿をさらしてもアイツなりに頑張って生きたのだと思うと、なんだか元気が湧いてきた。
みえ ★★★★☆
先住民のオセージ族に資産目当ての白人男性が群がり、非情なまでの蛮行を働く酷い話。それなのに驚くほど面白く観てしまう。特にディカプリオが、バカ男なのに魅力的。史実の酷さと映画に感じる面白さの乖離に、ずっと違和感があった。その正体はおそらく、マジョリティが屈託なくマイノリティを踏みにじるときの両者の断絶を、マジョリティ側から見る居心地の悪さ。無神経に奪う側が、ときに魅力的に見える現実も思い知った気分。
村山章 ★★★★★
スコセッシは史実や歴史を背景に置いてもとことん個人(の脆さ)にフォーカスしていく作家だと思うが、みみっちい個人レベルの愚行を細密に描くことが、人類がしでかした歴史的な悪行を暴き出す入口として機能している。デビュー作から一貫して得意なことを研ぎ澄ませていけば、これほどの普遍性とパワーを獲得できるのかと老人監督の伸びしろに脱帽。そして人間の薄っぺらさを演じさせればディカプリオはマジで天才だな!
ザ・クリエイター/創造者
2023年/アメリカ 10月20日公開
監督:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙、ジェンマ・チャン
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公式サイト
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AIにより核爆発が起こった近未来。さらなる悲劇を防ぐためにAIの根絶を目指す人類と、対抗するAIの間で、戦争が激化する。AIを進化させた「クリエイター」の暗殺と最終兵器発見を命じられた特殊部隊隊員が、謎めいたAIの少女を発見する。
さとうかずみ ★★★☆☆
榎本志津子 ★★★☆☆
ザ・OTAKU☆な監督の「好きィ!」が全部、ぎゅっと詰め込まれた1本。オタク作品にありがちな、一人よがりの萌えツボを並べるだけで終わるのではなく、ひとつ一つの描写にもきちんと理由づけがあり、設定から凝るタイプのマニア仕事が垣間見えて好感度爆上がり。自分とは異なる存在とどう共生するのかという普遍のテーマもわかりやすく、壮大な自然の中でストイックに暮らす半メカのAI達というビジュアルもよかった。
Taul ★★★★☆
好きなSFアクションのエッセンスがいっぱいだ。さらに夢想してたような展開で、もはや自分が脚本を書いたような気分に。既視感やいい加減さ(特にごちゃ混ぜのアジア感)も目をつぶりたくなる。クライマックスはオタクならこれが見たかったんでしょ、と言わんばかりの大撃破。まんまと頬を濡らしてた。ゴジラ、SWを監督するも心残りがあったギャレスが好きにやったオリジナルSF。粗も多いが、これぞオタクのファンタジーだろう。
touch ★★☆☆☆
人類存亡をかけた重要任務のはずが無策で全滅。冒頭からバカバカしくて真面目に話の筋を追うのをやめた。文字通りのスリープモードで仲良く揃って充電するアンドロイドたち、警備が数人しかいない人類最重要兵器ノマドの手薄さ。どいつもこいつも不用心がすぎるって。明らかに異質で浮いている勘亭流フォントの日本語テロップは誰も止めなかったのだろうか? リスペクトと称してごちゃ混ぜ盗用されたアジア文化搾取は看過し難い。
マリオン ★★★★☆
アジア地域のリアルな風景に近未来要素を描き足していくスタイルは、無からCGで世界観を作り出せばいいとなりがちな最近のハリウッド大作とは一線を画している。しかも、多様な文化や価値観との共存や調和というテーマとも合致していて見事だ。そして、個人の小さな悲願の成就とカタストロフがオーバーラップするクライマックス。『ローグ・ワン』のときは消化不良でゲンナリしたが、今回は全力でやり切っていて素晴らしい。
みえ ★★★★☆
AIと人間の戦いを描くSF作品はよくあるけれど、本作ではAIにも人間にも多くのグラデーションを持たせているのが良い。ロボットにしか見えないAIもいれば、極めて人間に近い見た目のAIもいる。人間のほうも、頑なにAIを排除しようとする者から共生を目指す者までさまざまで、主人公ひとりの中でも少女を相手に揺れ動く。架空の世界なのに、多民族間で起こる諍いから交流まで、現実そのものを想起させるほどに作り込まれていた。
村山章 ★★★★☆
