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マイ・ブロークン・マリコ ↗
2022年/日本 9月30日公開
監督:タナダユキ
出演:永野芽郁、奈緒、窪田正孝
第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞に輝いた平庫ワカの同名漫画を映画化。いささかやさぐれた営業職の女性シイノが、ニュースで幼なじみの親友のマリコが自殺したと知り、マリコの親から遺骨を奪って弔いの旅に出る。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★☆☆☆
あの力強い漫画を実写化するキャストや舞台選びはそう悪くなかった。永野芽郁はピュアで若すぎるがやさぐれ感を頑張って体現してて応援したくなる。スナフキンみたいな人物も窪田正孝で違和感ない存在に。ただ激しい感傷を全面に出す漫画のリアリティをそのまま映画に持ってきたのは疑問。キャラも展開も不自然で鬱陶しいし物語性が欠如していて物足りない。映画が持つ表現力から逃げた作品と感じてしまった。
まな ★☆☆☆☆
漫画のようなキャラ造形やワントーンな叫び方、ご都合主義が観るに耐えない。マリコの辛さ、主人公とマリコの関係だけに話が終始していて深みが足りない。主人公役はもう少し年上のやさぐれた演技の似合う俳優が良かったのでは。メシをかっこんでも酔っ払っても海辺で気絶しててもずっと綺麗で違和感。吉田羊も。
マリオン ★★★☆☆
やり場のない喪失感と2人にしか分からない絆が映画を支配している。女優たちのむき出しで壊れそうな演技も素晴らしく、整理のつかない感情があふれ出す原作を最良のやり方で映画にしたと思う。しかしもっとハードボイルドな傑作になれたのではないか。ドロドロした感情や匂い立つ人間味がもっとあふれ出してほしかったし、2人の人生を想像させる余白がほしかった。2人の関係性に対して今作は無難で綺麗すぎる。惜しい。
みえ ★★☆☆☆
言いたいことは理解できる。でもなぜか響かなかった。幼少期からの虐待がもとで自ら傷つく環境にばかり身を投じてきたマリコの、能面のように張りついた笑顔。唯一の親友の死を受け入れられず暴走するシイノ。これらが頭では理解できるのに響かないのは、こういう共依存関係にありがちな、病的なまでの切実さを感じられなかったからか。重くなりすぎない見せ方が裏目に出たような気がして、もったいなく思えた。
村山章 ★★☆☆☆
原作マンガは現実の醜さを秀逸にデフォルメしていたと思うのだが、うまく実写に落ちてない、もしくは映像としての面白さにまで達していない。特に2回あるジャンプの瞬間になにかが動き出す奇跡を感じられないのが残念。奈緒は「複雑な役の多面性すべて見せます!」という覚悟が伝わる熱演だが、余計に「演技」として認識してしまう矛盾が生じていて上手さとはなんなのかと考え込む。逆に永野芽郁は堂々と虚構を背負っていて得がたい主演感があった。
スペンサー ダイアナの決意 ↗
2021年/ドイツ=イギリス
9月9日公開
監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート
ダイアナ妃がチャールズ皇太子(現チャールズ3世)との結婚生活に行き詰まっていた1991年。女王の邸宅で王室の面々と過ごすクリスマス休暇の3日間を、史実にインスパイアされたフィクションとして描く。
さとうかずみ ★★☆☆☆
Taul ★★★☆☆
ダイアナ妃を題材にした寓話劇。離宮に幽閉されたようなクリスマスの3日間、自己の存在を問うプリンセスの心理状態をホラー味もいれて描く。撮影、音楽、美術など凝った映像の中、クリステン・スチュワートの美しいなりきり芸が舞う。タイトルにも繋がる生家を使った工夫はいいが意外と単純な葛藤に帰結した感じも。故人の尊重という観点からすると無邪気に面白がれない気もするが、映画的な語り口はなかなかの出来だった。
まな ★☆☆☆☆
実在の故人、しかも近しい家族がまだ存命の人を殉教者のように概念化しその人生の特に辛い時期を物語に利用するグロテスクさ。クリステン・スチュワートの演技は最初はまるで別人だが、時間が経つにつれやはりモノマネ感と一本調子が気になってくる。そのおかげかそれぞれは巧みなスコアや撮影もアンサンブル感が出ず。
マリオン ★★★★☆
ニューロティックな演出や美しい撮影、上品で不吉な劇伴、クリステン・スチュワートの演技などすべてが一級品で見惚れてしまう。そしてダイアナの苦悩と解放を寓話として描くことで私たちはようやく彼女に寄り添うことができたと言える。ただダイアナが謎めいた存在なのは誰も本当の彼女を見ようとせず、身勝手に何かを押し付けてきたからではないか。今作の寓話性が彼女に身勝手な想いをさらに背負わせていることには留意したい。
