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そばかす ↗
2022年/日本 12月16日公開
監督:玉田真也
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華、坂井真紀
30歳で実家ぐらしの佳純は母親が強引に進めた見合いの相手と「恋愛や結婚に興味がない」と意気投合。気楽な交流が始まるが…。アセクシャルな主人公の日常を描いたヒューマンドラマ。『ドライブ・マイ・カー』で注目を浴びた三浦透子が初の単独映画主演。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★☆☆
恋愛感情も性欲も感じないような主人公。そのアセクシャルな題材が新しいし三浦透子が自然な感じで体現。30歳のひとりの人間として基本クールに、時に笑い悩む姿に共感した。映画としてはいかにも脚本臭のする分かりやすいアプローチで、テレビの単発ドラマでいいような安っぽさを感じた。ただ日本の現状を考えるとこのレベルがいいのかも知れないし、先ずはこの題材を取り上げて映画作品にしたことは評価したい。
マリオン ★★★★☆
恋愛や結婚が根底にある社会や価値観に対する息苦しさを表明し、世界には同じ違和感を抱いている人がいると寄り添ってくれる。今作が名も知らぬ誰かにとって大切なものになっていると容易に想像できる素晴らしい作品だ。それだけに劇中でアセクシャルやアロマンティックといった単語が出なかったのはもったいない。そこはしっかり表象してもよかったのではないか。ただ、三浦透子と前田敦子の擦れた存在感はずっと見ていたかった。
みえ ★★★★☆
誰に対しても恋愛感情を持てない女性が、他者との関係において日常的に経験しそうなことが丁寧に描かれ、アセクシャルな人の存在が可視化されているところが良い。自身の性分が一般的でないことを自覚するマイノリティの主人公は、世間の常識に沿うよう口をつぐむ。それに相対する多くの人は、自身の常識を振りかざし、理解し合えない原因は相手にあると信じて疑わない。この対立構造を、わかりやすく提示していることがすごい。
村山章 ★★★☆☆
アセクシャルのレプリゼンテーションという意義は理解できるし、より広くアピールするためにはこれくらいの重すぎないタッチが有効だろうとは思う。ただ、わかりやすく見せるためか説明セリフが多く、単純化が過ぎると感じてしまう。とりわけ偏見を抱えた世代の代表としての政治家オヤジのキャラ造形はただのバカな悪党にしか見えない。標的にすべきはもう少し複雑な社会そのものではないか。もっともっと掘ればさらに先へと飛べた気がして惜しい。
フラッグ・デイ 父を想う日 ↗
2021年/アメリカ 12月23日公開
監督:ショーン・ペン
出演:ディラン・ペン、ショーン・ペン、ジョシュ・ブローリン
ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルの回顧録を映画化。父親が犯罪者だと知らずに育った主人公が、幼い頃からの父との複雑な関係を見つめ直す。監督を務めたショーン・ペンたっての希望で実娘ディランが映画初主演。劇中でも親子役で共演している。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★★☆☆
カンヌで酷評もむべなるかな。映画は欧州のリベラルな知識層に背を向けるかのように米国の古風な親子関係や原風景に還っていく。感傷的ショットや娘のアップで語るショーン・ペン。ここまで愚直だと愛おしささえ感じた。16mmで撮られた平原はテレンス・マリックを模倣し美しいし、池の舞台や実の親子の配役で『黄昏』を想起させる味わいがあった。そしてショーン・ペンが娘を愛し、娘は彼を信頼していることは良く分かった。
マリオン ★★☆☆☆
どんな気持ちでこの物語を見たらいいのだろうか。甲斐性なしの父親に優しい眼差しを向ける娘がまったく理解できない。この父親にシンパシーを抱くのはとてもじゃないが無理だ。しかし、父親のダメ人間ぶりをきちんと描いている点には誠実さを感じる。映画の構造が弱さを認められない父親と弱さという真実を見据える娘の対比や愛憎そのものだったのかもしれない。スーツが似合わないショーン・ペンの空虚なワイルドさがおかしかった。
みえ ★★★☆☆