“白人救世主”を黒人の主人公に置き換えた古い建て付けのお話ではある。が、それでも好感を持ってしまうのは、手作り感と大作感を融合させた温かみと、ギャレス・エドワーズの「こんなSFやアニメが大好きなんです!」という純粋無垢な気持ちがダダ漏れすぎて可愛いから。ロボットやAIが完全に人格として描かれる世界観はファンタジーに近いが、人間もメカも「みんな善き人であれ!」と謳うメッセージ性も素直で可愛い。
ゴジラ-1.0
2023年/日本 11月3日公開
監督:山崎貴
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴
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太平洋戦争末期。特攻機が不時着した島に、島民がゴジラと呼ぶ謎の巨大生物が現れる。生き延びた特攻隊員の青年は自責の念に駆られながら東京に戻り、偶然出会った女性と孤児とともに暮らし始めるが、謎の巨大生物が東京へ近づいていた。ゴジラの生誕70周年記念作品。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
榎本志津子 ★☆☆☆☆
始めから終わりまで、全編通して気持ちが悪い。原因は、登場人物全員のセリフがことごとく軽薄なテンポで発せられ、観ているこちらが思う「間」と合わないところにある。さらに発せられる言葉の内容にも重みがまるで感じられないのに、安直な感動エピソードが仰々しく綴られるのにも辟易した。音程が外れた音楽を、強制的に延々と聴かされるような調子っぱずれの演出も、物語の薄っぺらさも、すべてがしんどい。
Taul ★★★☆☆
ダサい芝居と説明台詞、深みに欠ける人物や訴え、予定調和なストーリー...そんなマイナスだらけも、大暴れゴジラと海上戦の出来が素晴らしくてプラスに。世界に出して恥ずかしくないVFXが嬉しい。伊福部昭の音楽使いはずるいが心躍る。負の要素も、こんな分かりやすさ優先の怪獣映画ならありかなと思わせる。『シン・ゴジラ』やハリウッド版とは違う熱い男たちのドラマ用のゴジラ。いろんなテイストを受け入れるゴジラは奥深い。
touch ★☆☆☆☆
朝ドラ・ミーツ・ゴジラ。主演ふたりをはじめ、大仰なドラマ演技はいわゆる「大衆向けの演出」として甘受されてきたものだが、さすがに目に余る。逃げ惑う人々の切迫感は希薄で、死の匂いが漂うはずの瓦礫の山はやけに小綺麗でリアリティがない。銀座のシーンは原爆のオマージュと思われるが、それを踏まえてのあのラストには閉口。命を粗末に扱っているのは誰か、胸に手を当てて考えてほしい。海神作戦のアイデア賞に★ひとつ。
マリオン ★★☆☆☆
まさか山崎貴作品でこんなに驚かされるとは。海上から迫り来るゴジラの実在感やすべてを焼き払う放射熱線シーンの絶望感など迫力あるVFXの数々に興奮しっぱなしだった。しかし、薄っぺらい人情ドラマと安っぽい演技は見ていられないレベルで苦痛。また、分かりやすくて口当たりのいい感動や団結の名のもとに、戦争の悲惨さや切実な痛みがなかったことにされているようにも見えてしまう。やっぱり山崎貴とは相容れない。
みえ ★☆☆☆☆
ゴジラが顔だけ出して泳いだり、背びれを光らせて熱線を放ったりする姿は面白いなと思ったものの。ここで感動してくださいとばかりに泣き叫んだり、これ見よがしに独りごちたりされると、どうも面白くない。具体的なエピソードがなく感情のこもらない読書感想文を読まされている気分。常套句みたいなセリフばかり並べないで映像で見せてくれよと思った。よく考えたら、それをやってくれたセリフのないゴジラの映像は最高だった。
村山章 ★☆☆☆☆
ゴジラとベタな人情噺をかけ合わせるアプローチは山崎監督なのだから「ですよね」という感じだが、イチから10までわかりやすくお膳立てされた安易なメロドラマにゴジラがつきあわされていて「ゴジラさんをこんな茶番に巻き込まないで!」とアタマを抱えてしまう。まあそれは単に解釈不一致ってことですけど、大前提としてこの深度でしか描かれないドラマや人間造形を見続けるのは拷問に近く、知性への冒涜にすら感じて寝込んだ。
フィンガーネイルズ
2023年/アメリカ、イギリス 11月3日配信(Apple TV+)
監督:クリストス・ニク
出演:ジェシー・バックリー、リズ・アーメッド
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公式サイト
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2人が恋愛関係にあるか否かを爪の検査装置で判定できる世界。検査で同棲相手と相思相愛だと確証を得ていたはずの女性が、新たに働き始めた職場の同僚男性に惹かれてしまう。『林檎とポラロイド』のクリストス・ニク監督初の英語作品。