みえ ★★★☆☆
ダイアナ元妃の追い詰められていく姿を描くこの作品は、「実話に基づく寓話」といった断り書きが冒頭に入り、どこまでが真実かわからない。その点は度外視した上で、現実認識が危うくなるほど混乱する彼女の精神状態を、観客に体感させるような見せ方が面白かった。引きちぎったはずの真珠の首飾りや自傷したはずの腕を、次の場面で何事もなく元通りに映す見せ方や、感情を代弁するように悲痛に響く音楽に、引き込まれた。
村山章 ★★★☆☆
冒頭で「寓話」と謳ってるように、いびつなシステムの中で喘ぐ女性にフィクションの力で解放の瞬間を与えたい、という意図はわかる(懐かしい曲をありがとう!)。作品としてのクオリティは高い一方で、ダイアナの実人生を重ねないわけにはいられず、あの展開がかりそめの希望でしかないことも痛感する。そのことは『卒業』を思わせる最後の表情から監督も織り込み済みだと思うが、じゃあ誰のための物語なのか、どうもしっくりこない。
ロザライン ↗
2022年/アメリカ
ディズニープラスで配信中
監督:カレン・メイン
出演:ケイトリン・デヴァー、イザベラ・モナー
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』に名前だけ登場するロミオの元カノが、ロミオとジュリエットの世紀の恋を邪魔しようと奮闘するロマンチックコメディ。
さとうかずみ ★★★☆☆
Taul ★★★☆☆
元ネタの古典の時代設定はそのままに主人公の価値観や生き方を現代的にアップデート。そのギャップから生まれる笑いや批評性からエンパワーメントに繋げる定番の面白さ。ケイトリン・デヴァーが出ずっぱりで芸達者さと可愛さでドラマを引っ張り、血なまぐさい悲劇がキュートなコメディに変身。1本の映画としては平凡で物足りないが配信で気軽に見る分には丁度いいかも。ジ・エンド後のワンシーンが一番笑った。
まな ★★★☆☆
古典に現代的な目線でツッコむコメディックなトーンも可愛い衣装もラブコメ定番曲をアレンジしたサントラも楽しかったが、もっと思い切った演出や捻りがほしかった。現実では嫉妬に駆られた女にこんなに都合の良い後釜は現れない。原作モノなので仕方ない部分もあるが、結末の見えるラブコメではなく一人で暴走した後一体どうなるの?!という観たことのない話を期待してしまった。
マリオン ★★★☆☆
『ロミオとジュリエット』に『高慢と偏見』を足した王道ロマンスよくばりセットにフェミニズムも盛り込んだ楽しい1本。恋の妨害工作から現代的な視点や皮肉が浮かび上がるのが面白く、誰もが知る悲劇がどんどん茶番劇になるのもキュートで微笑ましい。ケイトリン・デヴァーの飄々とした演技もよかった。ただロミオはクズすぎるのでロザラインから一回殴られたほうがいい。あとジュリエットとも絶対破局すると思う。間違いない。
みえ ★★★☆☆
ロミオとジュリエットの物語の周辺で、ジュリエットの従姉妹ロザラインの恋を描いた本作は、あの悲劇のそばで実はこんなことが起こっていたのかもしれないと思わせられる嬉しい驚きに満ちたコメディだった。ロザラインからあっさりとジュリエットに乗り換えるロミオに、未練やプライドや強がりが目まぐるしく現れるロザラインなど、魅力的すぎる登場人物を軸に、軽妙に滑稽に転がっていくコメディを、久しぶりに堪能した。
村山章 ★★★★☆
オールドスクールのロマコメ調で特に新鮮味はないけれど、シェイクスピアの古典を遊び心たっぷりに語り直す試みは楽しい。コメディの才能を発揮しまくる主演のケイトリン・デヴァーの所作と顔芸を眺めているだけでほぼ満足だし、ジュリエット役のイザベラ・メルセードも好演で、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の麻薬カルテルの娘だと後から気づいて驚いた。ロミオを徹底して“安いイケメン”として描いた毒っ気は予想を超える踏み込み。
RRR ↗
2022年/インド 10月21日公開
監督:S・S・ラージャマウリ
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr.、ラーム・チャラン
インド映画史上最高額の製作費を投じて描くアクション満載の歴史絵巻。植民地時代のインド。権力者に連れ去られた少女を取り返そうとする戦士ビームと、植民地政府に仕える警官ラーマの友情と対立を描く。
さとうかずみ ★★★★★
Taul ★★★★★
映画を見ていて楽しくて思わず声を上げたのはいつ以来だろう。2人の紹介や出会いをほぼ台詞なしで見せきる馬鹿げた活劇に魅了され、作品テーマさえ愉快に語るナートゥダンスで爆上がりだ。派手なだけでなく本作は実に緻密かつ雄弁。アクション、歌、ダンスとも伏線と回収があるし、インド独立の意志を継ぐ説得力もある。ヒット作連発の監督と2大スターによる熱すぎる一大娯楽。友情も、使命も、エンタメも君らのものだ。
