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バーバリアン ↗
2022年/アメリカ 10月26日配信
監督: ザック・クレッガー
出演:ジョージナ・キャンベル、ビル・スカルスガルド、ジャスティン・ロング
仕事の面接でデトロイトにやってきたテスが予約した民泊には、キースと名乗る先客がいた。見知らぬ男性を警戒しつつも一晩だけ宿をシェアすることになるが、地下室にはさらに恐ろしい事態が待ち受けていた。18歳以上推奨の全米大ヒットホラー。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★☆☆
デトロイト郊外の廃墟地区という舞台をうまく利用した民泊ホラー。テーマ性や脱ジャンル感が強めの最近のホラーからすると物足りなさもあるが、引き込み方が凝ってるのと堅実な演出できっちり怖い作品になっていた。アメリカ郊外の家の闇はやはり深い(笑)。急に途切れてしまったような転換はヒッチコックのあの古典スリラーを初めて見た時の感触があった。「見えない時」と「よく見えてるが謎な時」人は怖ろしく感じるのだろう。
まな ★★☆☆☆
序盤の男女の掛け引きは緊張感がリアルで、ホラーにもラブコメにも転じられるワクワク感とビル・スカルスガルドの怪しさの残る好青年のハマり具合に唸る。その先は疑問ばかりになってしまいトンチキとして楽しむこともできなかった。フェミニズム要素も浅い。
マリオン ★★☆☆☆
女性が見知らぬ男性と過ごすときに感じる潜在的な不安や#MeTooムーブメント、ミソジニーを拗らせた有害な男性性、歪んだ母性観といったフェミニズム文脈を散りばめているのは好ましい。しかしモチーフをただ並べただけで焦点がボヤけてしまい、最後まで展開が読めない話運びも十分に機能していない。ただ行き場をなくした人間の業が渦巻くデトロイトの廃墟群や母性の権化と化した「彼女」の悲哀は強烈な印象として残った。
みえ ★★★★☆
Airbnbで宿泊予約をしたはずの一軒家に、ダブルブッキングで見知らぬ男が先に宿泊していたら。好青年に見える男性でも、ひとつ屋根の下でともに夜を明かすことになれば、女性の恐怖心や警戒心は計り知れない。このリアルさが恐ろしい。そう思っていたら、そこから飛躍して、どこに行き着くのかわからない展開を見せるのも面白い。人は見た目によらないし、自身にまったく非がないことを主張する男のクズっぷりも見事だった。
村山章 ★★★☆☆
図らずも今回の5本はすべて喪失にまつわる映画で、中でも『バーバリアン』と『すずめの戸締まり』が対になっている偶然に驚いた。『すずめ』は震災を、とりわけ東日本大震災をダイレクトに扱っていて、被災した人々と土地への鎮魂がテーマ。しかし新海監督とは「死生観や世界観が違いすぎるよ!」としか言えないくらい違和感と断絶があった。現実の災害にフィクションを持ち込む難しさは覚悟での上の創作だと思うが、この作品における地震の(続く)
パラレル・マザーズ ↗
2022年/スペイン 11月3日公開
監督: ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット
写真家のジャニスと17歳のアナが産院で出会い交流を深めるが、病院のミスで2人の赤ん坊は取り違えられていた。真実に気づいたジャニスは思いがけない行動に出る。アルモドバルが長年にわたって追求してきた母性というテーマと、スペインの歴史的悲劇を交錯させたヒューマンドラマ。
さとうかずみ ★★★★☆
Taul ★★★★☆
さすがに巧い語り口。シングルマザーの切ないドラマもスペイン内戦に泣いた人々の祈りも、そこには同じような想いがあり、愛の物語はどんな時でも脈々と続いていると思わせる。そんな段取り臭くなりそうな趣向を、アルモドバルとクルスの黄金コンビは軽やかささえ感じる話法で強引に見せきってしまう。抑え気味だがいつもの色彩感覚や室内デザインも楽しい。メロドラマと社会劇のリンクの妙。映画にできる訴えかけ方のひとつだろう。
まな ★★☆☆☆
相変わらずセンス抜群のビビッドな色使いや全体を通しての温かさは好感が持てるが、2人の母とお墓の問題はそれほどうまく噛み合っていたように思えない。アナがレズビアンであることを示すためにショートヘアにする必要はまったくなかったし、彼女のバックストーリーの残酷さは男性目線の都合良さを感じ居心地が悪かった。修羅場を期待していたわけではないが人間関係のあっさりした処理にも拍子抜け。
マリオン ★★★★☆
母性への執着と家族の不在を抱えた2人のシングルマザーと現在も遺恨が残るスペイン内戦の重ね方は少し強引ではある。しかし規範に囚われない連帯や女性像、真実から逃げない姿勢を称えるペドロ・アルモドバルの強い意志と美的センスにねじ伏せられてしまった。そしてアルベルト・イグレシアスの情念のこもった劇伴は聞くだけで虜になってしまう。古典的なスタイルを貫く作曲家が生み出すメロディには抗えない何かがあるのだ。
みえ ★★★☆☆
