13人の命 ↗
2022年/米 Amazon Prime Videoで配信中
監督:ロン・ハワード
出演:ヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレル
2018年にタイで起きたサッカー少年たちの洞窟遭難事故と、のべ一万人が参加した救出活動を映画化。アメリカでは劇場公開されたが、日本では配信のみでリリース。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★★☆
ロン・ハワードのベテラン風味とバランス感覚の勝利。欧米の有名俳優を使いながらもハリウッド的扇動は控え目に長尺を丁寧に描ききる。まさに体感するような緊張感で世界中が協力し見守った救出劇に合っている。ヴィゴやコリンもいい感じの地味さでベテラン救助隊員にしか見えない。困難さを予感させる序盤の救出、子どもたちを見せない時間、サスペンスを明確にして転がすなど映画話法のお手本だらけ。こんなの劇場で息をつめて見たかった。
まな ★★★☆☆
余計な演出や改変を極力削ぎ落とし実話モノのお手本のよう。事実がそもそもストーリーとして強すぎる。さまざまな人の尽力にスポットを当てた点は良かったしそこらの適当なアクション作品よりよっぽど気をつけていたとは思うが、もっと白人救世主感は減らせたと思う。
マリオン ★★★★☆
主役級のスター役者から名前も知らない脇役まで登場人物たちの顔が鮮明に思い出される。それは多くの人々によって奇跡が生まれた事実を雄弁に語っていると言える。救出に尽力した様々な人物に光を当て、過度なドラマチックやヒロイックを排して事実や仕事を描写していくロン・ハワードの職人的な堅実さがなければ、ここまで多面的かつ誠実に奇跡の理由を描くことはできなかっただろう。2時間半の長尺を感じさせない力作だ。
みえ ★★★★☆
タイの洞窟での決死の救出劇と奇跡の生還の実話は、昨年公開のドキュメンタリー『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』が素晴らしく、それを超える映画はないだろうと高をくくっていたら、面白すぎて脱帽。常に死の危険が迫る洞窟で、子どもの命を運ぶ重責と緊張を感じ続ける約2時間半は、長尺なのにあっという間。エンドクレジットで監督がロン・ハワードだったことを知り、そうとは知らず侮ってすみませんとひれ伏した。
村山章 ★★★★☆
基本的に英国人ダイバーの視点がメインで遭難側の事情が最小限なのは、Netflixが子どもたちの体験談の権利を早々に買ったかららしい。が、「救出する側の物語」に限定されたことが本作では功を奏したのではないか。実際に起きた事件が緊迫の連続だし、ハリウッドでは定番の過剰な脚色を排したことで現場を間近で目撃しているような臨場感が生まれた。ハリウッドの申し子でありながらも従来の話法に頼らなかったロン・ハワード68歳に拍手。
ブレット・トレイン ↗
2022年/米 9月1日公開
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ブラッド・ピット、真田広之
復帰したばかりの不運な殺し屋レディバグが、東京から京都にアタッシュケースを届ける依頼を請けるが、各車両には曰く付きの殺し屋たちが乗っていて……。伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」を映画化したアクションコメディ。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★☆☆
伊坂幸太郎の浮世離れした殺し屋世界の実写化はハリウッドのお祭りアクション映画に合っていた。日本描写もトンチキなりのアイデアや批評性があり、インバウンド向けの列車企画の参考になるのでは。序盤の語り口が拙くてどうなるかと思ったが、名古屋過ぎての富士山や無人駅のような米原でいよいよ笑えるしアクション多めになって面白さが加速。真田広之リスペクトと暴走列車のやりきりで降り際には結構満足な列車の旅になった。
まな ★☆☆☆☆
伊坂幸太郎小説の苦手な部分(押しつけのカッコよさ、チープなキャラ萌え)がハリウッド化することでさらに鮮明になったようで、ユーモアセンスが一切刺さらなかった。メンタルヘルスに気を遣う物分りのいい不運な俺やれやれ、という白人男性大スター主役の構図も内輪ノリカメオもいらない。女性キャラやゲイキャラの扱いも酷い。トンチキジャパンも中途半端で成功していないが、そこに乗ることを全力で引き受けた真田広之のカッコよさは格別だった。
マリオン ★★★☆☆
