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ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界 ↗
2022年/アメリカ 11月23日公開
監督:ドン・ホール
出演:ジェイク・ジレンホール、デニス・クエイド、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
伝説的冒険家の父を持つサーチャーは落ち着いた暮らしを求めて農夫になり、愛する妻と息子イーサンと幸せに暮らしていた。しかし国のエネルギー源となる植物が絶滅の危機に瀕し、原因を探るため地下世界に向かう。親子三代の冒険を描いたファンタジーアニメ。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★☆☆☆
吹替版で鑑賞。美しいがどこか気味悪いビジュアルの世界観はアニメとしての見ごたえがあった。ただのりきれなかったのは、あまりに軽くて何でもありに感じてしまうファンタジーやポリコレ要素。多様性、SDGs、父権の問い直しも帰着ありきのような早急な語り口で作品の面白さには寄与せず。全体に薄味で大人には歯ごたえがないように思ったが、子どもたちの教材用としてはいいかも知れない。
まな ★☆☆☆☆
ディズニー初のオープンリーゲイのメインキャラクターが登場し、属性が何の苦悩にも結び付けられない描き方をされている意義は大きい。しかしそれ以外は、とにかくオリジナリティがなく、肝心の世界観やキャラクターデザイン、物語含めワクワクする要素がない。生物多様性の取り込み方も詰めが甘く、相変わらずの"家族押し"も居心地が悪い。人はなにか"レガシー"を残そうとするもんだという刷り込みをやめてほしい。
マリオン ★★★☆☆
親子三代にわたる世代間ギャップや父権のあり方をエネルギー問題と重ねているのが面白い。当たり前だった概念や価値観が未来を妨げるものになってしまったとき、どう折り合いをつけるのか。冒険の果てにある答えは世界が必要としている理想だろう。ゲイキャラクターやハンディキャップのあるキャラクターが自然に溶け込んでいるのも素晴らしい。ただパルプ・マガジンから着想を得た冒険物語やビジュアルに新鮮味は感じられず。
みえ ★★★☆☆
迷い込んだ地下の異世界で、その成り立ちや秩序がよくわからないまま目にする多様な生態系と不思議な景色が、冒険を楽しませてくれる。世界を自分たちの常識で制御しようとする親世代と、その世界なりの秩序を理解しようとする子供世代の衝突は、ありふれた話に思える一方で、同性愛的な指向や右足のない犬といったマイノリティを特別視することなく存在させている点は新鮮で、嬉しい驚きがあった。
村山章 ★★☆☆☆
奇妙な世界観を押し通すビジュアルとデザインの力では『アバターWOW』よりも成功しているのではないか。ただ、そこに乗っけるストーリーとキャラクターがとにかく類型的でつまらない。家父長制の悪しき継承を断ち切るというメッセージも、結局はアメリカ映画が大好きな「ウチの家族最高!」の枠から抜けられないせいで中途半端なところにしか着地せず、もっと意地の悪いクリエイターが手を出すべきだったのではという気がする。
あのこと ↗
2021年/フランス 11月24日公開
監督:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール
中絶が違法行為だった1960年代のフランス。予期せぬ妊娠をしてしまった大学生のアンヌは、将来を切り開くためにも学位を最優先しようと中絶するべく奔走するが……。作家アニー・エルノーの自伝的小説を映画化。第78回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★★☆