幼い頃に広い世界を見せてくれて忘れがたい記憶とともにある父親が、どうしようもない犯罪者だったとしても、娘にとってはかけがえのない人。その幼少期の記憶が、成長するにつけ父親をめぐる家族の辛い出来事で上書きされていく。そんな、年を追うごとに降り積もる哀しさと、期待を裏切られ続けてなお残る父への思いを、美しい映像を重ねて追うところが良かった。辛い話だけれど、クズ親父っぷりも良くて嫌いになれない。
村山章 ★★★★☆
映画監督としてのショーン・ペンは第一作『インディアン・ランナー』から一貫してアメリカンニューシネマへの憧憬とアメリカ文学の継承をテーマにしてきたように思う。あれから30年以上経ったがペンの嗜好も志向も野心もまったく変わっていない。主軸は常にアメリカンドリームからこぼれ落ちた庶民の業や生き様を見つめること。映像面ではロマンチシズムに溺れがちだが演技や物語は安直な方に流れてはいない。愚直で実直でダサい。でもそこがいい。
SHE SAID/シー・セッド その名を暴け ↗
2022年/アメリカ 1月13日公開
監督:マリア・シュラーダー
出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン
#MeToo運動の起爆剤となったハーヴェイ・ワインスタイン告発報道がいかにして世に出たのか。記事を担当した女性記者ふたりを主人公に、調査報道の舞台裏を描くノンフィクション。事件に関わったハリウッドスターの多くが自分自身や自分の声を担当している。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★☆☆
原作未読。#MeTooを生んだ調査報道と性被害の実情。映画化自体に意義があるし絶妙なキャスティングや被害者本人の登場など見応えがあった。女性たちの奪われた未来や背景にあるシステムにフォーカスしたのもいい。でもエンタメよりにしないのは分かるが1本の映画としては物足りさも。内容を知っていたのと報道映画の傑作群と比べてしまったからかも知れない。なお制作陣に問うことも多くそれが内容にあった真摯な態度だろう。
マリオン ★★★★☆
日常と両立させながら仕事に没頭する女性記者たちの奮闘と綿密な調査活動の過程、社会構造や法システムへの問題提起を丁寧にまとめ上げていて素晴らしい。直接的な性暴力描写を避け、ハーヴェイ・ワインスタインの存在を徹底的に希薄にする製作陣の姿勢や当事者として立ち上がった女性たちの出演も、今作の重要性や意義を象徴しているだろう。映画的なサスペンスは少々物足りないものの、今作の真面目さはすべてに勝る美点である。
みえ ★★★★☆
#MeToo運動の中心にあったワインスタインの悪行に対し、業界全体で被害女性の声を封殺する仕組みを作り上げ、癒えない傷を孤独に抱える女性がどれほど生まれていたか。正直、これほどひどい出来事だったのかと驚いた。観るのが辛いほどの事実ながら、多くの女性が口を開くまでの葛藤や、寄り添いつつ苦しみながら取材を進める記者の姿がテンポよく描かれる。スリルある語り口で興味を引きつつ、問題を広く知らしめている点が秀逸。
村山章 ★★★★★
原作本では著者である記者ふたりがなるべく自分たちを客観視し、報道の経緯と被害者たちに焦点を絞っていた。そのストイックなアプローチを継承しつつ、主人公としてのふたりの葛藤や当事者たちの怒りに寄せていくバランスがとてもよい。また調査報道映画らしく地道ながらもエキサイティングで、終幕の歯切れの良さに惚れ惚れ。彼女たちは必死の想いでやるべきことをやった。そこから先はわれわれ自身の選択であり、結果は歴史が教えてくれるはず。
エンドロールのつづき ↗
2021年/インド、フランス 1月20日公開
監督:パン・ナリン
出演:バビン・ラバリ、リチャー・ミーナー、バベーシュ・シュリマリ
国際的に活躍するインド出身のパン・ナリン監督が、自身の子供時代に着想を得た半自伝的作品。親に連れられて観た映画に夢中になった少年が「映画」を再現しようと創意工夫をこらして奮闘する。インドのグジャラート語圏の映画が日本で公開されるのは初。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★★☆