珍妙な日本を舞台にガイ・リッチー作品のようなクセの強い登場人物たちが気まぐれな運命に振り回される。しかし群像劇としては話運びが拙く、序盤の乱雑さは見るに堪えない。それでも真田広之がブラッド・ピットと対等に並ぶのを見たとき、すべてを許してしまう自分がいた。またレール上を走る新幹線が象徴する強い運命性も味わい深く、運命が怒涛の勢いで思いもよらぬ方向に繋がる様は痛快だった。ヘンテコだが愛してあげたい1本。
みえ ★★★☆☆
日本を舞台に、東京から京都まで疾走する特急列車で繰り広げられるアクション。その列車は、新幹線の経路を走っているはずなのに異国感にあふれている。そんな次元が少しずれた感のある日本で、悪運か強運か偶然か必然か、殺し屋が巻き起こす騒動が、ブラッド・ピットの困り顔も含めてひたすら楽しい。本作の原作は未読ながら、伊坂幸太郎の原作に常にある軽快な滑稽さが感じられたのも嬉しかった。
村山章 ★★★☆☆
わちゃわちゃと右往左往するブラッド・ピットは可愛いし、予想外に群像劇でキャラそれぞれの魅力もある。眼の前を通り過ぎるドタバタアクションを眺めているだけで座持ちするが、物語は入り組んでいるわりに奥行きがなく、途中からどうでもよくはなる。日本の描写や地理はムチャクチャだけど、ネットで話題になってるように米原駅の佇まいだけはやけに現実に近い。確かに米原ってあんな風にいつも寂しい。
LOVE LIFE ↗
2022年/日本 9月9日公開
監督:深田晃司
出演:木村文乃、永山絢斗、砂田アトム
夫・二郎と前夫との息子を育てる妙子の幸せな日々が、ある悲劇をきっかけに決壊。妙子はろう者の前夫の世話に入れ込んでいく。深田晃司監督が矢野顕子の同名曲にインスパイアされた人間ドラマ。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★☆☆
『本気のしるし』で突き抜けた面白さに達した深田晃司監督。本作は家族に起きる不条理な出来事が展開する得意な内容に。冒頭陽光を浴びた団地で朝ドラのような雰囲気も実はもうすべてが不穏だ。そして思惑が露わになっていく人間模様の妙。親と同じ役所仕事で職場恋愛という狭い世界で生きる夫の整然としてるようで浮いた言動がイタい。全体に頭でっかちな印象だし不確かさの先が見たかったが、ラストの切れ味は凄い。
まな ★★☆☆☆
冗長さを感じさせない絶妙な撮り方が素晴らしい。一方で所々作り話感が強く説明の多い脚本や演技とは噛み合っていない気がした。どこか生気なくも直情的な登場人物たち、どうしようもない人間の性といった話に惹かれず。当事者によるろう者の表象は喜ばしいが、手話のコミュニケーションがほしいがための起用のような印象にモヤモヤが残る。うちのお店の目と鼻の先で撮影していたとは!
マリオン ★★★★★
他者との断絶を感じながらもそれでも人は関わり合って生きていくというテーマやわざとやっているのではないかと思うぐらい不条理で卑近なやり取りの数々に複雑な人間味と愛することの身勝手さ、そして人生が詰まっている。愛を求めるあまり迷走する妻が達する不条理と「こんなときにも目を見て話せないのね」と言われてしまう夫のふがいなさをすべて包み込んでしまう極致のクライマックスはきっとこれからも忘れられないだろう。
みえ ★★★★☆
人生を揺るがす突然の出来事を前に、普段とは異なる人間の一面が見える。今まで見えていなかった近しい人の別な面が見えてくる。そんな瞬間を映し続けるこの作品は、静かに進む画面と裏腹に、感情を大波でさらっていく。発話と手話、日本語と韓国語など、コミュニケーション手段と言語が複数入り混じる中、他者との関係や向き合い方が変化していくさまが丁寧に描かれているのが良かった。
村山章 ★★★★★
無神経だったり自分勝手だったり気遣いが頓珍漢だったり、とにかく間違いをしでかす人だらけ。当然軋轢も生まれるが、他人と他人、妥協は必要だし折り合いがつかないこともあると知ってる(もしくは学ぶ)くらいには大人なお話。もしかするとこの映画は「人間、自分にも他人にもこれくらい正直でいい!」という祈りなんじゃないか。暗いようで心底可笑しい瞬間もあり、諦念とは別種の共存が示されるラストもいい。どんなときも空腹はよくない。
雨を告げる漂流団地 ↗
2022年/日本 9月16日公開・Netflixで配信中
監督:石田祐康
出演:田村睦心、瀬戸麻沙美
『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督によるオリジナルアニメ。幼なじみの航祐と夏芽ら6人の小学6年生が取り壊しが決まった廃団地に忍び込むが、なぜか団地棟が大海原を漂流しはじめ、子どもたちのサバイバル生活が始まる。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
Taul ★☆☆☆☆