最近望まぬ妊娠や中絶を扱った作品が多いが、その中でも例えば『17歳の瞳に映る世界』より孤独な絶望感、『TITANE』よりリアルな痛みを感じた。もはや強烈な疑似体験のようで『サウルの息子』を思い出す画角や撮り方だし地獄を味わう感覚も似てる。そして男性側や周りの反応も分かる自分がいてそれがまた辛い。終盤あるものを渡されるのは観客であり社会への訴えだろうか。この痛みを忘れないよう刻まなければいけない。
まな ★★★★☆
一緒にロードトリップに出てくれる友人や、助けてくれる組織はない。カメラは孤独な主人公をずっと見つめており、同じ題材を扱ったほかの作品と比べて不安や痛みがより鮮明に伝わってくる。終始美しい撮影からは、目を背けさせまいとする意思、これもホラーなどではなく一人の日常なんだという作り手の目線が感じ取れる。あらゆるものをそのまま映し出す姿勢は称賛したいが、性的消費されないか少し怖い。
マリオン ★★★★★
凄まじいの一言に尽きる。オードレイ・ディヴァンは狭い画面比率や至近距離からの撮影、妊娠週を示すテロップ、緊迫感のある音響設計を駆使し、望まぬ妊娠が発覚した主人公の切迫した状況を追体験させる。そして痛々しい中絶描写は女性を取り巻く不合理を決して他人事にさせないという強い意志と覚悟の表明だ。幸運にも主人公は過酷な状況を生き延びたが、彼女のようにできなかった女性が今も生まれ続けていると思うと辛かった。
みえ ★★★★☆
堕胎が許されず、妊娠すれば未来のキャリアも断念して出産せざるを得ない状況下で、思いがけず妊娠が判明した女性が追いつめられていくさまが、心身ともに生々しく描かれるのがすごい。自身の行為の先に待つ出来事をうまく想像できていなかった女性がたどる混乱や、なすすべもなく過ぎる時間とともに増大する不安を、身体の痛みを伴って追体験させられるよう。現実的な想像がついていない若い女性や男性に、ぜひ見てほしい。
村山章 ★★★★☆
主人公の閉塞感とシンクロして息苦しさを煮詰めていく映像と、堕胎のタイムリミットが時を刻む地獄めぐりの切迫感。主人公だけを追い続けたホロコースト映画『サウルの息子』方式にこんな活用法があったのかと目からウロコ。女性の身体を映す際のフラットで遠慮のない視線には性に余計な幻想を押しつけない風通しの良さがあり、映画表現と時代感覚を一段先に進める強い意思を感じた。あと映画の良し悪しとは別に性教育教材として全中学生が観るべき。
MEN 同じ顔の男たち ↗
2022年/イギリス 12月9日公開
監督:アレックス・ガーランド
出演:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エシエドゥ
離婚寸前だった夫ジェームズの死を目撃したハーパーは、心の傷を癒やすために田舎の村の邸宅をレンタル。しかし行く先々に同じ顔をした男たちが現れ、ハーパーの精神を追い詰めていく。小説家としても名高いアレックス・ガーランドが監督したサイコスリラー。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★☆☆
男たちは皆同じとばかり有害な男らしさだらけの田舎町。もはやありふれた題材だしよく見る展開だが、アレックス・ガーランドは主人公のトラウマをまぶし、フェミニズムから変態描写までをおぞましくミックスして面白がらせる。テーマや人物の掘り下げは弱くホラー味も不気味さを超えるまでいかないが、とにかくジェシー・バックリーに呆れかえられるのを撮りたかった印象。それもまた男の願望であり作り手含むメタ的なタイトルになった。
まな ★☆☆☆☆
どうだすごいだろうキモイだろうと言われてるように感じてしまい、それ以外のものは特に受け取れなかった。
マリオン ★★★★☆
抽象的なモチーフと意表を突く演出を用いて、女性に身勝手な愛と服従を求める男たちの間違った認識を浮き彫りにする。歪んだ男性性が文字通り再生産される展開には悍ましさと呆れしかなかった。しかし対話を通じて問題を提起するアレックス・ガーランドには疑問も。男たちに理由なき業を背負わされてきた女性からしたら、既に対話の次元は超えてしまっているのではないか。それほどまでに非対称な社会構造は根深い問題なのだ。