ノスタルジックさや映画オマージュはたっぷりありながらも新しい視点に触れた感覚。光の芸術である映画の仕組みを改めて知り、フィルム映写の死から輪廻転生のような映画文化の継承に思いを馳せる。「映画になりたい」という台詞が印象的だ。インドと共に映画の未来に向かう少年の心の宇宙を垣間見るような作品だった。『RRR』の路線もあればこういった個性的な映画愛に満ちた作品も生まれ、ますますインド映画が楽しみ。
マリオン ★★☆☆☆
郷愁たっぷりに映画愛を語る映画はたくさんあるが、光とフィルムが生み出す世界の見え方や魅せ方に着目して語るのは新鮮だった。インド映画のイメージとはかけ離れた芸術的な演出にも驚かされる。ただ、映画における「物語」の力が希薄に見えてしまい、あまり響かなかった。また、映画愛や食事描写はやたらと力が入っているのに、家族や友人がただの風景でしかないのも気になる。いい映画だと思うが、自分とはウマが合わない。
みえ ★★★★☆
インドの田舎町の少年が、映画に魅了されて映写の仕組みや光そのものに興味を持ち、映画を作る技術にのめり込んでいく。それは私自身の幼少期の映画体験や初めて映写室に入ったときの興奮と重なり、心躍る楽しさとまぶしさを感じてしまう。これは映画ファンほど感じ入る作品ではないか。少年の目を通して、映画を作る過程と映画が壊れゆく過程を余すところなく見せたうえで、未来への希望を示すようなところが素晴らしかった。
村山章 ★★★★★
映画という表現形態は技術なくして成立しない。カメラ、レンズ、映写機、録音機器などその時々のテクノロジーの集積であり、その根源は「“光”を捉えて、映し出す行為」といっていい。本作はその“光”に魅せられた少年が、いかにして“光”をつかまえ“映画”にするかを論理的に探究する物語でもある。映画愛を謳っていても技術面にフォーカスする映画は少ない。映画を形作るクラフトマンシップを直感的に、かつ理知的に描こうとする姿勢に感動しました。
ノースマン 導かれし復讐者 ↗
2022年/アメリカ 1月20日公開
監督:ロバート・エガース
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ニコール・キッドマン、アニャ・テイラー=ジョイ
『ライトハウス』のロバート・エガース監督が「ハムレット」の元ネタとされる北欧の伝説を翻案。父王を殺された王子の復讐劇をヴァイキング文化や北欧神話と絡めて描く。ミュージシャンのビョークが魔女役で出演。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★★☆
エンタメ大作風だがアート的な要素が顔をだし、アクションが多いのに決めのアップのほうが面白く、現代的な男性性批評もありならがもきっちり残虐な復讐譚をやりきるという不思議なバランスの魅力。当人たちは必死なんだがそれだけに間抜けに感じてしまう可笑しさも。ただ北欧の大地での燃えたぎる咆哮には何度か魂を揺さぶられた。ロケ撮影もいい。黒澤明の『蜘蛛巣城』を思い出すような骨太な作品を今観られるのは貴重だ。
マリオン ★★★★★
高いアート性とリアリズム、冷徹な視点を貫くロバート・エガースの作家性は今作も健在だ。北欧神話と暴力が支配するヴァイキングの世界を贅沢に描きつつ、ヒロイックな物語の裏にある復讐や男らしさに酔いしれる男たちの浅ましさを浮き彫りにする。運命は女性たちの手のひらで転がされ、その事実に目を背けたい男たちは破壊の限りを尽くす。勇ましさと滑稽さが入り混じる全裸決闘など野蛮な価値観や風習に鋭い批評性が宿っていた。
みえ ★★☆☆☆
王である父を殺され国を追われた少年が、父の復讐と母の奪還を心に誓うこの話。この作品にこんなことを言っては身も蓋もないだろうとは思いつつ、ずっと復讐のことばかり考えている陰鬱な姿を2時間以上見せられるのは、楽しくないんだよな。とはいえ、筋肉隆々の肉体美を披露しながら無慈悲に敵をなぎ倒すアクション場面は圧巻だし、色彩を抑えた映像の美しさもあるし、キャストも豪華だしで、見ごたえは十分だった。
村山章 ★★★★☆
北欧神話に根ざしたカルト信仰にどっぷりなヴァイキングが復讐をめぐって殺し合う仁義なき全裸劇。知識が乏しく時代考証が正確かは判断できないが、とにかく野蛮すぎる世界観とイカれた描写のオンパレードで笑いっぱなし。登場人物の価値観を現代に適合させるような忖度はナシ。ガオー、ゲップ、オナラプー、ワオーン、コロスゾー、ワオーン。しかし表向きの英雄譚の裏に暴力や復讐の虚しさが漂っているのもいい。予言の剣は思いのほか弱い。