まな ★★★★☆
あうんの呼吸どころではない2人の相性の良さはクィアリーディングの余地ありありだし、インドの国家プロパガンダ的にも使われてしまっているそうだし、相変わらずの冗長さとか白人キャラの抜群の安っぽさとか考えること気になることはいろいろあれどもうすべてを凌駕するナートゥダンス
マリオン ★★★★☆
すべてが濃密で見終わった頃には「楽しかった」という感情しか思い出せなかった。運命的な絆で結ばれた2人の男がすれ違いながらも他国の領土を蹂躙するイギリスを打ち倒す姿は神話のように神々しく、アクロバティックなアクションやダイナミックなダンス、ドラマチックな演出に打ちのめされるばかりだ。インド映画が持つ規格外なエンターテインメント性はいつも圧倒的で、なんでもアリにしてしまうのが憎たらしいほどズルい。
みえ ★★★★☆
インド映画に期待する踊りと歌とアクションを、これでもかと見せてくれる3時間。2人の男がそれぞれに背負う人生がぶつかり合い重なり合うこの物語には、この長尺が必要で、ラストまでグイグイ引っ張られる。『バーフバリ』シリーズに見た興奮に加え、英国とインドの植民地時代の歴史にも触れながら、男たちの熱い戦いをアクションエンターテインメントとして見せきるこの作品、映画館で映画を観た!という満足感がすさまじかった。
村山章 ★★★★☆
とにかくバカげて激アツなクライマックスだけでできている。インド映画の濃厚サービスがさらに凝縮され、序盤の1対1000人バトルだけで心が浄化されるような快楽アリ。ただいくらヒゲ2人の絆が核とはいえ、前作『バーフバリ』に比べて女性が添え物的な扱いに留まっているのは残念。かといって力押しだけの映画ではなく、驚異肩車合体の丁寧な前フリ(ダンス後のおんぶ)や、苦難の歴史への思いを感じる「読み書き」にまつわるセリフにジンとくる。
アフター・ヤン ↗
2022年/アメリカ 10月21日公開
監督:コゴナダ
出演:コリン・ファレル、ジャスティン・H・ミン
ある日突然子守りロボットのヤンが停止し、一家の父親のジェイクは修理しようと奔走しながら、映像の断片として記録されていたヤンの記憶をたどっていく。哲学SFの趣きがある静謐なヒューマンドラマ。
さとうかずみ ★☆☆☆☆
Taul ★★★★☆
『コロンバス』で小津安二郎オマージュたっぷりの技巧と素朴なドラマに魅せられたコゴナダ監督。2作目はSF要素を用いてさまざまなカテゴリーを超える人の想いを静かに語る。「あの時の君は」的なよくある仕掛けだがやはり感動的だしAI表現の深化も見てとれた。小津の構図、岩井俊二の鮮明さ、是枝裕和の演出など映画の記憶で作品世界と繋がったような余韻。映像と記憶の話でもありそんな感覚もこの作品の魅力の一つだろう。
まな ★★☆☆☆
AI役のジャスティン・H・ミンは『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』のダン・スティーヴンスに並ぶ静かな名演。リリィ・シュシュの映画自体はほとんど覚えていないのだが、劇中で口ずさまれる彼女の曲やMitskiによるカバーも感慨深い。しかし好きになりたいと思わせるがなれない居心地の悪さは監督の前作『コロンバス』に似た女性像やモノ言えぬAIの記憶の覗き見、オリエンタリズムの香る世界観のせいだろう。
マリオン ★★★★★
動かなくなったAIロボットに残された何気ない記憶や風景に涙が止まらなかった。それは自分の証が誰かの記憶に溶け合っていてほしいという願いに触れるからだ。あらゆる事象が不確かになり、孤独や喪失に包まれた世界で記憶は誰かとの繋がりを感じさせてくれる。小津安二郎から影響を受けた構図や『リリイ・シュシュのすべて』の引用、Aska Matsumiyaと坂本龍一による劇伴まですべてが美しく、そして優しかった。
みえ ★★☆☆☆
AIやクローンは購入者の所有物か、個として尊重されるべき存在か。例えばヤンを数百年前の奴隷に置き換えれば、そんな問いが見えてくるこの作品において、あからさまにヤンをモノとして見る人から家族の一員として扱う人まで、価値観の振れ幅が描かれる点は良かった。しかしそこは掘り下げられず、自我の片鱗を見せるヤンの記憶(記録)を感傷的な映像と音楽でたどるさまが、私には故人の尊厳への冒涜に思えてならなかった。
村山章 ★★☆☆☆
良くも悪くも悪くも良くも、オシャレでエモい「トイ・ストーリー」。先端技術と現代の消費文化を皮肉った現実のダークなパロディとしても機能しているのだが、最終的にはメロウなセンチメンタリズムに押し流されてしまう印象。それもまた大きな皮肉だとしたらかなり意地悪で食えない映画だが、ど直球な音楽の使い方などから考えればおそらく買いかぶりでしょう。ただ本質はベタなメロドラマだと思うので、メロウでセンチなのが悪いってわけでもない。