子どもとの親子関係を父親から疑われたとき。産院で同じ日に出産した2人の子どもが取り違えられたことに一方だけが気づいたとき。真実が明かされたとき。それぞれの段階で、動揺したり絶望したり支え合ったりしながら変化する2人の女性の関係と心の動きが、丁寧に描かれていて良かった。脈絡なく展開するかに見えた遺骨調査の話も、血縁やルーツに対する思いを補完するようなところが良かった。
村山章 ★★★★☆
(続き)原因は「人間が捨てた土地が寂れる」こと。自然災害と人間の業を結びつけるのって、結構危い考え方じゃないですかね。物語上の設定とはいえ、自然そのものに対して傲慢で、被災した人たちに対しても呑気で失礼に感じてしまう。映画が提示する被災地の在りし日のイメージが「幸せな核家族」ばかりなのも、多様な人生をキレイなイメージで均一化しているようで強い抵抗を覚える。『バーバリアン』は真逆で現実に起きた街の荒廃を背景に(続く)
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ↗
2022年/アメリカ 11月11日公開
監督: ライアン・クーグラー
出演:レティーシャ・ライト、アンジェラ・バセット、ダナイ・グリラ
ワカンダ国王にしてブラックパンサーのティ・チャラが急逝。妹のシュリや女王となった母ラモンダが悲嘆に暮れる間もなく、ワカンダに新たな脅威が訪れる。MCU映画30作目にして、新たに登場する海底帝国タロカンとの戦いを描いたシリーズ第二弾。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★☆☆☆☆
女性たちの頑張りではいい部分もあったが、いろんなことを語るのに精一杯でドラマもアクションも跳ねない。植民地のテーマは分かるがフリと分かる無益な戦いや話を転がすための感情の爆発など疑問が出まくりで、ワカンダの魅力も話自体も後退したように感じた。チャドウィック・ボーズマン哀悼もちょっとくどいなと見ていたら、本編を台無しにするようなオマケまで。こんな国一度つぶれてしまえ、と思ってしまった。
まな ★★☆☆☆
チャドウィック・ボーズマンに捧げ、女性たちへとリーダーシップを引き継ぐはずの物語で、ブラックパンサーを復讐に駆られ戦争へ突き進む独裁者にするとは何事か。兵士の命はティ・チャラより軽いのか。植民地主義のあおりで対立させられる周縁国の構図を描くにも展開に無理がある。全体にまで追悼の重みを背負わせず、シュリやオコエ、アネカをもっとカッコよく描くことに注力してほしかった。家父長制に逆戻りする最後にもズッコケた。
マリオン ★★★☆☆
王を失ったワカンダ国民もチャドウィック・ボーズマンの死に直面した制作陣も喪失と継承に苦心している。王を引き継いだシュリの成長が煮え切らないのは、まだ誰も区切りをつけられていないからではないか。しかし戦争を描く上で重要となる動機や外交努力に現実味が感じられず、ラストで登場する「継承」はさまざまな努力や反省を無駄にしてしまう。またアクションも凡庸で、終始トーンが重々しくて辛気臭いのも残念だった。
みえ ★★☆☆☆
ワカンダ国と同等かそれ以上の力を持つ未知の存在が現れ、世界を脅かす問題が勃発する過程で、偉大な王を失った妹君はことごとく選択を誤り、国家間の武力衝突に発展する。MCU映画なんだから戦闘シーンが必要だとは思いつつ、現実を思わせる話にしたことで独裁者の暴走と無益な戦いが目につき、追悼というより喪の気分に追い打ちをかけるようで残念だった。ワカンダ独特の衣装や米国に乗り込むときの変装などは、目に楽しかった。
村山章 ★★☆☆☆
(続き)胸くそ悪い事象ばかりを描いており、たまたまだけど『すずめ』が知らんぷりしていた部分を補足している感がある。『ワカンダ・フォーエバー』は今は亡きC・ボーズマンへの哀悼の思いは伝わるものの、王族の個人的な葛藤が国家間の戦争を左右してしまう筋立てが気になる。結果的に国民不在が際立ち、架空の国ワカンダの君主制がいかに乱暴で有害かが露呈してしまう。現実世界の写し絵を意図しているのならシビアな描写だと思うものの(続く)
すずめの戸締まり ↗
2022年/日本 11月11日公開
監督: 新海誠
出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里
宮崎県に暮らす高校生の鈴芽は、登校中に出会った青年・草太のことが気になって後を追う。草太は禍を呼び起こす不思議な「扉」を閉じてまわる「閉じ師」だった。椅子の姿に変えられてしまった草太を助けるため、鈴芽は日本を縦断する旅に出る。新海誠監督が震災をテーマに据えたファンタジーアニメ。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
Taul ★★★★☆
新海誠の災害三部作として捉えると前2作より完成度は劣るもののひとつの締めくくりとして納得。震災の捉え方や脚本の雑さで引っかかるところはあるが、負のシンボルを文字どおり乗り越え未来に向かう姿を見せたのは若い層向けのエンタメとして意義深いように思う。また自己を肯定する癒しを描いたのは現代的だしあの映画的な表現も好み。日本的ヒットメイカー新海監督には次はよりセカイではなく世界に目を向けてほしい。