みえ ★★★☆☆
トンネルで、ただ自分ひとり楽しんでいただけなのに、いつの間にか見知らぬ男に目をつけられ、常に背後を脅かされるあの感覚。過去にそういう男と関わってしまい、執着された経験があれば、なおさら。女性なら日常的に意識せずにはいられない男女の体格や腕力の差から来る恐怖心や、男性に執着されるときの気持ち悪さを体感させてくれるのがすごい。そこに嫌悪感を抱きつつ、男性にこの感覚が伝わるなら良いのではないかと思った。
村山章 ★★★★☆
どんな話か説明しろ言われたら非常に困るシュールさだが、とにかく女性蔑視とマザコン精神にあふれた男たちが、かまってくれかまってくれと女性に迫ってはウンザリされる寓話だと受け取った。そんな気持ち悪さがコントの域にまで達する終盤のマトリョーシカ芸はもはや笑うしかない。そして情にほだされたりすることなく、ちゃんと全力で男たちにウンザリしてるジェシー・バックリーの表情が最高。ホント甘えてる場合じゃねえんですよ、男どもは。
ケイコ 目を澄ませて ↗
2022年/日本 12月16日公開
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、仙道敦子
ろう者というハンデがありながらプロボクサーになったケイコだが、2回目の試合が近づく中で心が揺れていた。さらにオーナーの病気と経営不振によりジムは閉鎖の危機を迎えていた。実在の元プロボクサー小笠原恵子の自伝に着想を得たヒューマンドラマ。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★★★★
日本の今とコロナ禍の感覚が詰まっていたし自分の経験とも重なりじっくり感情を揺さぶられ、終盤ノートにまつわる描写で堰を切ったように涙が溢れ出た。抑制された描写なようで動きと心情、音に溢れたショットの数々。それを逃すまいと自分の感覚が研ぎ澄まされていき映画館で映画を観ている喜びに浸る。16mmフィルム撮影がこれ程美しいとは。人と街と時間をちゃんと切り撮る、それだけで映画はいい。そんなことさえ思った。
まな ★★☆☆☆
日常を淡々と描くアプローチは好みのはずだが、いまいち面白みを見いだせず。タイトルと違い、カメラはケイコ目線になることもなく音が強調されているので、観客は耳を澄ますことになる。監督は「ケイコをわかった気にはさせたくない」、「他者として、どれだけ想像し直し続けるかが大事」、「それが正しいのか、まだ全然わからない」とも語っているが、私にもどう受け取ってよいかがわからなかった。声を出させるシーンは疑問。
マリオン ★★★★★
誰もがままならない世界や人生を生きている。もはや当たり前すぎて認識できない刹那的な真理を16mmフィルムに収め、日常に紛れた声にならない心情と葛藤に目を澄ませる。コロナ禍という今を切り取り、映画的にコミュニケーションの神髄に触れる三宅唱の手腕に完全にノックアウトされた。夜の美しさも岸井ゆきのの存在感も目に焼きつく。現実は撤退戦や負け戦ばかりなのに、なぜか突き動かされてしまう。その衝動が尊かった。
みえ ★★★★☆
ケイコの日常にあふれる音や周囲の人の声とともに、ほとんど言葉を発しないケイコの姿を追う展開により、耳の聞こえない人がごく当たり前に暮らす世界が見えるようなところは、ちょっとこれまでに見たことがない。障害を前提とした生活が聴者の日常に溶け込みすぎているがために起きる行き違いや、ケイコの諦観と孤独は、程度の差こそあれ周囲との違いからくる生きづらさを抱えるすべての人の心を打つように思う。
村山章 ★★☆☆☆
ろう者のボクサーが存在している街の風景を過剰に盛ることなく映す。環境音を主体にした音響設計も含めてこのコンセプトに意義があるのはわかるのだが、だからといっておもしろくはない。外から自分を閉ざしていた主人公が、他人への信頼や日常的な交流を通じて少し成長するという筋立ても、ストイックなアプローチを凡庸に見せてはいないか。真摯な姿勢も伝わるし、世間の絶賛が聞こえる中で肩身が狭い気持ちですが、おもしろくはないんです。