劇場で鑑賞。団地を舞台にしたひと夏のジュブナイルもので冒険ファンタジー。そのアイデアにはワクワクしたしスペクタクルな表現はなかなかだったが、子どもたちがずっと仲違いして叫んでいるので苦痛。スピリチュアルな要素も物語にうまく溶け込んでいないのでは。とにかく全体に語りが右往左往し過ぎだし冗長で、こんな夏早く終われと思ってしまった。
まな ★☆☆☆☆
ずっと叫んでいてつらい。子どもに大人みたいなツンデレをやらせて満足している大人の顔が見えるようでつらい。子どもがたくさんケガをするのでつらい。そこだけのリアリティはいらない。タイトルに持ってくるほど団地である意味がない。
マリオン ★★★★☆
子どもたちが半端な別世界を冒険し、半端に成長して戻ってくる退屈な日本製アニメ映画が乱発する昨今、子どもたちの成長やキャラクターに真実味や説得力を感じさせてくれる今作は貴重だ。そして子どもたちは失われゆく風景や思い出に別れを告げる。ノスタルジーに後ろ髪を引かれながらも未来へと歩む子どもたちを見て、大人になりきれない自分は大いに感動するのだった。石田祐康がどこまでジュブナイルにこだわり続けるのか楽しみである。
みえ ★★☆☆☆
幼い頃の悲しい記憶にとらわれ、その正体を明確に自覚できないまま、前に進めなくなる。そんな行き場のない心情を、漂流しながら描くところは良い。ただ、そんな思いを抱えた少女と幼なじみの少年の2人の話が大半で、他の登場人物には特段の物語がない。それにもかかわらず少年少女7人の冒険ものにしたところが残念。この形で上映時間が120分もあるなら、もっと7人それぞれに物語がある群像劇が観たかった。
村山章 ★☆☆☆☆
のべつまくなしに気持ちばかり叫ばれてこまる。こじらせて素直になれないルーティン、悪態つくけどホントは仲良しルーティン、ツートップでアシスト&シュートルーティンを何度も執拗に聞かされてもう勝手にどうぞという気持ちになる。悩める小学生に対して大人気なくてごめんなさい。でも説明的なセリフの大声合戦で、映像のカタルシスどころじゃなくなってもったいない。あと、さとうさん、航祐が夏芽に名前で呼びかける回数は42回でしたよ。
秘密の森の、その向こう ↗
2021年/仏 9月23日公開
監督:セリーヌ・シアマ
出演:ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス
8歳のネリーは亡くなった祖母の家の側の森で、母と同じ名前を持つ少女マリオンと知り合う。彼女の家に招かれると、そこは自分が泊まっているはずの祖母の家だった……。双子のサンス姉妹が主演した幻想譚。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★★★
『燃ゆる女の肖像』からすると物足りないかと思っていたらこれはこれで完成度の高い傑作だった。想像していた内容なのに新鮮、映画技法に溢れてるのに自然、ミニマルなのに壮大という素晴らしさ。少女たちが劇を作って演じることでよりマトリョーシカ的な映画マジックを纏う。祖母~母~娘の話だが男の自分でも心の小部屋にある忘れていた感覚を蘇らせてくれるような作品に。セリーヌ・シアマは今最高の状態にあるのでは。
まな ★★★★☆
子どもの表情と余白が光る小さな宝石のような一品。セリーヌ・シアマ監督自身が手がけたスタイリングと森の色彩、シアマ作品常連Para Oneのスコアがピッタリ噛み合う。大人びた良い子すぎる感じはあるものの、この短さならひと時のファンタジーとして納得はできる。
マリオン ★★★★☆
嘘っぽく感じない子どもたちの振る舞いや軽やかに時空を飛び越える大胆さ、祖母、母、娘の3世代の目に見えない絆や喪失、不安を見つめる優しい眼差しなどセリーヌ・シアマの演出力は相変わらず素晴らしい。多くは語らないし、どこまでも淡い。しかしかけがえのない尊い感情が熱を帯びて伝わってくる。ただあらゆる面で圧倒的だった『燃ゆる女の肖像』にノックアウトされた身としては、少々物足りなく感じてしまうのが本音ではある。
みえ ★★★★☆
8歳の少女が祖母の家や森で体験する困惑の出来事を、少女の行動や態度と、家のたたずまいを映すだけで表現していくのが見事。少女の困惑を追いながら、少女の母や祖母に対する思いも、出会った少女に対する思いも、台詞で説明するより映像で見せていくところが、とても映画的で気持ちいい。わずか73分の上映時間に、映像から伝わる少女と母と祖母の感情が詰まっていて、もう一度最初から観たくなった。
村山章 ★★★★☆
前作『燃ゆる女の肖像』に輪をかけてシアマの演出はつけいる隙がない。感傷に頼らず、ミニマリズムを極め、親子三代分の喪失と再生を73分に封じ込める。ほとんど完璧であるがゆえに感動より感心と畏怖が勝ってしまうのが、今のシアマの凄みであり弱点かも。あるシーンで子役たちの素が見えるのは観客に愛されるポイントだと思いますが、そこまでの演技が上手すぎるし声のトーンも違うしで、キャラ変わってね?と軽く引いてしまう派。