まな ★☆☆☆☆
人物描写の浅さや展開のバランスの悪さ、ご都合主義とキモさ(『君の名は。』しか新海作品は観てないが同等にキモい)に加え、震災周辺の設定の甘さに怒りというより失意を覚えた。なぜ被災地とほかの廃墟を同列に語れると思ったのか。なぜ地震を人の手で防げるものかのように描いたのか。やはり個人とセカイの間に色々と抜けているものがあるのでは。神道や天皇への無邪気な傾倒も徹底的に合わない。
マリオン ★★★★★
風景への慈しみや絶対的な断絶と忘却、他者との距離感を描いてきた新海誠が男目線な自意識や恋愛感情を極力抑え、自分自身で喪失と向き合いながらさまざまな繋がりを見出していく姿を描いてくれたことが長年のファンとしてとても感動的だった。記憶が刻まれた場所を悼み、忘れずに心に留める。そして人はまた繋がりや居場所を抱き、人生を歩んでいく。「セカイ」から「世界」に羽ばたく新海誠をこれからも追いかけていきたい。
みえ ★★☆☆☆
あの大震災から、どうにも忘れられない悲しい記憶に、何らかの理由をつけてでも前に進みたい。理由なんてないはずの理不尽な出来事を消化して納得するために、すがるような思いで用意した理由。そういう話だろうか。そうでもなければ、あの大震災をこんなふうに取り上げることへの違和感が勝ってしまう。リアルに描かれる街並みや旅の途中での出会いが、誰かの悲しい出来事を乗り越える一助になるのなら、良いのかもしれない。
村山章 ★★☆☆☆
(続き)ある人物の王位継承を示唆するラストを見る限り、そこまで深く考えて作られてるとは思えないんだよなあ。『パラレル・マザーズ』は赤ん坊の取り違えから生まれる一見よくあるメロドラマと、スペイン内戦の悲劇を忘れないという力強い主張がウルトラC的な強引さで融合。いかにもアルモドバルらしい力技に唸った。そして今回一番響いたのが、アンバランスで奇妙な終末譚『サイレント・ナイト』。世界の終りをただ受け入れる大人たちの(続く)
サイレント・ナイト ↗
2022年/イギリス 11月18日公開
監督: カミラ・グリフィン
出演:キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ローマン・グリフィン・デイヴィス
クリスマスパーティーのために田舎の屋敷に集まった大学時代の友人たちと、それぞれのパートナーや子どもたち。彼らの真の目的は、人類滅亡を目前にして最期の時間をともに過ごすことだった……。現代社会への風刺を込めて「世界の終わり」を描いた群像劇。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★☆☆☆☆
地球最後のクリスマスイブに集まる家族たち。『エンド・オブ・ザ・ワールド』に続いて世界の終りとは無縁のような美しいキーラ・ナイトレイが主演。ブラックな設定の中コメディ、社会批判、感動のドラマが混ざりあうわけだが、終焉の危機感が希薄だしテイストが曖昧過ぎてまったくのれなかった。嫌味映画の意図があるにせよエピソードや会話の流れが下手でそこは致命的な問題のように思える。
まな ★☆☆☆☆
豪華なキャストとは対象的に物語は虚無。設定から無理があり終始入り込めず。特権や環境問題は深堀りせず、皆が段々とぶちまけ出す本音にもなんの面白みもない。ひとりシステムに疑問を呈するのが子どもでそれを監督の息子が演じる構図にも白ける。
マリオン ★☆☆☆☆
問題を先延ばしにした大人たちが、自分たちの都合で未来ある子どもたちに代償を迫り、醜態を晒し続ける姿は身勝手な特権側への問いかけである。しかし映画の方向性が定まってないため、どこまでも薄っぺらい。皮肉な現実を滑稽に描くのか。それともシリアスに描くのか。制作陣の姿勢が不明瞭だからテーマの描き方が浅くなるし、映画としても面白いものにならない。中途半端なくせに問題提起をしたと思い込むのはやめてほしい。
みえ ★★★☆☆
国家規模で決定された避けられない死を目前にして、仲間うちで過ごす最期の夜。そのとき、提示された運命を否応なく受け入れるのか、自分なりに別の選択をするのか。そんな価値観や行動の違いが描かれる群像劇が良かった。最後の晩餐なのに、取るに足らない諍いや遊興に明け暮れながら既定路線に乗せられる多数派と、異を唱えるも聞き入れられない少数派の構図も、現実そのものだからこそ、やるせなく思う一方で面白く観た。
村山章 ★★★★☆
(続き)煮えきらなさは現代の、とりわけじりじりと閉塞感が増す日本のリアルともたやすく繋がる。劇中では“緩やかな滅び”に若い世代が抵抗を試みるが、何もできなかった、いや、何もしなかった大人たちのみっともなさもするっと受けとめている自分がいて、ああもうこっちも終わりに近い側なんだなと気づく。作品の根底には怒りがあると思うが、本作のしみったれ感はなかなかに得難い。でも若い人にはこの映画を嫌って欲しい。勝手だけど。おしまい。