さとうかずみ ★★★★★
榎本志津子 ★★★★☆
両想いかどうか、爪を見ればわかっちゃう♪というSF(すこし・ふしぎ©藤子・F・不二雄)設定も、リズ・アーメッドとジェシー・バックリーにかかればガチに見えてくる。爪なんか見なくても、こんなにも表情、目線、声音、全部が語りかけているのに! 両想いを測るシステムそのものはふんわりした謎機械なんだけど、現実にあったら、なんでもわかりやすく数値化して、誰かに言いきってほしい現代人には案外刺さるんじゃないかな。
Taul ★★☆☆☆
愛を測定するテストが存在するという設定自体は悪くない。ただ設定に関する一連の描写がお粗末で、SFとしてもメタファーとしても飲み込みにくかった。さらによくある関係性のありふれたメロドラマになっていき、旬の俳優たちでも、引き付ける魅力には欠けていた。丁寧な語り口ではあったが、恋愛偏差値が低い自分には、もっと仕掛けを上手く活かした趣向でないと面白味が掴みにくいのだろう。爪の痛みが心の痛みまで響かなかった。
touch ★★★☆☆
「ギリシャの奇妙な波」のひとりに挙げられる監督らしい不条理な設定。突飛な検査方法の科学的根拠などは脇に置いたまま、駆け引きのメロドラマに終始する。メイン3人の掛け合い、特にジェシー・バックリーの目で語る演技に引き込まれるが、話の起伏が緩やかで間延びしている感は否めないし、一夫一妻制に基づく画一的な恋愛観は窮屈に映る。腕がない人はどうすれば?のようなキレのあるブラックユーモアがもう少し欲しいところ。
マリオン ★★★★☆
もし真実の愛を測定できたとしても愛という概念はどこまでも曖昧なのでは?と思ったらやっぱりそうだった。科学的な診断結果と言われても簡単に割り切れるわけがない。そんな不確かでとりとめのない感情を珍妙な愛情プログラムやありふれた日常の営みから見い出そうとする視点が興味深い。真似事かもしれないし、気のせいかもしれない。でも、本物だってあるかもしれない。数字で表せない可能性こそ人間らしさだと改めて思う。
みえ ★★★☆☆
恋人の携帯電話を見る見ない論争を聞くと、見た結果どう転んでも不幸になるから、信じる決心をして目の前の人だけ見れば良くない?と思う。そんなことを連想しながら、機械が判定する相性に振り回されるカップルの姿のあれやこれやを、楽しく観た。観ている最中は他愛ない話に思えたのに、思い返せば主役のふたりが互いに惹かれていく場面の映像が鮮明によみがえる。何が良かったのかを説明できないけど、不思議と記憶に残った。
村山章 ★★★★★
ソレ絶対騙されてますよ!と拡声器で叫びたくなるようなウサンくさい恋愛判定機が科学として認知された世界。しかし人は“本物の愛”とか“人生の指針”を求めてはとっちらかったことをしでかす生き物なんで、思考停止であろうともこの判定に飛びつきたい心理はわかる。マジメな体を装って映像やセリフで思いきりフザケながら、自分を信じられずに惑う人間の孤独をさらけ出す。それでいてロマンチックも手放さない監督の強さよ!
今月は、インドア人間なのにテントサウナを初体験したり、思い立って菊人形を見に行ったりしたけど最終的には『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が全部かっさらっていった。好き…。
ビートルズの(いちおう)新曲。MVでの亡き2人の合成は10年前ならモラル的にNOと感じたと思うが、あまり不快ではない。技術の進歩と時の流れのせいだろうか。
今年は東京国際映画祭と東京フィルメックスの開催日程がズレたのでどちらか諦めずに回れて嬉しいな〜と浮かれていたら、出費がとんでもないことに。来年は少し控えます…。
友達と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のボードゲームをやりました。協力型のゲームなんですが、惜しいところでミッション達成ならず。次こそクリアしたい!
東京のホテルの高騰に困り果て、新文芸坐に行ってきました。タルコフスキーのオールナイト上映3本立て、宿泊先代わりに最適のプログラムでした。
「エイガノタンカ」というZINEでイラストを描きました。さとうかずみさんが映画を観て短歌を詠み、村山が絵を付けるリレーみたいな趣向。自画自賛だけど面白いので読んで。
メールアドレスの登録で最新号が届きます。次号のお題は『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』『ナポレオン』『マエストロ: その音楽と愛と』を予定!