アバター:ウェイ・オブ・ウォーター ↗
2022年/アメリカ 12月16日公開
監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー
ジェイクがナヴィ族の一員として惑星パンドラに住みついてから10数年。パンドラのエネルギーを狙う地球の宇宙船団が再び来襲。自分が標的になっていると気づいたジェイクは、家族ともども海の部族のもとに身を寄せる。全5部作となる予定のSFシリーズ第2弾。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★★☆☆
IMAXレーザーGTで鑑賞。凄い映像、古臭いお話、しつこいクライマックスのキャメロン味全開。そんな中、水やナヴィの表現が予想を超えてきて圧倒的。HFRのヌルヌルは水中に合っていたし、3Dはギミックでなく臨場感のためで、自然に没入できる体験型ムービーとしては素晴らしかった。ただ全世界の家族向けとはいえテーマやドラマがあまりに古くて薄っぺらいのも事実。映像技術は別にして今後の興味は薄れた印象も残る。
まな ★☆☆☆☆
後退した価値観を一緒にバラ撒かねば新しい技術を見せられないならそんなものやめちまえ。こんなに都合の良い自然と文化盗用まがいの世界観しか描けないでなにが環境保護だ。そもそも注目に値しない。
マリオン ★★☆☆☆
美麗すぎる映像へのこだわりや息をつく暇もない活劇の連続はジェームズ・キャメロンが凄腕の映画作家であることを思い出させてくれる。CGが当たり前な時代に、映像に驚かされる体験を今でも観客に提供できるのは凄いことだ。しかし3時間も薄っぺらい物語に付き合わされるのはきつい。家族観は化石のように古臭く、自然に対しては無邪気な幻想を抱いている始末。自然に魅入られているのは結構だが、夢を見過ぎなのではないか。
みえ ★★★☆☆
森から海へ、水中へ。青い異星人の暮らす世界で躍動感あふれる動きを見せる映像が素晴らしく、長尺を忘れて見入ってしまう。『アビス』でも『ターミネーター2』でも『タイタニック』でも、それぞれの時代で世界を拡張するような驚きをもたらしてきたジェームズ・キャメロン監督が、また一歩先の映像世界へ連れていってくれた感動がある。その一方で、あまりに前時代的な家族観を押しつけてくる父親を中心とした物語には辟易した。
村山章 ★★☆☆☆
暴力の連鎖やマチズモの加害性といったテーマは今後の3作で掘り下げるための前フリだと思うんだが、今のところ「父さん間違ってた!みんな自分らしく生きろ!」という1億回くらい語られてきたオチに行き着くとしか思えず、早く反省してくれよという気にはなる。スピリチュアル感が強まったロハスでエコなパンドラツーリズムについては自分は違う旅がしたいんで離脱します。あと青春パートのダサさよ。キャメロン昔は脚本上手かったんだけどなあ。
さとうかずみ
Taul
2022年新作映画ベスト5
①トップガン マーヴェリック
②ケイコ 目を澄ませて
③コーダ あいのうた
④スティルウォーター
⑤TITANE チタン
まな
2022年新作映画ベスト5
①ファイアー・アイランド
②私ときどきレッサーパンダ
③RRR
④スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
⑤バルド、偽りの記録と一握りの真実
マリオン
2022年新作映画ベスト5
①わたしは最悪。
②TITANE/チタン
③アフター・ヤン
④窓辺にて
⑤すずめの戸締まり
みえ
2022年新作映画ベスト5
①ロスバンド
②秘密の森の、その向こう
③RRR
④トップガン マーヴェリック
⑤マイスモールランド
村山章
2022年新作映画ベスト5
①画家と泥棒
②デュアル
③シャドウ・イン・クラウド
④エルヴィス
⑤ホワイト・ノイズ